107 聖樹降誕
王城の中は慌ただしく報告が飛び交っていた。
「東区画Cブロック、B級の魔物ディアスパイダーを複数確認、対処に当たっているとのことです!」
「南区画Bブロック、フェンウルフの大群を確認。一部街への侵入を許してしまったとのことですが、冒険者と協力し対処が完了したと報告がありました!」
「北区画Dブロック付近の上空で飛行する魔物を視認、街には向かってきていないようですが、未だ上空を飛び続けているとのことです!」
各区画に配備された騎士団から各種契約を通して伝えられたそれらはアルストロメリア周辺の状況を伝えるものだった。
今回、魔王の襲撃に当たり急遽組まれた作戦では協同で行いつつも国に仕える騎士団とギルドに所属する冒険者で役割が大きく分けられていた。
国や街を守ることを主体とし、集団での戦いを得意とする騎士団の面々は魔王の影響を受けて活発化した魔物への対処を行い街を守ることといった主に外からの脅威に対しての対応が任されていた。障壁が破壊された今、被害は相当なものが予想されていた。
そして様々な依頼を受け、街の中にある程度溶け込んでおり、個人や小人数での戦闘を得意とする冒険者には住民の避難や安全の確保など街の中での対応を任されていた。
国に仕える騎士団と荒くれ者が多いギルドの冒険者とでは仲が悪い国もあるのだが、アルトフェリア王国では、特に王都であるアルストロメリアではギルドマスターが元々国に仕えていたこともあり、連携はしっかりととれていた。
それに下手をすれば街が、一国が滅びかねない魔王の襲撃なのだ。身内で仲違いをしている暇などなかった。
だが、騎士団にとっては既に魔王が街の中に侵入した状態。それで街の外からの脅威から守って何になると集中できない者が多くいた。
それは特に魔物の襲撃が多く予想された南区画Aブロックを任された騎士団“赤翅”の副団長ルドウィックも同じだった。
「くそっ! これじゃキリがない!」
「ま、また街の中で爆発が……」
「前のことに集中しろ!」
「で、でもよぉ……」
部下を叱責するが、今すぐ街中に戻って住民を守る為に戦いたい、その思いはルドウィックとて同じだった。それでも自分たちがここを離れれば魔物は間違いなく街中へ侵入する。そうなれば魔王とは別の被害が拡大するのは目に見えているのだ。
それに……
「俺たちが街へ向かったとして何ができる!? 魔王と……勇者ですら手を焼く魔王相手に立ち向かえるのか!?」
「そ、それは……」
「なら、今は与えられた任を果たすことだけを考えろ! そうすれば必ず……彼女たちが……《勇者の楽園》の方々が役目を果たしてくれる!」
「あ、あぁ、そうだよな」
行っても役に立てないなら、せめてでも与えられた仕事をこなす。それすらできなければもはや何の為に騎士団に入ったのかわからなくなってしまう。
既に魔王の侵入を許してしまっている。だが、それで全てが終わるわけではない。きっとこの戦いが意味あるものだと信じて、ルドウィックは目の前に現れた蜘蛛型の魔物、本来であれば街の特産物である糸を生み出す共存関係にあったディアスパイダーの身を斬り裂いた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その頃、南の森の問題でカドラックへと向かっていた騎士団長オルテミデア・ガブロから国王へとひとつの凶報が届けられた。
「今……何と言った……!?」
「陛下、どうか気を確かに……」
「これが、冷静でいられると思うのか……? お主は今、何と言ったのだ!?」
もたらされた報告に怒声で返す国王に、ルフェウスが落ち着かせようと自身も同様に動揺しつつも声をかける。だが、国王は信じない、信じたくないと言った表情できっと聞き間違いだと再度の報告を促した。
それを受け、報告に来た兵士は震える手で再度報告書を読み上げた。
