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099 暴走する力


「……………………」


 倒れたサクラを抱きかかえたまま、レクトルは少しの間思考にふける。


(アルストロメリアで何かあったのか? でも、ベルはもう魔王の頃の力を取り戻したはずだ。ベルがやられるとは思えない。まさかベルが裏切って……? いや、それはないな。あるとすれば、セピアの時に森に現れたあいつらがまた何かやらかしたとかだろう)


 浮かんだ嫌な予想をすぐさま追いやり、また新たな可能性を推測する。だが、いくら考えても答えはまとまらない。取りあえずサクラたちを創作世界(ラスティア)で休ませてからアルストロメリアの様子を見に行こうと決断する。


 ベルのことは心配だが、そうそう何かあるとは思えなかったからだ。今後の方針を伝えようとレクトルが振り返ったところで、疲れて眠っていたレアが目を覚ました。


「レア姉さま!」

「ん……? アシュリー! ……無事だったのね、よかった……」

「レア姉さま……」


 レアはアシュリアに抱きつくと、生きて再会できたことに安堵し吐息をこぼした。


「ほんと、心配したのよ?」

「ごめんなさい……」

「無事ならそれでいいの」

「ううっ……」


 レアの言葉に涙目で答えるアシュリア。その思いを感じ取り堪えていたものが溢れだす。しっかりとその身の温かさを、生きている証を感じとるとレアはそっと身を離した。その瞬間、パサリと、レアに掛けられていた布がずり落ち裸体が露わになる。


「え?」

「レア姉さま! 服!」

「え、えぇ」


 さっきまでの事態を思い出し、慌てて首にまで押し上げていたワンピースに再度腕を通していく。そして現状を確かめようとして周囲を見回し、レクトルを見つけた。


「ご主人様、本当にありがとうございま……サクラ様!?」


 無事にアシュリアと再会できた感謝を伝えようとレクトルの前に移動したところで、抱きかかえられたサクラに気が付いた。思わず赤く染まった服に目が行き、悲鳴じみた声をあげる。


 レクトルとしては特に力を貸したという認識はなかった。何せ、この場所に来た方法も、襲われていた魔物を倒した攻撃も全てレアが行ったものだからだ。ただ一緒にいただけに過ぎない。


 それでも、気持ちの持ちようでレアにとって主であるレクトルの存在は大きかったのだが、それよりも今はレクトルの腕に抱かれたサクラの容体が気になった。自分が気絶している間に一体何があったのか、疲れて倒れてしまった後悔が芽吹く。


 だが、レクトルは心配はないと伝える為に努めて冷静に答えた。


「あぁ、大丈夫だ。怪我はもう治ってるみたいだからな。ベルにも何かあったみたいだから、一旦創作世界(ラスティア)でサクラたちを休ませたらアルストロメリアの様子を見に行こうと思う」

「そうですか。わかりま……あっ!」


 サクラに問題がないことを聞き安堵したところで、アルストロメリアの名からレアはあることを思いだし口元に手を添えた。


「どうしたんだ?」

「ご主人様宛ての手紙を預かっていたのを忘れていました」

「手紙? この俺に?」


 レアはワンピースのポケットから一通の手紙を取り出し、レクトルへと差し出した。レクトルは訝しみながらもその手紙を受け取ると、封を開け中の文字に目を通していく。


「あぁ、ルーミエさんからか。そういえばコレギアの件でギルドに行っていたんだったな。なにな……に!?」


 手紙に目を通し、行を読み進めていくにつれてレクトルの表情が変化していく。


「ご主人様……?」

「そういうことか……! なんでまたこう、次から次へと……!」

「あ、あの……」

「悪い、レア。サクラたちのことを頼めるか?」

「え?」


 手紙を読み終えたレクトルはサクラをレアへと預け、立ち上がる。


「ご主人様はどうされるのですか?」

「ベルを迎えに行く。場所はアルストロメリアだ。レアは創作世界(ラスティア)でサクラたちを休ませてやってくれ。アシュリア王女とそこの……リスティさんだったか、侍女の人も一緒でいい」

「わ、わかりました」


 頼まれれば断ることはない。レアはレクトルの頼みを力強く請け負った。だが、レクトルの様子から何か不安な気持ちが溢れてきていた。


 それは隣で様子をうかがっていたアシュリアも同じだった。


「何かあったのですか?」

「……いや、なんでもない」


 慌てた様子でアルストロメリアに向かうというレクトルが気になりアシュリアが問いかけた。レクトルは一瞬迷ったように視線を外すが、すぐになんでもないと答えを返す。


 レクトルに迷いがあったのはアシュリアにも少なからず関わりがあることだったからだ。ただ、それを伝えた時のアシュリアの後の行動が予測でき、それを躊躇った。おそらくそれは王の意向にも反するだろうことを理解して。


