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104 魔幻獣の猛攻

1週間以上間をあけてしまった……

週間更新が崩れないように次回更新は元に戻す!


 キサラが見出した僅かな希望に可能性を見出したロイエンは一歩前へ踏み出した。


「では、まずその時間を稼がなくてはならないね。提案するからには覚悟はいいのかね?」

「誰にむかって言っている。そっちこそ、土壇場で気後れするなよ、ギルドマスター」

「ほっほっほ。言ってくれるね。この老いぼれ、まだまだ若者に遅れをとる気はさらさらないよ」


 ロイエンが前に出ると、それに並んでキサラも足を踏み出した。その役割の重さをロイエンは伝えるが、キサラに迷いはなかった。


「お嬢様……」

「わかっていますわ。この戦い、失敗しようものなら結果は同じですもの。キサラ……無茶だけはしないでくださいな。あなたの帰りを待っているリサを裏切るようなことは、このわたくしが許しませんわ」

「あぁ、もちろんだとも」

「ちなみに、時間はどれほど必要なのかね?」

「そうですわね……彼女のあの鎌なら……5分……と言ったところかしら」


 その回答にロイエンの顔に少し影が差す。


「むむ……短いようで途轍もなく長い時間だね」

「怖気づいたか?」

「まさか」


 キサラの煽りを受け、ロイエンも再度覚悟を決める。カレンディナが言ったように、ここで失敗すればもう後がないからだ。先ほどのペペルティアの攻撃を防ぐ手段はロイエンにもカレンディナたち勇者メンバーにもなかった。


 ベルが最後の望みだったのだ。


「ぬぅん!」


 ロイエンが力むと、その体表を青白い毛が覆い手や足の爪が獣のそれに近づいていく。ロイエンの種族“氷狼族”が持つ種族特性“獣化”による身体変化だ。多少の思考力の低下とともに戦闘力を向上させる。


「いざ」


 大気を震わせるような踏み込みとともにロイエンはベルとペペルティアが戦っている場所へと駆けた。手に握られた世創道具(アーティファクト)千変万化(アシュト・ルミエ)】もそれに合わせ形状を変化させていく。


「では、行ってくる」

「私もサポートします」

「えぇ、頼みましたわよ」


 キサラに続き、ロロットも援護に回る為に前へと出た。そこに先ほどの怯えや迷いはない。各々が自身の役割を果たす為に全力で動き出す。だが、ここで一番重要な役割を果たすべき相手と意思疎通ができていないことに気付く者はいなかった。


 真っ先に飛び出したロイエンは未だ激しい攻防を繰り広げるベルと魔幻獣ペペルティアの間に割り込んだ。


「何!?」

「ベルフェゴール君はカレン君の元へ!」


 ロイエンはそれだけをベルに伝えると、ここまで走ってくる間に重ねに重ねた奥義を爆発させた。その手に握られているのは巨大な槌だ。繰り返し重ねられた奥義の重複数は優に10を超えていた。


「“重技(マルチプル)”【武甕槌神(タケミノカヅチ)】!」

『グギャ!?』


 大槌がペペルティアに触れた瞬間、激しい聖属性と雷属性を伴った雷撃が迸り強烈な一撃を叩きこんだ。


 ロイエンはそのまま全力で大槌を振り抜くとペペルティアを地面へと叩きつけた。その攻撃は障壁により阻まれ、本体には大したダメージは与えられていなかったが距離をとらせることで十分な時間を確保することができた。


 だが、ベルにとっては唐突に行われた邪魔な行為でしかなかった。


「あんなのじゃ大したダメージにもならないわよ! 死にたいの!?」

「まさか。ベルフェゴール君はカレン君の元で勇者の力を受け取ってくれたまえ。君の力と勇者の力。合わさればあれに打ち勝つことも可能だろう?」

「はぁ? 私が勇者の力を? 嫌よ。なんで私がそんなこと!」

「ほえ?」


 ロイエンはまさか拒否されるとは思っておらず変な声を漏らしてしまう。だが、すぐに気を取り直し、ベルへと詰め寄った。


「い、いや、だがあれに勝つにはそれしか……!」

「何言ってるのよ。私があんな獣に負けるわけないでしょ。それに、あなたたちの事を守りはしたけど、別に馴れ合うつもりはないのよ。さっさと立ち去りなさいと言ったでしょ? 私はただ後腐れなく終わらせたいだけ。勝手に変な解釈しないで」