「はっ……、先ほどライアミッツ王国の辺境都市カドラックへと向かわれたオルテミデア騎士団長より報告が……あり……ました。カドラックについた時点で南の森にて盛大な爆発があり……森はほぼ全焼……、ライアミッツの騎士団“曇烏”も重傷を負ったとのこと……です。そして、その森には……その……アシュリア王女殿下が魔物の氾濫の原因を探る為……に向かっ……向かわれた、後……お戻りになられて……いない……そう……で、す」
「……………………」
報告を終えた後、兵士は今にも泣き出しそうな顔をしつつも報告書をパサリと降ろし、敬礼の姿勢をとった。再度の報告を聞き終えた国王……アルトハイデンは力なく玉座に腰を降ろし、頭を抱えた。
ルフェウスの声に出さない合図を受け、報告を告げた兵士も部屋を後にした。
「ルフェウス……私は間違っていたのか……?」
「いえ、そんなことは……」
「カナンはレイカ王国へ視察に、ジルベルトはルルフェミア聖国で学業に励んでいるはずだ。チェリカとエルヴィナも嫁ぎもう国を出ている。カーラ亡き今、残るのは私とアシュリアだけだ」
カナンはアルトフェリアの第一王子、ジルベルトは第二王子だった。ジルベルトは元より将来国王となるカナンの補佐を行う為に知見を広げる目的で学園に通っていた。カナンは魔王の噂が出た時点で長期の視察に送り出していた。
チェリカは第一王女だ。第二王女であるエルヴィナも含めて既に他領の貴族の元へ嫁いでおり、アルストロメリアには残っていなかった。王妃であるカーラは3年前に既に亡くなっている。その為、今王の元に残っている王族は第三王女であるアシュリアだけだった。
だが、国王はアシュリアを我が子として愛していた。自分と一緒に国と人生を共にさせる気はなかった。その為に遠い地であるライアミッツ王国まで、アシュリア自身が納得できる形で逃がしたのだ。
多少の危険は承知していた。だが、ここよりはマシだと、アシュリアの力なら問題なく対処できるものだと判断していた。だが、もたらされた報告は到底許容できないものだった。
王の問いに頷くことはルフェウスにはできなかった。なぜならそれを提案したのはルフェウス自身に他ならなかったからだ。最終的に決断を下したのは国王自身であるとはいえ、自分が提案さえしなければこの事態を招くこともなかった。
だが、ルフェウスとて今の報告を信じることはできないでいた。いや、信じる以前に、答えを出すには早急だと感じていた。
「ですが陛下。姫様にはあの少年からいただいた天使の遺産があります。それに、姫様なら彼の家へ転移することもできたはずです」
「……! そうか、そう、だったな……」
あまりにも報告にきた兵士が悲痛の表情で報告を述べていた為、その力について失念していた国王はどこか安堵するように背もたれに身を預けた。
だが、それも確認することはできない。レクトルの家へ転移する権限を持つのはアシュリアのみなのだ。本当に無事なのか、国王は完全には安堵することはできなかった。
「……っ!」
「これは……」
その時、王城を大きな振動が襲った。街中では未だに魔王とギルドマスターや勇者一向の戦闘が続いていた。その余波は途切れることなく大地を揺るがしていた。
その現状に歯噛みする。
「……勝てると思うか?」
「こればかりは、なんとも……」
過去、勇者リサがまだ表舞台に出てきていた時でさえ魔王相手に被った被害は相当なものだった。完全討伐されたのは南の魔王アマイモンのみで、北の魔王アリトンは未だ封印状態にある。
そして今集まったのは勇者リサ不在の《勇者の楽園》のメンバーがたった5人だけ。アマイモンを討伐した際の勇者とその仲間が数十人いた時と比べれば天と地ほどの差があった。
東の魔王は4人の魔王の中でも最弱と言われてはいたが、それでも魔王。それに、記録が残っている時からかなりの時が経過している。
戦力として十分かと問われれば、ルフェウスには否と答えることしかできなかっただろう。
それでも逃げ出すことをしないのは一重にこの国を、国王を慕っているからだ。国王がこの国と身を共にするというのであれば、ルフェウスもそれに従うだけだった。
その時、王城から見える街中に暗い影が差した。それは徐々に広がり、街全体を覆い隠していく。どこから見ても不吉なそれはだが、国王には見覚えがあった。
