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103 進化の末路

すみません。年末年始休暇中は3章完結無理そうです。

更新も週一に戻し、今月中を目指します。


「ぬぐっ……これ……は……」


 ロイエンは天へと立ち昇る眩しいまでの光に、込められた力の波動に、目を覚ました。全身に駆け巡る激痛に耐えながらもなんとか立ち上がり、上空を見上げる。


 そこにいるのは天へと貫く光を呆然と見据える赤髪の少女……いや、女性だった。


「君は……」

「あら、目を覚ましたの? だったらそこにいる勇者の仲間ともども、ここから立ち去りなさい」


 しっしっと、手を振りながら向こうに行けと告げるベル。これ以上、勇者の仲間とかかわり合いになりたくなかった。


「その容姿にその声……やはり、ベルフェゴール君……なのか……ね?」


 そんなベルをよそに、ロイエンは確信に近い気持ちを抱きながらも、あまりにも記憶と違うその姿に戸惑いの声を漏らす。キサラに消されたと思っていたが、無事だったことに内心ほっとしていた。


 人間としては魔王たるベルが生きていることに安堵するのは問題な気がしないでもないが、ギルドでのレクトルやその仲間たちとのやり取りを見ているとどこか悪い気はしなかった。


「無事だったのだね」

「……そうね」


 ロイエンの内心を感じとったのか、ベルも穏やかに答える。だが、ベルはすぐさま視線を収束しつつある光の柱へと戻す。


「でも、呑気にしてられる時間はないわよ」

「あれは一体何なのかね?」

「魔王オリエンスが……真の魔王へと生まれ変わるそうよ」

「真の魔王!?」


 ベルは一度、光の柱が立ち昇った時点で邪魔をしようと攻撃を仕掛けた。だが、【魔源掌握(ドミネイター)】の力では取り込まれるばかりで有効打を与えることはできなかった。


 逆に敵にエネルギーを送っているだけにしか感じられず、ベルは進化の阻止を諦めた。


「私の時はこんなに長くなかったのに……一体何になるつもりなのよ……」


 その呟きに、同じように光の柱を眺めていたロイエンが反応した。


「私の時……? では、その姿になったのは真の魔王とやらにベルフェゴール君がなったからなのかね?」


 真の魔王。言葉のニュアンスからも明らかに魔王の上にある存在。魔王ではなくなったと言っていたベルが再び魔王へと返り咲いたのか。


 生きていて安心した相手とはいえ、心穏やかに聞ける話ではなかった。言葉とは裏腹にロイエンの内心は様々な感情が渦巻いている。


「まだいたの……。さっさと逃げなさいよ。あれからあなたたちを守って戦う余裕は私にはないわよ」

「ほ?」


 その言葉に、ロイエンはどこか拍子抜けした、キョトンとした顔になり、数度瞬きを繰り返した。その言葉はロイエンの中に渦巻いていた様々な感情を一瞬の内にかき消すに十分なものだった。


 こんな事態にありながら、疑い、抗おうとした自分が情けなく……そして、魔王へと立ち向かう目の前の女性がどこか頼もしく思えていた。


「ほっほっほ」

「……何笑ってるのよ」

「いやね。魔王たる君が我々を守ってくれようとしてくれていることが、ちょっと、嬉しくてね」

「……ふん。あなたたちが頼りないからでしょ。あなたたちに任せて私がちょっと離れた隙に街がボロボロじゃない」

「……これは……いやはや、全く……面目ない……ね」


 ロイエンは言われたことでようやく、街の状態を把握した。眼前に広がる光景に自身の無力さを痛感した。街を守るどころか、自身を生きながらせることで精いっぱいだったのだ。


 被害状況を把握する為におおよその距離を推定する。ギルドや王城までには被害が及んでいないことを取りあえず把握すると、懐からポーションを取り出し、それを一気に飲み干す。


 パリンと、放り投げた容器が砕け散る。それに構わずロイエンはさらに4本のポーションを取り出すと、未だ意識を取り戻さない《勇者の楽園(ブレイブ・ガーデン)》のNo.2、カレンディナの元へと向かう。


 その内の1本をキュポンと蓋を外すと口元へとあてがった。


「ううっ」

「無理そうだね……」


 まさか口移しで飲ませるわけにもいかず、ロイエンは残りのポーションをパシャっとカレンディナの身体に振りかけた。ポーションは飲んで体内から取り込んだ方が効率的ではあるが、体外に直接かけることでも効果を発揮する。


