100 魔王の怒り
記念すべき幕間やキャラ紹介を除いた第100話。
でも、遅れて、しかも3章は終わりませんでした。でもまだ日はまたいでないからセーフ。
年始までのびるかなぁ
レクトルが立ち去った後も魔王と勇者一向、ロイエンとの戦いは続いていた。
「全く削れている気がしないね。このままじゃキリがないよ」
「手を緩めるな! まじめにやれ!」
「そうは言うが……ねっ!」
ロイエンはキサラの発言に答えつつも【千変万化】を弓の形状に変化させると矢を放ち、遅れて弓術の奥義を発動させる。
「【連哭】」
放たれた矢は奥義の発動を受け、一瞬輝くと5本に分裂する。通常ならそこで終わる分裂はさらに繰り返され、その数を25本、125本とネズミ算式に増やしていく。ロイエンが持つ固有スキル【免許皆伝】による奥義の重複発動だ。
矢が625本になり、魔王へと到達した時点でロイエンは矢に手をかざし、その形を矢からクナイへと変化させる。【千変万化】は通常よりも多く魔力を消費するが、距離が離れていても装備者の思いをくみ取り、その形状を変化させることができた。ロイエンは続けざまにさらなる奥義を重ねる。
「“重技”【閃火崩乱】!」
その瞬間、数を増やした矢が再び煌めき、今度は激しい爆発を巻き起こした。それは連鎖的に巻き起こり、魔王オリエンスを包み込む。しかもロイエンが行ったのはただの暗器術奥義【火閃】ではない。
【連哭】と同じく、2重、3重に奥義を重ねて発動させたものだった。通常とは比べ物にならない規模の爆発が大気を揺るがした。だが……
「ほんと、自信をなくすよ」
ロイエンの言葉に応えるかのように爆発の中心から突如風が巻き起こり、爆発の熱ごと煙を吹き飛ばした。そこにはダメージを負った様子すら感じられないオリエンスが平然と宙に浮いていた。
「しつこい。何度試そうが同じことだ。貴様らの相手をしている暇はないというに……!」
ブゥンと、オリエンスの掌に黒い球体が出現する。
「またあれかね!」
「させませんわ!」
攻撃を止める為にオリエンスへと斬りかかるカレンディナ。だが、斬撃を振り抜く前にフッとオリエンスの姿がかき消えた。その場に黒い球体を残して……
「え……」
「お嬢様!」
「きゃああぁあ!」
その瞬間、ロロットの警告も間に合わずカレンディナ――正確には残された黒い球体――目掛けて黒い稲妻が迸った。それはカレンディナがこの戦いの間、常に自身の周囲に展開していた緑の宝石より形を成した“翡翠の盾”すらも意に介さずに撃ち貫いた。
壊されたわけではない。“翡翠の盾”に触れた瞬間、その表面を伝うように迂回し、そのまま裏側にいたカレンディナを穿ったのだ。
「カレン!」
またも守れなかった現状にキサラはすぐさまカレンディナの元へと駆け付けようとするが、今度はその周囲を大量の黒い球体が埋め尽くしていく。
「くっ!」
その数にキサラが雷撃に備え動きを止めた瞬間、再び迸る黒い雷撃。だが、それはキサラに放たれたものではなかった。
「きゃあ!」
「なっ!? 貴様!?」
穿たれたのは先ほどと同様、カレンディナだった。解放された矢先に再び撃ち貫く衝撃に、カレンディナが苦痛の声を上げる。
だが、それにキサラが気を取られた瞬間、今度はキサラを黒い雷が襲う。
「がぁっ!」
「ほらほらどうした。勇者の一味といえど、所詮この程度か!」
「あっ! ぐっ! きゃあ!」
ズガン、バリィ、ズドンと絶え間なく撃ち貫く雷撃に踊るようにカレンディナの身体が宙を転ぶ。放たれる速度に、撃たれる度に身体を駆け巡る電撃による痺れに、回避もままならずカレンディナは成すがままに雷撃を浴びる。
「こ、の……!」
大切な者が目の前で弄ばれる現状にキサラの心は暴発寸前だった。
「な、め、る、なー!!」
ダンっと強く足を踏み込み、抜刀。周囲の黒球を全てを瞬く間に斬り伏せる。そのまま跳躍しオリエンスへと1枚の札を投げつけた。
「無駄なことを……」
オリエンスは無造作にそれを切り捨てた。その瞬間、キサラとオリエンスの居場所が入れ替わった。
「なに!?」
キサラの目的は最初からオリエンスではなかった。入れ替わったその場所からカレンディナの元へ向かい、黒球を斬り伏せ雷の雨から救出する。
「た、助かりましたわ」
「すまない。遅くなった」
「問題ありませんわ。それに、ひとつ気になることができましたの。それを確かめさせてくださいな」
「カレン……?」