「ぬっ! あれは……!?」
「まさか……!」
玉座から飛び出し、バルコニーに出てそれを確かめる。魔王と戦っている場所を中心に広がるそれは無数に煌めく星を内包した漆黒の夜空。不吉な闇を連想させながら、凝視すれば感嘆の声を漏らしてしまうほど美しい不思議な光景。
「あれは西の森に現れた……まさか彼が!?」
指導狂……ギルドマスターであるロイエンから報告を受けていた国王はあの闇が、夜空がレクトルが持つ力だろうという推測を耳にしていた。
直接確かめたわけではない。だが、確信に近い思いをロイエンは持っていた。
魔王を、そして天使を仲間に迎える不思議な少年。彼がここにいるのであれば、やはりアシュリアは無事なのだろうかと期待が膨らむ。
その時、幾重もの星が煌めく夜空の元でひと際大きな光が瞬いた。先ほどから幾度となく落ちている雷とは異なる、ひとつの光。
その光は徐々に大きく……
「いや、違う! こちらに飛んできているのか!?」
「陛下……!」
それはバチバチバチと激しい稲妻を迸らせながら王城へと迫っていた。それに気付いた国王が後ずさり、ルフェウスが退避を試みる。
だが、ルフェウスが使用できる転移の力は週に一度が限界。その力も今朝がたアシュリアをカドラックに送り届けるのに使用したばかりだった。無駄とわかりつつも障壁を展開する。
するとバルコニーの一部が光り輝き、1人の少女が突如飛び出してきた。
「な、なんだ!?」
「お父様……!」
「アシュリア!? 無事だったのか!」
そこにいたのは国王の愛娘、アルトフェリア王国の第三王女アシュリアだった。その姿を捉え、国王は歓喜にうち震える。だが、そのアシュリアの表情は芳しくない。
レクトル達がいた場所から魔王の攻撃対象が王城であることを知って、創作世界を経由して国王の元へと転移してきたのだった。
アシュリアは父親の、国王の姿を見つけるとすぐさま駆け寄り創作世界への転移を再度実行しようとした。
そこでふと、隣にいたルフェウスの姿が目に入った。同様に、部屋の奥には慌てふためく侍女の姿が、バルコニーから下を覗けば国王を、国を守る為に奔走する兵士の姿が映った。
「……っ!」
その者たちを置いて自分たちだけ逃げるのか?
そんな選択を、アシュリアはとることができなかった。かといってここにいる全員を創作世界に転移させることもできない。
そんな迷いに囚われている間に、ペペルティアが放った雷球はもう王城の目の前まで迫っていた。
「ダメーーーーーーー!!!」
「アシュリア!」
アシュリアは国王を庇うように前に手を広げて立ち塞がった。それに慌てて国王がアシュリアを下がらせようとした時、再び王城を激しい揺れが襲った。
「こ、今度は何だ!?」
「陛下!」
「なっ!?」
「え?」
突如、王城を囲んでいた水堀から何かが勢いよく立ちあがった。直径何mあるのかというそれは樹の幹だった。王城を囲むようにいくつも立ち上がったそれは捻じれ、蠢き、渦巻くように一つにまとまり、なおも成長を続けていた。
そこにペペルティアが放った雷球が直撃するが、まるで蚊にでも刺されたかと言わんばかりに少し表面が焦げた程度で勢いに変化は感じられない。その焦げですらグングン成長する新しい幹に覆われ見えなくなっていく。
「なんなのだこれは!?」
「まさか……何故、こんなところに!?」
狼狽する国王に対し、ルフェウスは自身の力で樹の正体を見極める為に固有スキルを発動させていた。そしてその正体に、信じられないと目を見開く。
上空へと立ち昇っていた幹は高さ100mに到達したであろうところで途中で広がるように枝を生やしていく。そこには緑が宿り、いくつもの色とりどりの花を咲かせた。
「きれい……」
その光景に、アシュリアは思わず感嘆の声をこぼした。王城はすっぽりと樹の中に収まる形になりはしたが、そこにはいくらかの隙間ができていた。天井部分も吹き抜けになっており、無数に生えた枝と葉の間から木漏れ日が降り注ぐ。
勢いよく成長したからか、咲いたばかりの花から抜け落ちたであろう花びらが舞っていた。そして樹全体が薄っすらと、ほのかに発光していた。それは温かい、どこか安心すら覚える光だった。