「いいか、ちゃんと安静にしてるんだぞ。レアも、サクラたちを休ませたら一緒に休んでくれて構わない。あれだけの距離を全力で走ったんだ。魔術で癒しはしたが、疲れているのに変わりはないんだからな」

「はい」

「それじゃあ、行ってくる」

「行ってらっしゃいませ。ご主人様」


 レクトルは最後にサクラへ視線を移すと、転移を実行した。行き先は創作世界(ラスティア)ではない。【渡扉(ゲート)】を発動させ、直接アルトフェリア王国の首都、アルストロメリアへと転移した。


 転移した瞬間、レクトルは何か違和感を感じて上空を見上げた。


「……! 障壁が……ない!」


 街全体を覆っていた結界の役割を果たす障壁が消失していた。明らかに異常事態だ。その原因もルーミエからの手紙に記載されていた内容から容易く想像することができた。


 ルーミエの予想は悪い方で的中したのだ。状況を探り、ベルを見つけ出す為に【魔力解析(アナライズ)】を実行しようとしたその瞬間、遠くで爆発が巻き起こり幾重もの黒き雷が降り注いだ。


「あそこか!」


 レクトルは【重力支配(グラビテーション)】を発動させると自身を浮遊させ、爆発が起きた地点へと高速で移動を開始した。


「無事でいてくれよ! ベル!」


 手紙を読むまではさほどベルに関しては心配していなかったレクトルだったが、相手が相手だけに今回ばかりは焦りがその身を満たす。


 ベルはレクトルにとって自分が心配するのがおこがましく感じるほどに頼もしい存在だった。知識も能力(ステータス)も生きた長さでさえ先を行くのだ。レクトルが勝っていると言えば魔力と理力くらいだった。


 ベルなら大抵の事は自分でどうにかできる。信頼しているといえば聞こえはいいが、ようは甘えていたのだ。


 そうでなければ気付くべきだった。そんな頼れるベルがサクラを逃がすのに手いっぱいだったことに。しかも、サクラが一度傷つき、フェニアが表に出てくるほどに、だ。


 それほどの相手とベルが戦っているのだと。もっと早く行動に移さなかった自分を叱責するかのように速度を上げる。


「あれは……」


 すると金髪の悪魔らしき男と戦う4人の少女と1人の老人の姿が見えてきた。


「ギルドマスターも戦っているのか。ベルはどこだ……?」


 ざっと周囲を探すが、その姿は見つからない。


「退避したのか?」


 なにせベルは怠惰の悪魔なのだ。戦うのは好きじゃないと言っていた。そう自分に言い聞かせながらも嫌な予感が胸を締め付ける。


(殺されたわけじゃない。大丈夫だ。契約もまだ繋がっている)


 頭をよぎる嫌な想像を奥へと追いやり、ベルとの絆がいまだしっかりと結ばれていることを確かめ安堵する。


 だが、契約を通して探そうにも、街中にはベルの存在を感じとることはできなかった。


「……もしかして創作世界(ラスティア)か?」


 ここじゃないならその可能性が高い。ならひとまずは安心できると、今度はサクラを傷つけた当人であろう金髪の男、魔王オリエンスへと視線を向けた。


「あれがベルに魔王の座を押しつけたっていう魔王オリエンスなのか……? それに、ギルドマスターと一緒に戦っているあの少女たちは?」


 魔王は襲いかかるギルドマスターたちの攻撃を落ち着いた対応で処理していた。


 ロイエンの攻撃を剣で弾き、メイドの少女が糸を駆使して操る短剣を風の魔術か何かで盛大に吹き飛ばす。その隙を狙って斬り込む巫女の少女を天から降り注ぐ黒き雷が貫いた。今度はそこに建物の屋上にいたドレスの上に豪勢な鎧を身に付けた少女が光線を放つ。


 だが、緻密な連携により放たれた攻撃も魔王には通じない。ひらりと回避すると、漆黒の杭がドレス鎧の少女がいた場所を貫いた。だが、その杭が到達する前に少女は飛び出しておりその攻撃は空撃ちに終わる。