キサラがカレンディナを地面に下ろすと、カレンディナはオリエンスへと向き直る。その間に、シュゼリアが張った結界の力で傷が徐々に癒えていく。
警戒は解かず、ただ確かめるように問いかけた。
「あなた……余裕があるように感じられるのに、随分と焦っていますわね」
「何……?」
「そんなに彼女に逃げられたのが悔しいんですの?」
その言葉を受け、張り詰めていた空気が変わる。
「何の話だ」
「わたくし達に構っている暇がないのは、先ほどの赤髪の少女を探しているからなのではなくて?」
「……………………だったらどうした」
長い沈黙の後、その言葉の意図を探るように言葉を放つオリエンス。
「なら、わたくし達などさっさと倒して探しに行けばいいのではなくて? なのに、あなたはそうなさらない」
「何が言いたい」
「あなたは恐れているのですわ。あなたの計画とやらが崩れるのを。わたくし達が倒れた後にやってくるであろう勇者の力を。そして、あの赤髪の少女が持つ未知の力を」
「この我が……恐れているだと? たかが人間の力ごときを! 魔王になり損なった悪魔ごときを! この、魔王たる我が……!」
ドッと大気が震える。それはオリエンスの内から放たれる凄まじい瘴気によるものだった。先ほどとは比べ物にならない圧がカレンディナたちを襲う。
「な、何を挑発しているのかね!?」
カレンディナの恐れを知らぬ行為にロイエンがその真意を理解できずに責め立てる。
「このままではキリがありませんわ。かの魔王は企て事を得意とするのではなくて? なら、相手の土俵で戦っていてはこちらに勝ち目はありませんわ。心を乱し、企みを看破し、それを打ち破らなくてはなりません!」
「んぐぅ、し、しかしだね!」
言いたいことはわかる。そもそも魔王オリエンスがそういう魔王だとカレンディナに教えたのはロイエンだったのだ。だが、ロイエンにはそれが良策には思えなかった。どうにも焦っているようにしか思えなかったのだ。
それは、まるで勝てる見込みが見えない現状にか、はたまた勇者代行という責任の重さゆえか、ロイエンにはわからない。
「カレンにはきっと何か考えがあるのだ! 邪魔をするな!」
「そ、そうは言うがね?」
キサラにもカレンディナの正確な意図はわからなかった。だが、カレンが行うからには何か意味があると、正しい選択なのだと心の中から信じていた。それを邪魔する者は例えギルドマスターだろうと許さない。
だが、仲間を思えばこそ、この時キサラはカレンディナを止めるべきだったのだ。
「くだらぬ茶番は終わりだ」
冷たい言葉で放たれた言葉と共に無数に生み出される黒い球体。それを見た瞬間、キサラは排除に動こうとする。だが……
「《這いつくばれ》」
「なっ!」
「ぐっ!?」
「きゃあ!?」
【傲慢】の力を通して発せられた力はカレンディナ達を地面に跪かせた。そして周囲に浮遊する黒い球体がバチバチと黒き雷を纏いだす。
「くっ、……させません! 【絶影】!」
迫る危機に最初に動いたのはロロットだった。襲い来る重圧に抗い、暗器術の最終奥義を発動させる。
【傲慢】の効果圏内にありながらも奥義は問題なく効果を発揮し、ロロットをオリエンスの背後へと瞬時に移動させた。
「ふっ!」
「無駄だと言っている!」
「あぐぅ!」
短剣を首元へと振りかぶるロロットを突如オリエンスの周囲に現れた黒い輪がいくつも連なった鞭のようなものが襲った。それはロロットの身体をまるで削り取るように抉り、そのまま大地へとたたきつけた。
「ロロット!」
「き、さま!」
ロロットが《勇者の楽園》に加入したのは――正確には勇者リサと友達になったのは――ほぼカレンディナと同時期だった。それはその当時からカレンディナの専属メイドを務めていたからだ。
その彼女が瀕死に近いような重傷を受けて地面へと叩きつけられた。自分が呼び寄せた現状にカレンディナは嫌気が指すがこのまま終わることなどできない。今もなお黒い球体の放電は激しさを増しているのだ。
杖を握る左の手に力を込める。“蒼銀の杖”がそれに応え、輝きを増す。
「【氷楼華仙】!」
一輪の華の形をした氷の結晶が魔王の周囲を囲いこむようにいくつも出現し、周囲の温度を瞬く間に下げていく。それは凍てつく吹雪となって魔王を襲った。
「鬱陶しい!」
だが、ロロットを地面へと叩きつけた闇の鞭が蛇のように魔王の周りをグルグルと蠢き、拡散。氷の花を一つ残らず打ち砕いた。その瞬間――
「ああああああぁっ!」