「し、しかしだね……?」


 まさかの拒絶と吹き飛ばしたペペルティアが瓦礫をどけて立ち上がろうとしている姿が目に入り焦るロイエン。そこにキサラが到着した。


「何故だ! 今は協力すべき時だ! 力を受け取る間、私たちがあの魔獣を抑える! だからあなたは――」

「そうやって命を無駄にするつもり? あなたたちじゃ束になってもあいつには敵わないわよ」

「そ、それは……」

「例えあなたたちが勇者の仲間だとしても、見た目少女でしかないあなたが死ねば、私のご主人様はきっと悲しむのよ。どこか知らない場所で死ぬなら勝手にすればいいわ。でもね、ここはもう彼にとって馴染みの場所なのよ。目に入るかもしれない……耳に届くかもしれないこの場所ではやめて頂戴」

「なっ!」


 信じられない理由に驚くキサラとは対象に、ロイエンはベルの物言いに驚きながらもどこか納得していた。内心不思議に思っていたのだ。魔王であったベルが単独、何故この街を、勇者の仲間であるカレンディナたちをその身を呈して守ったのか。


 その行動を選択した彼女の原動力となる思いは何なのか。その目的はどこにあるのか。その全てがさきの言葉の中に集約されていた。一体どういう魔法を使ったのかと()の少年に疑いが増していく。


「つまりベルフェゴール君は彼の……レクトル君の為にあの魔王と戦い、私たちを守ってくれたと言うのかね?」

「へ? あ! べ、別にそういうわけじゃないわよ! だから勝手な解釈をしないでって言ってるでしょ!? あぁもう!」

『ギャオ!?』


 ベルは話をそこで打ち切り、再び襲いかかってきたペペルティアの対処に動いた。ロイエンの背後に突如現れたペペルティアを真上から地面に向けて叩き落とさんと魔力で作り上げた拳を叩きつけた。


 だが、ペペルティアもオリエンスの頭脳を引き継いでいるのか徐々に対応の精度が増しており、不意を突いたその一撃を4本の腕をクロスにして受けることでダメージを軽減した。そして手に宿る漆黒の魔力。


「ちっ! 長引かせると厄介ね」

『ギャオオオオ!』


 ペペルティアの両手に宿る魔力が漆黒の鎌へと変化する。それは武器として活用することができる水属性の【蒼天剣(レギンレイヴ)】に並ぶ天剣シリーズと呼ばれる闇属性版S級魔術【陰天剣(ディアボロス)】だった。


 その【陰天剣(ディアボロス)】が通常とは異なる発光を見せる。ロイエンにはその光に見覚えがあった。


「まさか……奥義を発動させるつもりなのかね!?」


 原則魔術と奥義は威力の参照値となる能力値(ステータス)が理力や筋力と別れているように枠組みが異なっていた。


 完全に別の法則に基づき起きる現象であるはずだった。魔力で生成された武器で放たれる奥義。そんなことが可能になるのであれば、分類は物理的攻撃になるのか、魔力的攻撃になるのか、あるいはその両方か……。


 それは全ての武術を達人の如くすぐさま扱うことができる【免許皆伝(オールマイティ)】の固有スキルを持つロイエンですら真似することができない領域にあるものだった。


 せいぜい武器のまま押しとどめた状態で扱う技術に影響を与える程度だ。その事実にロイエンが戦慄した瞬間、意識がそこで一瞬途絶えた。


「かはっ!」


 【空間掌握:領域】で生成した防壁を容易く打ち破り、ペペルティアが目にもとまらぬ速度で移動しロイエンへ一撃を加えたのだ。


 S級魔術で生成された武器による奥義の一撃。放たれた奥義は鎌術の最終奥義、Lv.10に分類される【命喰】だった。ロロットが使用していた暗器術の最終奥義【絶影】同様に通常決まれば一撃で相手の命を刈り取る必殺の奥義。