「随分と余裕をもった戦いをするな……ってなんだこの能力値(ステータス)は!?」


 気付かれないようにさっと魔王に【魔力解析(アナライズ)】をかけたレクトルはその数値を見て驚愕に目を見開いた。


 本来の魔王の力を取り戻したベルの10倍以上の値を示していたからだ。中には6桁に到達している能力値(ステータス)さえあった。


「同じ魔王でもこんなに差が開くものなのか!? 確かにベルは自分のことをまがい物だと言っていたがこれはあまりにも……」


 ――勝てる気がしない。


 それがレクトルが抱いた魔王オリエンスの印象だった。魔力と理力でいえば異常な成長を見せているレクトルの方が数値は高い。だが、スキルの数もベルとは比較にならない量だった。


 レクトルもスキルはかなりの数を知らず知らずの内に取得しているのだが、レクトルの場合はただ取得しているだけだ。まだその効果や使い方すら把握していなかった。


 それに対しオリエンスは様々なスキルを活用し戦っていた。


 そしてオリエンスが持つスキルの中にあったあるスキルからベルが狙われた理由をなんとなく察したレクトルはベルを守るために創作世界(ラスティア)へ戻ろうと動く。


 その時、ふと気になって魔王オリエンスと戦っている少女たちに目を向けた。


 あれだけの能力値(ステータス)を誇る魔王と及ばずながらも戦う彼女たちはいったい何者なのかと、今さらながらに気になったのだ。


「げっ!」


 【魔力解析(アナライズ)】を実行し、表示された項目に目を通し、レクトルは思わず嫌なものを見たような顔で再度少女たちへと視線を移す。


「《勇者の楽園》……ということは彼女たちが勇者の仲間なのか……ベルと鉢合わせしてないだろうな……? もしかして、ベルたちを襲ったのは魔王じゃなくて勇者の仲間だったのか? いや、それだとベルならまだしもサクラを傷つける理由には……」


 そこまで考えて、サクラが怪我をしていたであろう場所を思い出す。お腹の部分。そこはベルがサクラに魔王核を与えた時に触れた場所だった。


「つまり、サクラを傷つけた理由は魔王核……か。となれば、奪われた可能性が高いな。フェニアが無事ということは勇者側でなく、魔王の方が可能性が高い。取り戻しに来るかもしれないようなことをベルも言っていたからな」


 奪われたのなら奪い返すべきか。あれは今すぐは大丈夫でもサクラの今後の命に関わるものだ。まだ馴染みきっていないフェニアの魔核を安定化させ、いずれ起きる拒否反応による暴発を抑え込みサクラへと浸透させる核となるもの。


 追加で必要になる魔核とは異なり、代用品を探すのも難しい。何しろ、魔王は現在4人しかおらず、その核の1つはサクラから奪われたもので、1つは封印され、さらに1つは既に失われている。生きた魔王は残り1人しかいないということだった。


 そして再びサクラから魔王核を奪い、2人目が復活を果たしたのだ。今逃すと次いつ邂逅するかわからない。それに相手は魔王なのだ。簡単に手に入るものでもない。復活したばかりの方がまだ可能性はある。


 だが、それも全てレクトルの憶測に他ならない。


(今はまずベルから事情を聴くのが先か)


 魔王と勇者の仲間との戦いは膠着状態にあり、今すぐ結果が出ると言う雰囲気にはなかった。しばらくその戦いを観察した後、レクトルは創作世界(ラスティア)へと転移した。


 いつもの泉の場所に転移した後、レクトルはすぐに契約を通してベルの居場所を探る。すると、屋敷の方にはっきりとベルの存在を確認することができた。


「なんだ、やっぱりこっちに戻ってたのか……よかった」


 安堵すると、星屑の館に向けて移動を開始する。レクトルがこの世界に戻ってくると、相変わらず太陽の陽は瞬時に沈み夜の時間が訪れる。


 満点の星空と幻想的な森の風景をもう見慣れたものと寄り道せずに進み、辿りついた屋敷の扉を開け中に入る。


 レアたち奴隷組の出迎えはなかった。


「まだ戻っていないのか? それともちゃんと言いつけを守りもう休んでいるのか?」


 少しサクラ達の事が気にかかりつつも、ベルの気配を感じる居間へと歩を進める。扉を開け中に入ると、ベルはソファに座った状態のまま寝息を立てていた。


「なんだ、寝てるのか? ……まったく、人を心配させといて呑気なものだな。でも……無事だな。特に怪我をした感じもない」


 紅茶を飲んでいたのか、机の上にはソーサーに乗ったカップが置いてあった。淹れてからそんなに時間が経っていないのか、まだ湯気が立ち上っていた。


「疲れて眠っているなら、起こすのは野暮ってものか」


 レクトルは別の部屋から軽い布を持ってくるとベルにそっとかけた。起きたらまた話を聞こうと音をたてないように部屋を出ると今度はサクラたちの居場所を契約を通して探る。


「やっぱりまだ戻っていないみたいだな。何かあったのか?」


 さっきの状態からそれなりに時間は経っている。十分に戻って休める時間はあったはずだと今度はサクラたちのことが心配になってきたレクトルはここなら安全だろうとベルをそのままにした状態で再びライアミッツの森へと転移した。