魔王の上空に札をまた一枚燃やして転移したキサラが手にしていた剣を振りおろす。それはキサラが今まで戦う際に使用していた刀ではなかった。
真っ赤な刀身を持つ“真紅の剣”。その刀身は勇者の力を帯びていた。【氷楼華仙】を破壊する際に生じる隙をついてカレンディナがキサラに投げ渡していた。
「これでも喰らえぇえええええ!!!」
「ぐぅう!」
キサラの一撃は雄たけびと共に灼熱の刃となって魔王の身を斬り裂いた。
「や、やった!」
感じる確かな手ごたえにキサラが歓喜の声を上げた。だが、オリエンスは確かな傷を負いつつもその目は死んでいなかった。
「キサラ!」
「人間風情が……!」
「なっ!」
やっと与えられた一撃に気が緩んでしまったのだろう。オリエンスは振り抜いた姿勢で無防備になっていたキサラの足を掴むと、ロロットを叩きつけた場所へと今度はキサラを投げつけた。
着弾と共に激しい土煙が巻き上がる。だが、オリエンスはその結果にはまるで興味がないと言わんばかりにそちらには目を向けず頭を抱えていた。
「クソがっ! 忌々しい! 我を支配せんとする愚か者が……!」
恨み節を込めて悪態を吐くオリエンス。だが、それはキサラやロロットなどの勇者一向に向けて放たれた言葉ではなかった。
オリエンスを内から揺さぶる感情の波。それは大罪の固有スキルが持つ闇の因子。ひとつのデメリット。オリエンスがベルに大罪の力は所有者に影響を与えると述べたまさにその呪い。
大罪を犯した者が負う代償。他を見下し、惑わし、妬み、怒る。所有者が変わってなお内に潜む根源たる闇は力の所有者を侵食する機会をうかがい、蝕み、引きずり込む。
オリエンスは計画を成し遂げる為にこれらの感情を抑え、心を冷静に保ってきた。だが、カレンディナの煽るような言葉はその壁を容易く打ち破った。
適合していた本来の持ち主たちとは異なり、オリエンスはそれらの力を強引に強奪していた。その呪いはベルたちが負っていたものよりも強大で、質が悪かった。オリエンスは大罪の力の中に眠る感情の波にのまれていく。
オリエンスにとっては確かに望まぬものだったが、それは対照的にカレンディナが望む結果を生みだすものでも また なかった。
「もう知らぬ。まとめて全て消え去ってしまえばいい……!」
浮遊する黒球が旋回、さらに数を増やし、互いを線で結ぶように雷が迸りひとつの魔法陣を形成していく。
「なっ! まさか、あれは……!」
「……!」
「滅びよ。【奈落葬】」
見覚えのある魔法陣にロイエンが叫んだ瞬間、闇色の輝きはさらに膨れ上がり、暴発。オリエンスが戦っていた場所を中心として半径1kmに及ぶ空間を飲み込んだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ルーミエちゃーん、もっと構ってよー」
「いい加減にして! 私は忙しいの!」
冒険者ギルドの執務室では机に向かって次々と上がってくる報告書にルーミエは目を通しつつも、対策に追われているルーミエの背にのしかかり、前にだらんと手をぶら下げる母親ティリエの顔を手でグイグイと押し離していた。
「ずっとそんなことしてたら疲れちゃうよー? さっき冒険者のおじさんが言ってたみたいに少しは休まないと身体に悪いよー?」
「そう思うなら手伝ってよ!」
「えー、ママには難しくてわかんなーい」
「もう! あそこにお菓子があるからそこで寛いでて!」
本当はこの戦いが終わった後の楽しみに取っておいたものだったが、この状態ではまともに仕事もできない為、妥協案としてティリエに菓子が収められた棚を指し示す。
だが、ティリエはルーミエが指差した方向とは全く別の方向をじっと凝視していた。
「ねぇ、ルーミエちゃん」
「な……なに?」
どこかさっきまでとは異なり真剣味を帯びたその言葉を不審に思いながらもルーミエは言葉を返す。
「辛かったらやめてもいいからね? 誰かが責めても、私が守るから。だから……」
「……どうしたの?」
「にげ……て……」
「もう、なんなのよ」
再びルーミエへと体重を預けてくるティリエの身体を軽く押し返した。すると、今度は抱きつき離れまいとするような抵抗はなく、押し返されたティリエの身体はルーミエの背を滑り落ちるようにずり落ち、ドサッと音を立てて地面に倒れ込んだ。
「え?」
その状態を10秒ほど呆然と眺めていたルーミエは椅子から立ち上がり、ティリエの身体に触れる。
「もう、冗談はやめてよね? 突き放したのは悪かったわ」
ユサユサと身体を揺するが反応はない。
「ね、ねぇ、ちょっと。いい加減に……」
