098 勇者の楽園
12月は何かと忙しいんです(言い訳)
このままでは話数が伸びてしまうので、次回以降は長めにしたいところ
ロイエンは目の前で繰り広げられる光景に気が気でないでいた。
やっと到着した《勇者の楽園》一向がレクトルの仲間であり、魔王を食い止めてくれていたベルを攻撃し出したからだ。
だが、ベルと話をして状況を理解したのか、一時は共闘の姿勢を示していた。それもつかの間、さらなる乱入者を交え、事態は混迷を極めていく。
魔王に操られる勇者代行カレンディナ。敵対するカレンディナに対抗するベル。そして、それを目撃し暴走する【姫巫女】キサラ。
ロイエンがこの場に駆け付けた時には時既に遅く、キサラの一撃によってベルの姿がかき消えた時だった。
「なっ! ベ、ベルフェゴール君が……!」
実際にはベルはレクトルとの契約を通して創作世界へと転移しただけなのだが、そのあたりの事情を知らないロイエンはそれをキサラの力によるものだと思い込んでいた。
間に合わなかった。魔王が味方などという骨董無形な話を信じてもらえるわけがないと話を共有しなかった自身の責任だと悔いるが、そもそもベルの正体に関しては誓約によりロイエンから他者に伝えることはできなかった。
それでも何か伝えようはあったはずだと後悔の念に苛まれる。これではレクトルに顔向けできない。
「アルトフェリアのギルドマスター……か?」
すると、建物の屋上に着地し周囲を警戒していたキサラが焦った表情でこの場に現れたロイエンに気がついた。
「う、うむ。久しいね。キサラ君」
「魔王が2人いたとは聞いていないぞ」
「い、いやそれは……」
キサラが先ほど攻撃を仕掛けたベルとは別の魔王、オリエンスへチラッと視線を向けながらロイエンに言及する。
ロイエンもオリエンスへと視線を向けるが、攻撃するそぶりを見せない為、警戒しつつもキサラの問いに答える。
「魔王はそこにいる金髪の男だけだよ」
「何……?」
ロイエンがそう告げた瞬間、キサラの目が鋭くロイエンを睨みつけた。ピリッとした嫌な威圧がロイエンを襲うが、さすがにランクSの冒険者と言うべきか怯むことなく対峙する。
「ベルフェゴール君をどうしたのかね?」
「それは、あの赤髪の魔王の事を言っているのか?」
「そうだよ。彼女は協力者なのでね」
「ギルドマスターともあろう者が、血迷ったか……っ!」
その瞬間、キサラの殺気がさらに膨れ上がった。大気が怯えるように振動する。
「違うのだ! キサラ君は誤解している! 彼女は魔王ではないのだよ!」
「なら、何故カレンを傷つけた! 魔王でないのなら……協力者だというのなら! カレンと戦うことなどなかったはずだ……!」
「そ、それは、カレン君が操られていたからで……!」
「世迷言を……!」
ロイエンは遠くからでも状況をなんとなく理解していた。獣人族特有の視覚や聴覚の良さはあっても、自分よりも先に現場に到着していたはずのキサラが何故自分よりも状況を把握していないのか不思議だった。
だが、当のキサラはカレンが傷つけられたことによって頭に血が昇り、正常な判断ができないでいた。自分の不甲斐なさを嘆き、カレンを傷つけたベルをかばうようなことを言うロイエンに殺意を向ける始末だ。
「マスターロイエンの言っていることは本当の事ですわよ」
「……っ!」
魔王を放置し、今にもロイエンにとびかかりそうなキサラを押しとどめたのは他ならぬカレンディナの言葉だった。
シュゼリアとロロットの介護もあり、気絶から目覚めたカレンディナは未だ痛む身体を擦りながら立ちあがった。
「つつ……全く、敵の策に嵌ったこちらが悪いとはいえ容赦が無さすぎではないかしら? あの魔王……今度会ったらただじゃおきません事よ」
「カ、カレン! だ、大丈夫なのか? 痛むところはないか!?」
「えぇ、問題ありませんわ。痛みはまだありますが、こんなのはいつもの事でしょう?」