 その瞬間、何やらあわただしい声がレクトルの耳に飛び込んできた。


「サクラ様! 落ち着いてください!」

「ベルベルが! ベルベルが!」


 どうやらサクラが目を覚ましたらしい。だが、気を失う前の光景が目に焼き付いているのか、今の状況を理解できずに動揺しているようだった。暴れるサクラをレアが必死に抑えていた。


 その様子からも一体何があったのかを察したレクトルは取りあえずベルが無事だったことを伝えようとサクラに駆け寄った、その時……


「ダメ! ダメ! 私のせいで……私の……私が、ベルベルの言うこときかなかったから……!」

「サクラ!」

「あつっ!」


 レクトルの呼びかけもサクラには届かず、サクラの身体を薄い火の粉が舞う。その熱に耐えかね、レアがサクラから身を離した。


「ベルベルが……ベルベルが……!」


 火の粉は次第に炎となり、サクラの周囲を渦巻き、立ち昇っていく。魔王核を失ったからか、レクトルの魔力による抑制もうまく機能せず、そこには僅かばかりの瘴気が混じっていた。


「サクラ! 落ち着け! ベルは無事だ!」

「ああああああああああああ!」


 目を覚ました時に、ベルの姿も、レクトルの姿もなかったのが災いしたのかもしれない。レクトルに助けられてからの日々がサクラにとってかけがえのない、幸せの連続だったが故に、その幸せの日々の崩壊はサクラに絶望を抱かせた。


 サクラの心を埋め尽くす負の感情は魔核と呼応し、暴走する。それは力を使い果たし、疲れたフェニアにも抑えられるものではなく、とめどなく溢れる力はさらなる不幸を呼び寄せた。


「なんだ……?」


 レクトルはサクラに呼びかけつつも、嫌な気配を感じ周囲をうかがう。


「森の魔物が……」


 同じように感じたのだろう。アシュリアも森へと視線を移し、ブルリとその身を振るわせる。その顔は青ざめていた。


 サクラの力に反応したのか、森の魔物がまるで連鎖反応を起こすかの如く連なり、広がり、意識を、敵意をこちらに収束させていく。


「このままでは! レクトル様! 退避を!」

「だが……!」


 アシュリアが危機的状況からの脱出を提案するが、レクトルは今の状態のサクラを放っておくことなどできなかった。創作世界(ラスティア)へサクラを連れて転移することはできる。


 だが、今の状態のサクラを連れて行ってどうなるか予想もできない。あそこには今ベルが寝ているのだ。恐らくは魔王と戦い、疲れた状態で。


「ご主人様!」

「なっ!!」


 迷いを見せるレクトルに事態の変化を感じたレアが叫ぶ。


 サクラを包む炎の勢いがさらに増したのだ。それだけではない。サクラ自身から感じる威圧感のようなものも大きくなっていく。


 それは森から感じる嫌な気配と比例して大きくなっているかのようだった。


「まさか……!」


 レクトルはとある心当たりからサクラに対し【魔力解析(アナライズ)】を実行する。そしてその懸念は確信へと至る。


「敵は倒さないと! ベルベルが……! ベルベルが……!」


 呟くサクラの手にはいつの間にか【星桜刀】が握られていた。


「マズイ! みんな伏せろ!」


 レクトルが叫んだ瞬間、サクラから立ち昇っていた炎が【星桜刀】へと収束していく。その言葉の意味を悟り、アシュリアやレアたちが一斉に地面に伏せた。


 レクトルはそこにさらに防御や耐性を上昇させる系統の魔術を重ねて発動させる。特に炎熱系の耐性を付与する魔術には大量の魔力を注いでいた。


「ああああああああああああ!!!!」


 サクラから立ち昇っていた炎や瘴気が全て【星桜刀】へと注がれた瞬間、叫び声とともにサクラはそれを全力で振り抜いた。


 その一撃はサクラを中心に放射状に広がり、その道中にあった木々や魔物を跡形もなく焼き尽くしていった。森を抜けた頃には炎は勢いがなくなっていたが、熱波となって森の外で異変を眺めていた騎士団“曇烏(レイゼンブール)”をも吹き飛ばしていた。