ユサユサ。時にはパンパンとティリエの頬を叩く。だが、結果は同じ。流石にルーミエもこれがティリエの冗談などではないことに気づく。それを理解した瞬間、ルーミエの顔は途端に青ざめていく。
「嘘でしょ!? ママ!? ねぇ、どうしたの? 何があったの!? ママ!?」
許容値を超えた魔王の一撃を受けたティリエの【魔法少女世界】は砕け散り、その反動が発動者であるティリエを襲ったのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
カドラックの領主邸には兵士が駆ける慌ただしい足音が響いていた。
「ラウド様!」
「なんだね、騒々しい。場をわきまえたまえ」
「す、すみません。ですが、緊急事態なのです! も、森が……」
「ほう……。森から魔物が溢れでもしたのか?」
ラウドはついに実行された計画の結果に、少し心躍る思いで話を聞いていた。だが、もたらされた報告は耳を疑うものだった。
「は……はい。先ほど、聖霊種イルガイムを含む魔物が突如として森から氾濫、その対応に騎士団“曇烏”が応戦していたところ、突如として森から炎が立ち昇り……爆発。森一体がその、魔物もろとも消しとび、騎士団にも多くの負傷者が出たとのこと……です」
「は……?」
爆発? 魔物もろとも消しとんだ? 部下から上がった報告の意味が理解できず、頭の中で繰り返し木霊する。
一体何が起きたのか理解が及ばずしばらくの間フリーズしていた。そこで、当初の計画の要であった存在を思いだし問いかけた。
「あの小娘……アシュリア王女は何をしていたのだ!? まさか、森から魔物が溢れだしても、それに対処しなかったのか!?」
「いえ、それが……その場にいた騎士の話ですと、アシュリア王女殿下は森の中に異変の原因があると侍女と共に向かわれた後、その……」
「なんだ……何があったのだ……」
「そのまま、お戻りになられていないそう……です。恐らくは……あの爆発と共に……」
「な……」
その言葉に、立ち上がって報告を聞いていたラウドは数歩後ずさり、そのまま椅子に座りこんで頭を抱えた。
(な、なんということだ! 計画が失敗し、イルガイムの素材が手に入らなかったどころの話ではないではないか! 王女が行方不明……下手をすると死亡しているかもしれないだと!? しかも、他国の……! 何のリターンもなく、リスクだけが最悪の形で……いや、魔物が消えたのは不幸中の幸いといえるか。だが、このままでは私が罪に問われるのは明白だ。素材を手にした後ではいくらでも逃げおおせられたものを……何か、何か手立てを考えなくては……!)
そこまで考えて、まだ答えを出すには早計であることに気づく。
「王女は行方不明……ということだったな」
「は、はい」
「それは捜索を行ったのか?」
「い、いえ。森は未だ激しい熱と炎に包まれており、入ることもままならない状態なのです」
「それでは生きている可能性もあるのでは? いや、もしかするとその爆発でさえあの王女が起こした可能性すらある。むしろ、好き勝手にされたこちら側が被害者ともいえなくはないか?」
「え? そ、それは……ですが、あの熱の中で生きていることなど……」
「それは向こうが何かを間違えたか、思っていたよりも出力が大きかったのだろう。こちらが関与するところではないね」
それはつまり、責任は全て王女側にあると……自らの失態を含め全てをアルトフェリアへ押しつけるということだった。王女を死なせた責任をとるどころか、それさえも南との境界にある森が吹き飛んだ責任を押し付ける攻撃材料にする。
その狂気じみた提案に、いまだクツクツと笑う領主から報告に来ていた兵士は後ずさった。
その様子を見たラウドは、部下から事実が漏れることを恐れた。いくら自分が言い訳し、裏で工作しようが、他の、多くの部下が真実を語れば簡単に計画は崩れ去る。最悪、計画を知る者全てを殺すことまで視野に入れたところでラウドの元を訪れる者がいた。
「その話、詳しく聞かせてもらいたいものだな」
「貴様は……」
そこにいたのはエメラルドグリーンの髪がまるで苔のように頭を包む鍛え抜かれた身体を持つ大柄な男。アシュリアたちよりも数週間前にアルストロメリアを出ていたアルトフェリアの兵士。その中で頂点の実力を持つ騎士団長、オルテミデア・ガブロだった。
次回12/31更新予定。連続更新頑張るつもりです。
もうすぐ今年も終わりですね!
みなさまよいお年を




