102 真の魔王
みなさまあけましておめでとうございます。
年始は想定外の予定が入り、連続更新は諦めてこっそりと更新日延期しました。
なんとか3章は年末年始の休暇が終わるまでには終わらせたいところ。
「なに……これ……?」
「バカな……何故……何故、貴様が……! それは我が……我が到達すべき高みであったはずだ……!」
事態を把握できていないベルとは対照的に、オリエンスは何が起きたのかを即座に理解した。今日、この日の為に入念な下調べを実施していたのだ。それが起きた時にどういう現象が発生するのか、何度も文献に目を通し、それが自分に起きた時を夢想するほどに読み漁っていた。
それ故に目の前で起きたことが信じられなかった。
「触媒もなく、一体どうやって……!」
ベルは未だに自身に起きた変化に戸惑い、身体のあちこちを確認していた。何しろ、身体が子供の体型から大人へと変貌を遂げているのだ。それは身長だけでなく、角や背中の羽、尻尾、それにかつてオリエンスと魔王の代行という誓約を交わしてまで手にしていた胸すらも含まれる。
無論それだけではなく、能力値やスキルにおいても大きな変化や成長が発生していた。
「こ、これが私……? 最高じゃない! これなら……この力があれば……!」
既に進化の際に起きた爆発によりオリエンスから受けた拘束もはじけ飛んでいた。それだけではない。ベルが真の魔王へと進化を遂げたことにより、実質魔王であるオリエンスより格が上回り【傲慢】の効果も無効化されていた。
自身の確認を終えたベルはオリエンスへと視線を向ける。それに気付いたオリエンスがビクリとその身体を震わせた。
「さっきは随分と言いたい放題言ってくれたわね……覚悟はできているかしら?」
「ま、待て……」
「そう言われて待つ奴なんていないでしょ!」
ベルの周囲を渦巻いていた魔力が濃密な魔力の刃となってオリエンスを襲う。ベルは進化を遂げたことにより、新たな固有スキルを習得していた。
その名は【魔源掌握】。それは魔力を術式を介さずに自在に操る力。適合している属性であれば、魔術を使用することなく術式に囚われない自由な運用を可能にするスキルだった。
無から闇色に変化した魔力の刃を寸でのところで回避したオリエンスは反撃を試みるが、身体を動かす必要があるオリエンスに対し、魔力を動かすだけで済むベルの方が行動が一歩早かった。
「ちっ」
「無駄よ!」
剣が振り下ろされる前に、振り下ろそうと柄に力を入れた瞬間に魔力の刃を刀身に当てられオリエンスはバランスを崩す。そしてガラ空きとなった胴体に向けて螺旋に渦巻く魔力が放たれた。
「がぁああ!」
「まだよ!」
それは莫大な護力を持つオリエンスの身体に確かな傷跡を残した。だが、ベルの攻撃はそこで止まらず、魔力を槍のように細く、尖った形状に変化させると形が定まるのを待たずにオリエンスへと突きだした。
「ごふっ!」
闇の魔力で出来た槍はオリエンスの胴体を深々と貫いた。そこへさらに攻撃を投じようとしたところでベルはそれを中断し後方へと退避した。その瞬間、ベルがいた場所を何かが飲み込み地面がえぐり取られたかのように陥没する。
大罪スキル【暴食】、による【空間捕食】だ。
「ク、クソ……」
「危ないわね。でも、これだけの能力値があればあなたに攻撃が通ることは確認できたわ。もう逃がさない」
冷静に判断し魔力を練り込むベル。だが、その言葉はオリエンスには届かない。ベルの急激な進化による成長に伴い覆された戦況の焦りに、抑え込んでいた感情が再度暴れ出す。
「クソが、クソが、クソが……! 認めない! 認められるものか……! この世で最強なのはこの我だ!」
再びブブブブブゥンとオリエンスの周囲に黒い球体が無数に出現する。
「バカの一つ覚えね。能力値やスキルに頼った戦い方をしているから、それを上回られた時に何もできないのよ。勇者から逃げ、技術を磨くことをしなかった私以上の怠け者が、今の私に勝てると思わないことね!」
「あああああああああああぁあ!」
ベルの警告も厭わず黒球から黒い雷がベルへと迸る。ベルはそれらを闇の魔力で受けると後方へ受け流し、さらに魔力を操り小型のナイフ程度のサイズの剣の形にいくつも変化させると黒い球体目掛けて投擲、着弾と同時に込められた魔力を爆発させた。
「ぬぐぅ!」
「今度はあなたが這いつくばりなさい!」
ベルは魔力を伸ばすと爆風に耐える為顔を腕で覆っていたオリエンスの隙を狙って足を掴み、そのまま引っ張り地面へと叩きつけた。
「がはぁ!」
「ざまぁないわ……ね!」
ベルがダンッ! と足を踏み抜くと、地面に叩きつけられたオリエンス目掛け、今度は地を這った魔力が棘となってオリエンスを貫いた。
「ぐっ!」
だが、そのいくつかはオリエンスの護力に阻まれる。
「舐めるなぁ!!」