「う……マスターロイエン?」

「気がついたかね」

「えぇ……助かりましたわ。……魔王は?」


 そこでロイエンは光の柱に視線を移した。それにつられてカレンディナも視線を移す。そして目に入ったのは光の柱とそれを見据える1人の女性。


 背後から見ただけでも、立派な角に豪勢な悪魔の羽と尾。その身から感じられる圧倒的な力に身体がブルリと震える。


「あ、新手ですの!?」

「いや、彼女は――」

「うるさいわよ、お嬢様? 起きたのなら、仲間をつれてさっさと立ち去りなさい」

「あ、あなたは……」


 ロイエンの言葉を遮り、ベルが忠告する。ロロットと同じ“お嬢様”呼びながらも、そこには皮肉が混じっていた。だが、ベルはそれだけ告げるとすぐにまた視線を戻す。


「ど、どういう状況ですの?」

「あの魔王が目的を成し、進化を果たそうとしているらしいね。彼女が足止めをしてくれている間になんとか態勢を立て直すのだよ」

「進化ですって!? それに彼女は一体何者ですの!?」

「後で説明するよ。それよりも今はカレン君の仲間を」

「そ、そうですわね」


 カレンディナはロイエンからポーションを受け取ると、シュゼリアの元へ駆け寄り、膝枕の形で寝かせると顔を持ち上げポーションを口へ少しずつ含ませていく。


「ん……カレン?」

「おはよう、シュゼリア。目覚めたばかりで申し訳ないのだけど、治癒と加護をお願いできるかしら」

「え、えぇ」


 シュゼリアは周囲を見渡し、すぐに状況を把握した。光の柱と赤髪の女性のことが気になりつつも、この場にいるメンバーの中央辺りに移動すると、膝をつき祈りの姿勢をとる。


 カレンディナが最初にシュゼリアを癒したのは、【修道女(シスター)】たる彼女の力を頼ってのことだった。


(しゅ)よ……我らが尊き偉大なる神よ……我が声に耳を傾けたまえ……救いの声を聞き届けたまえ……」


 ポウ……とシュゼリアの周囲が光を帯びる。それは地面からポッ、ポッと光の粒がまるでホタルが彷徨うように現れ、たゆたいながらその範囲を広げていく。


「我が祈りを以て、この地を清めん。我が身に宿り祝福を。大地に安らぎを。永久(とわ)に輝く奇跡を此処に……【女神降臨(ラ・ディセンティア)】」


 ふわりと、優しい光がシュゼリアを包み込む。その光は周囲へと広がり、カレンディナ、ロイエン、そしてまだ気を失ったままのキサラやロロットにまで届き広がっていく。


 その光を浴びたロロットやキサラの身体が癒えていく。癒しは人の身だけでなく、大地にまで及んでいた。先ほどまではオリエンスの攻撃を受け焼け焦げていた地面がうっすらと緑を取り戻していたのだ。


「相変わらず、凄まじいね」


 その小さくも力強く芽吹いた芽を踏まないようにしてロイエンは呟いた。死を振りまく【奈落葬(ゲヘナゲート)】を受けた大地までをも蘇らせる治癒の力。まさしく、勇者とともにある者に相応しい力だった。


「お嬢様!」

「カレン!」


 治癒の効果もあり、【使用人(メイド)】のロロットと【巫女姫(メイデン)】のキサラも目を覚まし、投げ飛ばされたところから合流を果たす。


「あぁ、お嬢様、無事で何よりです」

「カレン、先ほどはすまなかった。私の力不足だ。それにしても、あの光は何だ!? それにあの女は……まさか!」

「キサラ……わたくしもまだ事情を把握できていませんの。まずはマスターロイエンに話を――」

「あんたたち! まだ呑気にしてるの!? 来るわよ!!」

「何を――」


 突如割り込んだベルの警告に、事情を把握していないキサラはカレンの言葉を遮ったベルに文句を言おうとしたその瞬間、ドッ、と大気が震え、光の柱の輝きが増した。


 それだけではない。


「信じられませんわ……。こんな……こんな力……」

「あぁ、(しゅ)よ……この試練は……あまりにも……」

「カレン……これはダメだ。もはや私たちが相手にできるものでは……」

「お嬢様……リサ様……私は……」


 圧倒的なまでの威圧感。収束する光の奥から感じるそれを肌で感じた《勇者の楽園(ブレイブ・ガーデン)》の面々はかつてない絶望を目の当たりにした。それはギルドマスターたるロイエンも同じだった。