「し、しかしだな……!」
なおも言い募るキサラを制し、カレンディナは金髪の魔王に向き直る。
「私たちはリサの代理としてここにいるのですよ? なら、果たすべき使命があるはずですわ」
「……っ! ああ! そうだな!」
カレンディナの言葉にやっと調子を取り戻したのか、キサラもここにきてようやく本来の討伐対象である魔王オリエンスへと敵意を向けた。
「お嬢様、あまり無理はなさらないでくださいね」
「そうですよ。私の治癒も応急処置みたいなものなんですから。無理は禁物です」
その隣に、ロロットとシュゼリアが並ぶ。
「わかってますわ。でも、ここで無理しないでいつするんですの? 相手は魔王ですのよ?」
「だが、何かあってからでは遅いんだ」
「そうならないように、あなたたちがサポートしてくれるのではなくて?」
「はぁ、仕方ないですね」
「でも、あの赤髪の魔王はいいのか?」
カレンディナの言葉で一応矛は収めたものの許したわけではないキサラはベルの事を問いかけた。魔王ではないと言われてもあの容姿、いつだったかティリエが話していた魔王の特徴と一致するものがあったからだ。
「問題ありませんわ。あれは本当に魔王ではないんですもの」
「だ、だが!」
「魔王の瘴気に、このリサの鎧が負けると思っているんですの?」
「い、いや、そういうわけでは……」
カレンが指すのは自身が【貴族の責務】の力で勇者リサより借り受け身に纏っている鎧、【勇者の鎧】だった。勇者の本質である“瘴気に打ち勝つ力”すらも体現するこの鎧があれば、魔王の力など本来はものともしない。
理不尽な相手を圧倒的な理不尽を以て立ち向かう。それが勇者の力だからだ。
「彼女の中には微塵も瘴気の力を感じませんでしたわ。わたくしもあの見た目でと驚いたものですが……話してみればか弱い少女を傷つけられて魔王に戦いを挑む、好ましい少女でしたわね」
「カ、カレン!」
「それに……」
まるで魔王を擁護するような言葉にキサラが叫ぶが、カレンディナは気にした様子もなくスッとキサラの唇に人差し指を添え言葉を遮る。
「言いましたわよね? マスターロイエンの言葉は真実だと。なら、あなたの怒りを向けるべき矛先は他にあるのではなくて?」
「……? ……あっ!!」
そう言われ、キサラはロイエンの言葉を思い出す。そしてその言葉の意味を理解した。確かにロイエンはこう言っていたのだ。操られていた、と。冷静な状態になってようやく気付く。
大切な友を操り、協力者と敵対させていた。先ほどカレンが傷ついたのも、元を正せばあの金髪の魔王のせいだということに。
「やるべきこと、きちんと理解できましたわね?」
「あぁ、問題ない……!」
カレンディナはみなに慕われているのもうなづけるほどに仲間のことをしっかりと理解していた。相手を傷つけることなく、思いを説き、道を正す。個性豊かな仲間をまとめ、正しく導く。
ここにきてようやく、勇者代行たるカレンディナ含む《勇者の楽園》一向は4人揃って魔王オリエンスへと対峙することとなった。
「シュゼリアが来た今、先ほどのような手がもう通じるとは思わない事ですわね」
「くだらん。我は今貴様らに構っている暇はないのだ。早々に消え去るがいい」
突如消え去ったベルフェゴールの行方を捜すのに手一杯なオリエンスはまるで邪魔なゴミでも払うかの如く言い放った。
「貴様っ!」
「行きますわよ!」
「はいっ!」
「援護は任せて!」
その言葉を受け、キサラが自身の失態を払拭するかのごとく斬りかかった。それにカレンディナが続く。ロロットやシュゼリアはそのサポートに回る。
「もちろん、私も加勢するよ」
そこにロイエンが加わり、勇者代行と魔王の戦いはここに開戦することとなった。
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