 その一撃に、辛うじて反応したベルがロイエンとペペルティアの間に【黒剣】を介入させることに成功していた。レクトルの膨大な魔力を盛大につぎ込んだ【黒剣】は通常であれば大抵の攻撃はなんなく受けきることができた。


 だが、受けた黒剣は砕け、その威力を吸収しきれなかった衝撃がロイエンを襲い彼方へと吹き飛ばしていった。


「なっ!」


 それはベルが想定していたよりもはるかに超えた威力を秘めていた。命にまでは別状がないにしても、再び戦闘に参加することは期待できそうにないほどの凄惨さがあった。


 その矛先は息継ぐひまもなくベルへと向けられた。


「くっ!」


 魔王から魔幻獣へと変化し、言葉を失っていることからも明らかに知能が低下しているはずなのに、逆に野性味が増したことで迷いがなく、容赦ない攻撃が続いた。


 ガキィン、キィンという甲高い衝撃音が連続して響く。怒涛のように振るわれる【陰天剣(ディアボロス)】にベルは防戦一方になることを迫られた。


「くそっ! このままじゃ!」


 その状態にキサラが焦りを見せる。最後の希望となるはずだったベルを説得できず、足止め役の片割れであったギルドマスターが戦闘不能となった。


 今からペペルティアの足止めをキサラ自身とサポートに入るロロットだけでは数秒も持たせられる未来が見えなかったのだ。


 下手に手を出せば、またこちらをかばう為に魔王であるベルが動くかもしれない。足手まといどころか、そのせいで魔王が深手を負いでもすればもはや希望は潰えるのだ。


「キサラさん……」

「我々では邪魔になるだけだ。一体どうすればいい!?」


 焦り、悩む間もベルとペペルティアの攻防は続き、徐々にベルが追い込まれていた。


「このっ……! しつこいのよ!」


 その状況にしびれを切らしたベルが勝負に出た。


 ベルの周囲を幾重もの【黒剣】が出現し旋回していく。魔力をつぎ込み、【魔源掌握(ドミネイター)】による攻撃と合わせて四方八方からペペルティアを襲うように攻撃を仕掛けた。


 その隙に態勢を立て直そうとしていたベルは次に起きた現象に逆に隙を見せる形となってしまった。


『ギャオオオオオオオオオオオ!!』

「えっ? ちょっ!」


 ペペルティアがひと吠えした瞬間、ベルを途轍もない虚脱感が襲う。【黒剣】もベルの制御を外れ見当違いな方向に飛んでいく。【魔源掌握(ドミネイター)】によって支配していた魔力もたちどころに霧散する。


「うそ……どうして……!」


 だが、ベルにとってそんなことはどうでもよかった。ベルを襲った虚脱感、それは魔力枯渇によって引き起こされたものだった。


 本来ならレクトルから無限に近い魔力が供給され続けているにも関わらず、だ。


 その事実に気付いた瞬間、明らかな動揺に支配される。正常な判断ができなかった。


 反撃の一撃をたたき込むどころか、突如追い込まれる形になり大きな隙を見せたベルを当然、野性味が増した魔王オリエンス改め魔幻獣ペペルティアが見逃すことはなかった。


『ギャオウ!』

「きゃあ!」


 動揺から復活する暇もなくペペルティアの一撃がベルを襲った。辛うじてベルのレクトル製ゴスロリ風ワンピース【堕落魔王の変装着】に付与された【物理保護】や【魔力保護】で防げたものの、さらなる魔力供給が行われない為に一撃で粉砕されてしまう。


「くっ……な、何が……」


 そこでなんとか平静を取り戻したベルはなんとか原因を突き止めようと状況の観察に努めた。まさか主であるレクトルに何かがと嫌な予感が一瞬浮かんだが、魔力供給が安定していないだけで、レクトルとの契約は問題なく成立していた。