 この場にいて絶望に取りつかれていないのは……


「やっとお出ましね。待たせ過ぎなのよ」


 ベルただ一人だった。といっても、もちろん余裕があるだけではない。


(あれだけ後ろで騒がれたら冷静にもなるわよ)


 そしてついに、光の柱が細く、細く収束していき、消えた。そして目にしたものに、ベルは言葉を失った。


「何よ……あれ。あれが、あんなのが、あいつが……オリエンスが求めていた真の魔王だっていうの……?」


 光が収束した先にあったのは、元の魔王オリエンスとはかけ離れた存在だった。


 身体はどす黒く変色し、衣服は消し跳び筋骨隆々な上半身が露わになっている。だが、それは人の身のものではなかった。ゴブリンやオークなどの魔物……いや、どちらかと言えば竜に近い。


 腕は左右に3本ずつ、合計6本生えている。背中には同様に三対六枚の翼。そのさらに奥には錆びた輪光のようなものを背負っている。だが、瘴気を帯びたそれからは神聖さはまるで感じられず、不気味さをただ増しているだけだった。


 長かった金髪も鬣のようになり、顔も獣のそれだった。レクトルが見れば、ガーゴイルの最終形態のようなものと認識したかもしれない。


 ベルはさっと能力を確認する。確かに能力値(ステータス)はさらなる成長を遂げていた。名もオリエンス・ペペルティアと性が追加され、称号には“魔幻獣”の文字が表示されていた。


『グアギャオオオオオオオ!!!』

「――――っ!」


 ビリビリと脳天に響くような叫び声に皆一様に耳を押さえ、それに耐える。叫び声が収まると、魔王オリエンスだった魔幻獣ペペルティアは正面を見据え、ギラリと瞳に光を宿した。その瞬間――


「――っ!!」


 ベル目掛けて猛スピードで急襲した。振り下ろされた3本の腕、その先にある爪の刃を辛うじて受けとめたベルは、そこで反対側の手に集まる3つの雷球を目にした。


「ちょっと待――」


 ズガァアアアアアア! とベルの言葉を待たずに迸る黒い雷撃。【魔源掌握(ドミネイター)】の力で魔力を操りなんとか自身から軌道を逸らすが、激しい雷撃がバチバチとベルの身体を焼いた。