さっきまでの焦りは消え、何の為にここに駆け付けたのかも忘れてアシュリアはその光景にただただ見入っていた。
「聖樹……」
「何っ?」
その樹を眺めていたルフェウスがボソリと呟いた。それはルフェウスの力によって判明した突如生えてきた巨大な樹の正体だった。
その呟きに国王が反応する。
「これが聖樹だと……? だが、あれはエルフが住まう“精霊の聖地”にあるはずではなかったか? ここでは条件が合わないだろう」
「それは恐らく……」
「ん……?」
ルフェウスは視線をアシュリアへと移した。国王もそれを追う。その視線に気付いたアシュリアはルフェウスへと向き直るが、無言のまま何も言わないルフェウスと国王に対し、コテンとただ首を傾げるだけだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『ギャオオオオオオオオオ!!』
ペペルティアが放った攻撃が突如王城を覆うように出現した謎の樹によって阻まれたことで、まるでうまくいかない現状に駄々をこねる子供のように咆哮を上げた。
「まさかアシュリア王女が……? あの【星屑の涙】に込められた固有スキル……【神聖成樹】を発動させたのか……!?」
その光景に、レクトルはすぐに見当がついた。その力は自身を神聖化することで格を上げ、悪意ある者から攻撃対象として定められることがなくなるというものだけにとどまらない。
【聖樹降誕】。本来星に、世界に満ちる魔力を生み出し、神聖なる空間を生み出す聖樹を誕生させるという途轍もないものだった。聖樹が生えた場所は清浄の地となり、不浄な者は寄り付くことができなくなる。
今この世界に生えている聖樹はエルフが住まうイルフェムラ大森林ただひとつと言うのだから、その力の凄まじさが窺い知れるというものだった。
だが、【神聖成樹】を以てしても無尽蔵に聖樹を生み出せるというわけではなかった。魔力を生み出す樹というのはそれだけで途轍もない力を発揮する。
それが可能となればこの世界に起きている魔力不足による星の寿命問題も解決するからだ。
聖樹を生み出すには途方もなく膨大な魔力と、そして清き心が必要だった。悪に染まることのない、神聖なる思い。それこそアシュリアが願った自身を犠牲にしてでも大切な者を、国を守り抜くという強き思いのような……
故に、アシュリアの親である国王がいる故郷たるアルストロメリア以外の地には根を降ろすことはできないだろう。他の地でも同様の思いを持っていたとしても、自身の故郷を思う気持ちには遠く及ばない。
叶うとすれば、それは身内か、もしくは長く共にいたリスティやレアなどの大切な者を守る思いくらいのものだった。
だからレクトルも油断していた。契約も交わしていないのでレクトルの魔力も共有していないはずだった。
だが、現実にはアシュリアとレクトルの間には契約が結ばれ、魔力の供給が行われている。そうでなければそもそも【星屑の涙】自体が効力を発揮しないのだから。
「まったく……この契約の仕様はどうにかならないのか? でも、これはチャンスか……」
毎度のように勝手に結ばれる自身が把握していない契約に嫌気がさすレクトル。しかもそれが自身の魔力を共有するような本来であればデメリットになりそうな契約ばかりなのだ。それが自分のあずかり知らぬところで勝手に結ばれている。
魔力に関しては無限に近い量を持っている為文句があるわけではない。だが、契約自体が相手の人生を変える、もしくは縛るようなものだったりするのだから堪らない。
だが、今の状況はチャンスと言えた。余計なことに思考を回している場合ではないとレクトルは行動に移した。いい加減、この戦いを終わらせる為に。ベルやサクラを傷つけた報いを受けさせるために。
「ベル!」
「わかってるわ! 【霊怨手】!」
レクトルの声に応え、今度はベルがペペルティアを拘束せんと魔術を行使する。怨嗟の籠った黒き地獄への誘いの手がペペルティアに絡みつくようにまとわりつく。その魔術には当然のように【怠惰】の力が込められていた。