 レクトルが死んだりした場合、そもそも魔王核を失ったベルは存在を維持できないのだ。


 オリエンスはベルへと魔王の力を譲渡する際、自身の存在を魔王核自体を自身の固有スキルで複製することで疑似的に存在を維持していた。そして他の悪魔の魔核を取り込み続け、その存在を強化し続けたのだ。


 だが、ベルにはオリエンスのような魔核を生み出すに至る力はない。それに、忘れがちだがレクトルには神子であるハクナと契約を交わしたことにより【不老不死】のスキルがあるのだ。


 まさかレクトルとあの神子までもが一緒に命を落とすようなことにはそうそうならないだろうと思い至り、ベルは少し落ち着きを取り戻した。


(だとすれば、他に原因があるはずよね……まさか!)


 そこでベル側に問題がないことを把握すると、他の原因を探ろうとしてベルはあることに思い当り、ばっとペペルティアへと視線を向けた。


 ペペルティアはキサラやロロット、そしてベルが勇者の力を拒否したからかいつの間にか戦闘に参加していたカレンディナやシュゼリアをまるで埃を払うかの如く容易く処理していた。


 そこから確かに力を感じた。それはベルが持つ【怠惰(アケーディア)】と同じ七つの大罪に分類される固有スキル【嫉妬(インヴィディア)】だった。


 相手が自分より優れたものをもっていた時、自分がほしいものを所持していた時などに生じる嫉妬の心。その感情は自身もそこに至る為に、手に入れる為に努力するのではなく、相手を貶めようとする思いが生じる。


 マイナスの噂を流し評判を下げる。周りと示し合わせて使い辛い環境を作る。そういった感情が込められた【嫉妬(インヴィディア)】が持つ能力は場を乱す力だった。


 あるべき力が正しく発揮されない。それは相手を羨む気持ちを以て発現する。


 ペペルティアがベルに対し嫉妬の感情を抱いたのは無限に近い魔力と共に闘う仲間だった。故に魔力は乱れ、レクトルとの契約にも不備が生じた。


(でも……だとしたら、どう対処すればいいのよ……)


 原因はわかった。だが、それに対処する方法がベルには思い浮かばなかった。ただただ力を振るう脳筋な魔獣へと成下がったと思いきや、突如としてスキルを巧みに使いだしたのだ。


 しかも七つの大罪に分類される固有スキルまでをベルに気付かれることなく織り交ぜてきた。


 純粋な力ではない搦め手の力。


 同格の力であるベルには残り6つの大罪の力にオリエンスが元々所持していたスキルまで使用された場合、なす(すべ)がなかった。


 だが、事態は待ってはくれない。


 戦闘に参加した勇者代行カレンディナの力を以てしても魔幻獣ペペルティアの猛攻は止められずあっという間に追い込まれていく。


 そして再びペペルティアの6つの腕に黒い雷が迸り出す。


 さきのように受けきる力はもうベルには残っていない。


(ここまで……ね)


 力は尽くした。これ以上力を尽くす義理もない。怠惰の魔王であった自分としては十分に働いたと言い訳を重ね、創作世界(ラスティア)へと再度逃げようとした時、ふと俯いていた自分の目に自身の影と重なる影を目にした。


 勇者一向は既にほぼ戦闘不能でギルドマスターたるロイエンも遠くに飛ばされたまま戻っていない。はるか上空でいまだ雷撃が迸る音が響いているのでペペルティアのものでもない。


 なら一体誰……そう思った瞬間、ベルに送られる魔力が安定を取り戻した。


「え?」


 それに驚きベルが顔を上げると、その声に反応した少年が振り返る。


「おぉ、ベル。大丈――」


 だが、言葉はそこで途切れ、突如その場に現れた少年ことレクトルは首を傾げた。そしてベルへと疑問を投げかける。


「えっと……どちら様?」

 

次回1/20更新予定

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