「ぐっ、この……っ!? きゃあ!」


 瞬く間に【魔力保護】が削れていく。それにベルが驚いていると、再びの衝撃。ベルは地面へと叩きつけられた。


『グギャオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!』


 なおもペペルティアの攻撃は終わらない。6本の掌全てに雷球を出現させると、再びの咆哮。天をゴロゴロと雷雲が埋め尽くしていく。


「あれはマズイ……!」

「でもどうすればいいんですの!?」


 ロイエンが叫ぶ最中も幾重の雷撃が降り注ぐ。対応策が見つからない中、ペペルティアは6本の腕を前方に突き出し、6つの雷球を1つの巨大な雷球へと昇華させていく。


 その内には容易くこの辺り一帯を吹き飛ばすに十分な力が込められていた。


「軌道だけでも……!」


 ロロットが糸を操り、手を上に持ち上げて矛先を天へと向けようと動く。だが、手に抵抗を感じた瞬間、ペペルティアはギロリとロロットを注視した。


「ひっ!」

「マズイ! こっちに!」


 たった一睨みでロロットは戦意を喪失し、恐怖に支配された。だが、ペペルティアはそれで満足せずに無造作に雷球をロロットたちがいる場所へと放り投げた。


「く、来るぞ!」

「“翡翠の盾(クラウメル)”!」


 カレンディナが緑の宝石から翡翠に輝く盾を出現させる。その表面にさらに守護の加護がのった六角形の模様が亀の甲羅のように浮き出て、重なり、防壁を形成していく。


 だが、そこに雷球が触れた瞬間、ジュッと……まるで大した抵抗を受けた様子もなく消失した。


「嘘よ……」

「そんな……メイナの守りが……」

「勇者の……リサの“瘴気に打ち勝つ力”もあるんだぞ! それを! それをっ!!」


 叫びも空しく、迫る雷球に「クソっ」とキサラが懐から残り僅かな転移符を取り出し、この場からの脱出をしようとした時、間に介入する者がいた。


「まったく……あなたたちを守りながら戦う余裕はないって言ったでしょ。世話が焼けるわね」

「ベルフェゴール君!」

「あなた……もしかして、さっきの赤髪の少女ですの? でも、その姿……」

「今はそんな些細なこと気にしてる場合じゃないでしょ!」


 ベルは【魔力保護】を全力で展開し、さらに【魔源掌握(ドミネイター)】で魔力の壁を作り雷球を受け止め、【怠惰(アケーディア)】の力で弱体化を図る。


 そして【堕落鎌(レイジネス)】に力を込め、渾身の一撃を放つ。


「【死縫(しらぬい)】!」


 視認すること違わぬ剣閃が雷球を打ち破った。その瞬間、再びペペルティアが拳を振り上げベルへと迫った。


「来ると思ってたわよ!」

『グギャ!?』


 だが、ベルはそれを予期しており、ペペルティアの翼を後ろから【魔源掌握(ドミネイター)】で操った魔力で掴むとあらぬ方角へと放り投げた。


 ドッドッと2回ほどバウンドしたところで今度はすぐさま後を追いかけたベルが追撃する。


「随分と素直な性格になったわね! 動きが読みやすくて助かるわ!」


 ベルは魔力の刃で攻撃するが、ペペルティアはそれを六本の腕で器用に捌く。ガキィン、ガキィンという衝撃音が幾度も響いた。


「何故だ……奴は魔王ではないのか? 何故……私たちを助ける?」

「マスターロイエン……」

「うむ、詳しいことを話したいところだが、私も誓約を交わした身でね。今は話せないのだよ。だが、彼女は敵ではない。これだけは保障するよ」

「何を根拠に……」

「それに、彼女については国王やアシュリア王女も把握されている」

「なっ!」


 それが真実ならカレンディナ達は彼女……ベルフェゴールを信頼するに十分な情報だった。アシュリアが持つ固有スキル【聖罰の瞳】はそれほどまでに強力なものだからだ。


「なぁ、ギルドマスター。彼女は本当に魔王ではないのか?」

「キサラ?」

「……今は……だね。少なくとも、彼と共にある限り、彼女は無害だろう」

「彼……?」


 ロイエンの話しに出てきた“彼”というのが気になったカレンディナだったが、キサラが聞きたいのは魔王という不確かな概念にあるかどうかではない。もっと根本的な話だった。


「瘴気は? 魔核は? 彼女からは一切それらの気配が感じられないのは何故だ?」

「私も詳しくは知らないが、彼女は保有していない。より正確には、彼女が持っていた魔核は魔王オリエンスへと渡った」

「なら、彼女の力の源は瘴気ではないのだな?」

「あぁ、そうだね。だが、それがなに――」

「カレン」


 ロイエンの言葉を遮り、キサラはじっと自身の手にある“真紅の剣(フランベール)”を見つめていた。それはオリエンスに攻撃する際、カレンディナから借り受けたもの……


 それをぎゅっと握りしめると、カレンディナを正面に見据える。何かを感じとったカレンディナは静かにそれに答えた。


「どうしましたの?」

「私にはまだ悪魔にしか見えない彼女の事はわからない」

「えぇ、そうですわね」

「たった一度のことでこんな風に思うのはバカなのかもしれない」

「……?」


 言いたいことが分からず、カレンディナは少し首を傾げた。だが、キサラの呟きは終わらない。


「それでも、さっき私を……私たちを守ってくれた彼女を見て、こう思ってしまったんだ。()()()()()だって……」

「キサラ……」

「あんな姿をしているのに……私が諦めたものを諦めず、その身から溢れる魔力はあまりにも純粋で、綺麗で……輝いていた。希望に満ちていた」

「そう……ですわね」

「なら、私はその力になりたい」


 その瞳には強い意志が感じられた。何を言われるのかと身構えていたカレンディナはまるで子供の成長を目の当たりにしたかのように嬉しくなった。


 悪魔だというだけで、悪という一要素があるだけで、他の一切を顧みず断罪を繰り返してきたキサラが、他に目を向けた。カレンディナにとっても、ベルの得体はまだ知れなかった。


 それでも、キサラに与えたこの影響はきっと良い未来につながると信じて、力強くうなづいた。


「あなたの気持は分かりましたわ。でも、具体的にはどうするつもりですの?」

「彼女の武器に、これと同じ勇者の力……“瘴気に打ち勝つ力”を付与することはできないか?」


 キサラが取り出したのは借りたままだった“真紅の剣(フランベール)”だった。それを見てカレンディナは笑みを浮かべながら頷いた。


「やってみる価値はあるかもしれませんわね」


今回で3章は50話目。

3章を開始したのが去年の2/10だから、本当に丸1年になりそう……

最初にだらだらとやり過ぎたのが原因かな。


すみません、体調崩しました。

次回は1/16更新予定とさせていただきます

その次は月曜に戻します。

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