 幸いにも死人は出なかったものの、森の近くにいたものは全身が焼けただれ、かなり重症を負っていた。


 森にいた魔物もその大半が跡形もなく死滅していた。木々も根こそぎ燃え果て、炭のように焼け焦げた地面がただ広がっていた。ところどころにはまだその余韻を示すかのように揺らめき燃える火が燻っている。


「……間一髪だったな……」

「は……はい……」

「でも、これほどなのか。これが……サクラの力……」


 そんな中、レクトルやアシュリアたちは無傷で生き延びていた。攻撃の中心地にありながらも、その周囲にはまだ緑が残るほどに被害が少なかった。


 レクトルの魔術のおかげか、サクラが無意識にでも仲間を傷つけないように力を制御したのか。不自然なほど綺麗に半径5m程だけが森の面影を残していた。


 【一騎当千(オーバークオリティ)】。サクラが持つ固有スキル。自身に敵対する者の数だけ自身を強化する力。サクラに向ける敵意の数で強化が行われるという内容から試すのも難しいと思っていた力を思いがけない形で知ることとなったレクトルはそのすさまじさにただただ驚愕していた。


「サクラ様!」

「まだ……こんなんじゃ……ベルベルは……!」


 フラフラとその身を揺らしながらもサクラはまだ暴走を続けていた。もはや意識があるのかも怪しい状態。だが、その身を包んでいた炎は先ほどの一撃で飛ばしたからか、なりを潜めている。


 魔物が倒され、その数を減らしたことも関係しているだろう。


 レクトルはこのチャンスを逃すわけにはいかないと、サクラに駆け寄る。そして、そっとサクラを抱き寄せた。


「は、離して! 私は! 私は!!」

「落ち付けサクラ。大丈夫、大丈夫だから……」

「し……しょう?」

「あぁ、もう大丈夫だ」

「うぅ、う……。師匠……師匠ぉ! ベルベルが……ベルベルが……!」

「大丈夫、ベルも、ちゃんと無事だから」

「うぅ、うわぁ~~ん!」


 レクトルに抱きつき、サクラはただ泣き続けた。その間ずっと、レクトルはサクラの背中をポンポンと叩き、あやし続けた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 その頃、星屑の館で眠っていたベルはかけられた布の感触からか目を覚ました。


「ん……何これ……? 誰か帰ってきたのかしら? それにしても、いつの間にか眠っていたみたいね」


 ベルは布を椅子に掛けると立ち上がり、残っていた紅茶を飲みほした。


「まだ温かいじゃない。なら、そんなに経ってないわね」


 カップを机に残し、そのまま居間を出る。だが、屋敷は静かなもので誰の気配も感じない。


「どういうこと?」


 誰か帰ってきたのではないのか。自分で布をかけた記憶はない。だが、布だけかけてまたどこかに行く理由もわからなかった。


 サクラではないだろう。あの戦いの後なのだ。可能性として考えられるのは獣人族のメイドか主だけ……。


 主なのだとしたら、それはきっとフェニックスが現状を伝えた可能性が高い。それを知った時、主であるレクトルならどうするか。


「まさか!」


 そこまで考えてベルはひとつの可能性に行きあたった。何せ、あの魔王オリエンスはサクラから魔王核を奪い取ったのだ。


 サクラに甘い主の事だ。きっと取り返しに行くに違いないとベルは不吉な何かを感じとり、すぐさまあの戦いの場、アルストロメリアへと転移した。


「何よ、これ……」


 そして目にしたのは破壊された街。立ち昇る煙。倒れ伏す《勇者の楽園》のメンバーたち……


「一体……何が……」


 幸いにも主の気配は感じない。契約は正常に働いている。だが、それならこれはと考えたところで背後に気配を感じて慌てて振り返った。


「どこに隠れていた? 相変わらず手間ばかりかけさせるのだな」

「オリエンス……」


 フンと鼻をならすと、戦闘態勢にはいる。漆黒の球体がいくつも出現しベルを取り囲んでいく。


「まぁいい。戻ってきたのなら、さっさと我が計画の贄となるがいい!」

「……っ!!」


 ブウゥンと漆黒の球体が震えだした途端、ベルの身を耐えがたい負荷が襲う。その瞬間、天より幾重も発生した黒き雷がベルを貫いた。


次回12/30更新予定

次話で3章完結は難しそうです。でも、去年同様年末年始連続更新で終わらせるかも。

ということは2章完結からちょうど1年なんですね。3章どんだけ長いんだ……

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