絶えることなく続く攻撃に咄嗟に【憤怒】による身体強化を施したのだ。暴走状態にあるオリエンスは直感で動いていた。剣を抜き放ち、ベルへと斬りかかる。
それに対し、ベルも負けじと【怠惰】を重ねた魔力の刃で対抗する。強化と弱体化の応酬、剣と魔力のせめぎ合いが続いた。
だが、剣による攻撃で手が塞がっているオリエンスに対し、ベルは自身より発する魔力を制御している為両手が空いていた。今までは魔力の制御に手を翳して補佐していたが必ずしも必要なわけではない。あくまでその方が制御がしやすいだけだった。
その利点を活かし、ベルは【魔源掌握】による攻撃を維持したまま【堕落鎌】を取り出し振るう。
「【死縫】!」
瞬間的に刻まれた無数の剣閃がオリエンスを襲った。だが、その刃がその身に届くことはなく、その直前で何かに食べられたかのように消失する。
「しぶといわね!」
「あああああああああああああああぁああ!!!」
同じ大罪のスキルを保有しているが故か、大罪スキルの発動に敏感なベルはその餌食になることなく一旦距離を取った。
「何……?」
だが、すぐに異変に気づく。ベルが退避してなお、オリエンスの周囲の空間がバクン、バクン、バクバクン、と無差別に取り込まれていたのだ。その浸食は止まることなく間隔は徐々に短く、そして範囲を拡大させていく。
雷球の次は【暴食】の力を暴走させるオリエンス。それは【奈落葬】によって大損害を受けた街に追い打ちをかけるかのごとき勢いだった。
「なんなのよ!」
止まる気配がない【暴食】の浸食を阻止すべく【魔源掌握】の力で介入を試みるが、特に成果もなく操作した魔力は【暴食】の力の前に飲み込まれていく。
それどころか、魔力を取り込んだことでオリエンスの力が増していた。
「ククク、クハハハハハハハハ!」
「今度は何!?」
不気味に響きわたるオリエンスの笑い声にベルが戸惑いの声を上げた。情勢はまだこちらが有利なはずなのに、嫌な悪寒が全身を駆け巡る。
「わざわざ足りない分を補ってくれるとは……。今回はその愚かさに感謝しようではないか。本来の計画とは異なるが、こうなってしまえばやむをえまい。礼と言っては何だが、我が進化もお見せしよう!」
「何を……まさか! さっきのは私の魔力を取り込んで……! くっ!」
「もう遅い!」
オリエンスが【暴食】の力を撒き散らしていたのはベルの攻撃を防ぐためだけではなかった。もちろん、街をさらに破壊する為でもない。
狙いは戦闘によって消費された魔力の残滓。ベルがレクトルから供給を受け、膨大な量を消費していた魔力そのものだった。
それに気付いたベルが【魔源掌握】の力で回収に動くが、時すでに遅かった。オリエンスは目的を達成するに十分な力を既に回収していたからだ。レクトルが持つ膨大なまでの魔力がここにきて仇となった。
オリエンスは回収した魔力と、今まで観察してきたデータを元に自身の固有スキルを発動させる。
オリエンスが本来持つ固有スキルは【複写権限】。それは一定以上のスキル情報データを元に他者のスキルを複製するというものだった。
一度複製したスキルは数に限りはあれどストックすることができた。オリエンスは最初にこの力をベルゼブブの固有スキル【暴食】に対し適用した。
そして複製した【暴食】の力でベルゼブブを喰らったのだ。スキルを複製する【複写権限】に対し、大罪スキル【暴食】は捕食した対象の力を取り込むことができた。
複製品で原物を喰らうことでオリエンスは原物の力を手にしていた。そしてそれは他の大罪スキルも同様だった。最初に手にした【暴食】の力で喰らい続けたのだ。
もちろん取り込みには条件が存在する。自分の理解が及ばない力に関しては喰らっても同様の力を得ることはできない。それゆえにオリエンスはまず力の理解に時間を割いた。
勇者の仲間たちが介入してきた時も力づくですぐに排除に動かなかったのも同様の理由からだった。
そして今、ついに最後の大罪スキルである【怠惰】の力について十分に理解した。だが、【暴食】の力でベルを喰らうことはベルが進化したこともあり難しい。
故に、オリエンスは最初のベルゼブブの時と同様に取り込みではなく、複製を選択した。優先度の低いストックしていたスキルを外し、新たに【怠惰】の力を複製する。その際に必要になるスキルが持つ魔力も十分に確保した。
そしてついに、オリエンスの元に疑似的にとはいえ、全ての大罪スキルが集まった。
「この時をどれほど待ちわびたことか……!」
「私が黙って見ているとでも!?」
「無粋な真似はよせ」
バババクン! とベルとオリエンスの間で激しい【暴食】の一飲みが発生した瞬間、天から貫くように光の柱が立ち昇り……
ベルの強引な進化とは異なる、オリエンスが真の魔王へと至る特殊な成長が、進化が、始まった――
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