だが、ペペルティアもただでやられる気はないらしく、【嫉妬】の力を発動させた。その力は【霊怨手】の力を乱し、いくつかの手は宙を彷徨うようにフラフラとたゆたっていた。
「このっ!」
ペペルティアを拘束していた力も徐々に弱まっていく。ベルが【怠惰】の力でペペルティアの力を弱めるよりも、拘束を解き、自身を【憤怒】の力で強化するペペルティアの方が早かった。
「【緋焔】!」
また拘束が破られる。レクトルとベルがそう思った瞬間、ペペルティアを炎の斬撃が直撃した。障壁の抵抗をまるで感じさせず放たれた斬撃はペペルティアの思考を乱し、抵抗を弱めた。
「ナイスよサクラ!」
その隙にベルが抵抗の間を与えることなく雁字搦めにしていく。
「なぁ、ベル! どうすればあの魔王にとどめをさせるんだ?」
「知らないわよ。禁呪でも放てば跡形もなく消えるんじゃない?」
「禁呪……禁呪ね……」
「え?」
先ほどトドメにと放った【落陽煌】はペペルティアに一度受け止められていた。EX級の星の魔術ですら耐えられたのだ。
もちろん、レクトル自身被害を抑える為に力を抑えてはいた。そうでなければ数千、数万度にも及ぶ熱量は周囲の水分を一滴も残さず蒸発させ、大地を焼き尽くし、アルトフェリア王国を地図から消し去っていたかもしれないのだ。
だが、それでも魔術の内側、そのエネルギーの集合体自体はその力が惜しみなく込められていた。それをペペルティアは受けきったのだ。それだけではない。隙を見つけ、そこから脱出さえ行って見せた。
そんな魔王を……魔幻獣を完全に消し去るにはどうすればいいか。
ベルがもたらした答えは至極単純なものだった。EX級でダメならそれ以上の攻撃を行えばいい。普通であれば、EX級を超える攻撃などあるわけがないと一蹴されるだろう。
だが、レクトルは違った。
EX級を超えるEX+に分類される禁呪の魔術を、最初に星の魔術を生み出しリストを確認した際に目にしていたからだ。
「あまねく宇宙にたゆたう無限の中に眠りし始まりを祝う者よ、終焉を告げる者よ……」
「ちょ、ちょっと……?」
手をペペルティアに向けて翳し、不吉な詠唱を始めた主に対しベルは「冗談よね?」と信じられない瞳で見つめていた。
「“炎”を核とし、“大地”よ集え。“氷”を砕きて、“大気”を纏え」
レクトルの詠唱に従い、レクトルの手の先に炎が膨れ上がり、それを大地が包み込む。そして氷が解けて水となりさらに大気を纏ったそれは、もはや凝縮された一つの星そのものと言えた。
「“自然”が芽吹いたその先に、いずれ訪れる未来を招き誘え」
「嘘でしょ……いえ、ちょっと待って!」
ベルにとってレクトルに言ったのはあくまで冗談に近いものだった。まさかレクトルが禁呪まで使えるとは思っていなかったのだ。ベルにすら聞いたことがない詠唱。だが、レクトルの手に集う力はペペルティアが放った雷球とは比べ物にならないものであるとすぐに理解できた。
そしてそれが齎すであろう結果に、あることを思い出し制しの声を上げるが禁呪の詠唱に、制御に集中しているレクトルには届かない。周囲に展開された見たこともない複雑怪奇な魔法陣が色とりどりに輝き、なおも形を変えていく。
「全てを拒絶し、全てを飲み込め! 汝が証を彼方に刻め!」
「もうっ! 間に合ってよ……!」
ベルが【魔源掌握】の力を以てオリエンスに手を伸ばす。真の魔王への進化を解除しても、固有スキルはベルの元に残っていた。
その魔力で形作られた手がペペルティアへと届いた瞬間、レクトルの魔術が炸裂した。
「【星之終焉】!」
レクトルの手に新たに生まれていた星の命を対価に、破滅の嵐が巻き起こる。色とりどりの爆発を伴った砲撃は指向性を以て未だ抵抗を続けていた魔幻獣ペペルティアを飲み込んだ。
その光景は王城を囲うように成長した聖樹と共に、街の人々の目に奇跡の一幕として刻みこまれたのだった。
次回2/10更新予定
やっとこさの3章エピローグとなります。長かった。
その後はいつも通り軌跡と追憶の幕間、3章キャラ紹介を経て4章開始となります。




