011 契約更新
「それで? どうして一言もしゃべらなかったんだ? 無口キャラでも目指しているのか?」
馬車に乗せてもらおうと提案したのも、決めたのも俺なのであまり強くは言えないのだが、俺のことをご主人様と慕う割には対人スキルがない俺に任せっぱなしというのもどうなんだ? と責める口調で問いただしてみる。
「私は仮にも神ですから。あんまりこの世界の人たちに干渉するのは避けないといけないので……」
そういえばそんなことを言ってた気がする。でもまさか道中の会話すらだめとか。さっきは神といっても人族と大して変わらないとか言っていたのにご都合主義なことだ。
「なら俺は? もはや人生を変えるレベルで干渉を受けていると思うんだが」
「ご主人様は例外ですよ。私の命と神界の危機がかかっていましたし、それにどうやらこの世界の住人ではないみたいじゃないですか」
「それは結果論だろうに」
「ご主人様のせいでもあるんですよ? 最初は姿をご主人様にしか見えないようにして行動しようと思っていたのに、いきなり戦闘の命令するんですもん」
「そういえば危機を救うという十分な干渉を最初にしてたな」
「だから後は控えてたんじゃないですか。必死に存在感薄くしてたんですからね」
「……なら最初にいってくれればよかったんだ。断る選択肢もあったはずだ」
まさか、食い意地張った行動に対する言い訳じゃあないよな……? だめだ。本音がどれかわからない。こういう駆け引きはまだまだ苦手だな。
また口調が地に近い感じを受けるので本音っぽい気がするんだが……
「ご主人様の命令は断れないですよ。最初に言ったじゃないですか」
「といっても絶対命令ってわけじゃないだろ?」
「……ほぼそれに近いですよ? 私の神力はほぼ全てご主人様からの供給ですから」
「へ? どういうことだ?」
「あの契約は受け取った力の量で強制力が決まるんです。あの時の私の神力は枯渇寸前で、ご主人様から最大値に回復するまで力をもらったので、その強制力は99.9%くらいです」
「ほぼ100%じゃないか!」
流石にこれはきつい。ポロっとうっかり口走った冗談でとんでもない事になる未来しか見えない。
下手な冗談も言えないのは厳しすぎる。せっかく気軽に接することができる仲間ができたと思っていたのに、常に言葉に気を配り続けないといけないなんて勘弁してほしい。それじゃあ心が休まらないじゃないか。
「なんとか解除できないのか?」
「え? 契約をですか!?」
私、もうお払い箱ですか!? と若干涙目で訴えかけてくる。
「いや、ハクナと一緒にはいたいんだがその強制力はどうにかしたい」
「い、一緒にいたいって……。でも、いいんですか?」
「何がだ?」
「その強制力があれば私をどうにかすることもできるんですよ? ……エッチなご主人様?」
「…………………………あぁ」
間があったのは許してもらいたい。俺だって男だ。もったいないと思わなくもないほどに興味があるのは当然だろう。でも、その強制力で取り返しのつかないことになりそうなのが怖い。
それに、そういうことになるとしても強制力を使って強引にするのは御免だ。それはお互いの同意があってこそだろう。
まぁ、神様相手っていうのは恐れ多すぎるが、なんか今までの反応を見てる感じでは割かし裏表なく接している割に悪くないんだよな。
「そう、ですか」
ハクナはそう答え決意を固めると、俺の手をつかんで村の中に入っていく。
「お、おい」
「流石にあんな目立つところでは恥ずかしいです」
何が、と思いつつも今は引っ張られるに従って後ろをついていく。結界内に入る時に若干の抵抗のようなものを感じたが、問題なく入ることができた。
ハクナはきょろきょろと辺りを見回した後、木造でできた家の隅に入っていく。ちょうど村の大通りからは死角になっていて前を歩く人からは見えない位置だ。……誰もいなかったけどな。
「ここで何するんだ?」
疑問に思ってそう尋ねると、頬をがしっと掴まれた。なんかデジャヴ? と思っていると、また俺の唇にそっとハクナの唇が添えられた。
「……!」
今度は最初の時と違い虚脱感に襲われることはなかった。魔力を吸っているわけではないのだろう。唐突に行われた行為に驚き対応に困る。すると、また左手の甲に痛みが走る。
「……っ!」
驚いたと同時にハクナも身を引く。やはり顔が赤い。恥ずかしがる割に大胆だ。会って数時間しか経ってないはずなのに、2回もキスをするとかこっちは振り回されてばかりだ。
「だから、事前に、ちゃんと、説明しろって……」
「言ったら恥ずかしくなってできないもん。こういうのは勢いが大事なんですよ?」
「勢いって……」
「そもそもご主人様があんなこと言うから……」
「あんなこと……?」
はて、何のことだ……? と思考を巡らせていると、
「契約を更新しました。手を見せてください、これで強制力は……」
そう言いながら俺の左手をとり、手の甲の神紋を確認するハクナ。……そして黙り込む。
一体なんなんだ。不安になるじゃないか。
「……もしかしてご主人様、私への強制力をなくすのもったいないって思ったりしました?」
「へっ?」
「今の神力量ならさっきの魔術と数分の存在維持しか消費してないので1%くらいになると思ったのに、あんまり変わってないですね。うまいこと上書きできず、常時発動から命令発動になったみたいです。……なんかご主人様にとって都合のいい感じになった気が……」
「どういうことだ? 取りあえず、ポロっと口に出したことがそのまま命令になるってことはなくなったという事か?」
「そうですね。ご主人様がこれは命令だっていう強い気持ちで言ったこと以外は大丈夫だと思います」
「そうか、これで一緒の時も安心できるんだな。唯一の心の落ち着き所がなくなるのかとヒヤヒヤしたぞ」
「唯一の、心の落ち着き所……」
そんなことを呟きながらまた頬を赤らめるハクナ。忙しいやつだ。そういう態度をとられるからこっちも誤解するんだ。これから一緒に暮すんだ。誤解じゃないことを祈ろう。
しかし本当に某ゲームの命令権に近いものだったとは。しかもこっちには回数制限なしで、ほぼ100%服従の抵抗の余地なしときた。
ちなみに本人にできないことは命令できないみたいだ。まぁ、当然だよな。できないのに空を飛べって言われてもどうすることもできないだろう。
まぁ、ハクナならなんか飛べそう……というか浮けそうな気がするんだが。最初氷の中から出てきた時もフワッと着地してたからな。
「取りあえず、ありがとう。いっきに中まで来たが、一旦前の道に戻って村を探索するか」
「はい、そうですね。といっても、木の家と畑しかなさそうですけど」
そうなんだよな。思っていたよりも本当にただの村だった。科学でできたものなどは何もなく、ましてや異世界独特の魔術製品なんてものも何もない。昔話に出てきそうな村そのものだ。
あるとすれば、さきほど挙げた村全体を包む結界くらいだろう。ただ、それも何故か結界内からは目視では確認することができなかった。外からの外的を遮断するのが目的で、中からは自由な事が関係しているのかもしれない。
あまりにも古臭い村過ぎて、ここが本当に異世界なのか疑問に思ってしまうほどだ。せめて異世界ものによくある城壁に囲まれたでっかい都市を最初の転生位置に選んでほしかった。後々に期待するしかないか。
後は炎神とやらを祭っている巫女さんが見てみたいな。日本と同じような赤と白を基調とした衣装なんだろうか? 楽しみだ。まぁ、ジアムさんに聞いた話では村人以外は誰も見たことがないっていうのがネックなんだが……会うことが難しそうなんだよな。
取りあえず、前の道まで戻り辺りを見回す。
「なんか、誰もいないな……」
「そうですね」
ハクナに路地に引っ張られて行く時も思ったが、俺が最初に辿りついたレヌアの村は本当に人が住んでいるのかと疑うほど静かだった……




