097 巫女姫キサラ
すみません、今回も短めです。
なんとか年内に3章は終わらせたいですね。
キサラは《勇者の楽園》のメンバーの中でも仲間思いで有名だった。守るべき民よりも身内を優先する。それを敬愛する勇者リサに咎められても、その優先順位が変わることはなかった。
過去、勇者一行に救われたキサラはその生涯をリサ達に捧げると誓った。《勇者の楽園》に加入し、リサと契約を交わしたのもそのためだ。行動を共にし、少しでも力になりたかったからだった。
リサ達が街の者たちを守りたいと言うのであれば、キサラはそれに対しての協力を惜しまない。だが、それはあくまでリサ達がしたいことに賛同するのみで、キサラ自身が街の者たちを助けたいと望んだわけではなかった。
もし、敵の攻撃が仲間と街の住民、その両方に飛び火し、そのどちらか一方しか守れないとなれば、キサラは迷わず仲間を守るだろう。例え仲間自身が自力で対処できたとしても、キサラの判断は変わらない。
それは今回の作戦でも同じだった。ただ街が魔王に襲われたという要請だけではキサラはわざわざアルトフェリアまで出向いて魔王と戦うことはしなかっただろう。
今回要請に応えたのはあくまでもキサラよりも古参のメンバーであるカレンディナが参加を表明したからだった。
リサを除いた《勇者の楽園》のNo.2。キサラを救った時のメンバーの一人でもあるカレンディナが今は戦えないリサの代わりに魔王と戦うというのであれば、自分はそれを全力で支えると参加を表明した。
だが、そんなキサラの眼前に飛び込んで来た光景は到底信じられないものだった。
勇者リサの力、【勇者の鎧】を身に纏い、ロロットが拘束した赤髪の魔王を攻撃しようとしたカレンディナをその魔王は軽々と拘束から脱するとそのままカレンディナを吹き飛ばしたのだ。
土煙を上げてカレンディナは近くの建物へとぶつかり激しい衝撃音を響かせた。
その瞬間、キサラの中で様々な後悔が木霊する。
ギルドに寄らず、すぐさま駆け付けていれば
もっと急いでいれば
合流を待つように伝えておけば
……あいつがいなければ――
キサラの視線は今カレンディナを吹き飛ばした元凶たるベルへと固定されていた。
殺気を纏い、腰の刀を引き抜く。その足取りは徐々に速くなっていく。
カレンディナの様子を見に行きたい衝動に駆られるが、すぐにそっちへ向かったシュゼリア以上に自分にできることはない。【修道女】であるシュゼリアは【看護師】のファルフィナと並んで《勇者の楽園》のメンバーの中でも1、2位を争う治癒のスペシャリストなのだ。
【使用人】のロロットも駆け付けた。キサラは守るべき住民よりも仲間を優先すると言っても、仲間の力を信じていないわけではない。むしろリサやカレンディナに次ぐレベルで信頼していた。
ただ、一度大切な者を失った過去があるが故に、耐えられないだけだった。
この場にいる《勇者の楽園》のメンバーがみんなカレンディナの為に動いたなら、自分にできる最善はこれ以上の被害を防ぐことだ。
「わが友を傷つけた報い、その身で受けよ」
「――っ!」
キサラはまるで間に合わなかった未熟な自分を戒めるようにカレンディナの方へ視線を一瞬移すと跳躍、それと同時に左手に持っていた札が燃え上がった。その瞬間キサラの姿は掻き消え、ベルの背後へと瞬時に移動する。
そのまま言葉を発することなくキサラは無造作に刀を振り抜いた。
ヒュオっと空気を切り裂く研ぎ澄まされた一撃がベルがいた場所を横薙ぎった。それと同時に衝撃波が発生する。
「なっ!? 消えっ!?」
「これは……!?」
だが、その一撃がベルを捉える事はなかった。キサラが刀を振り抜く直前、ふっ、とベルの姿が突如掻き消えたのだ。
それにキサラが周囲を警戒し身構えるが、それ以上に動揺していたのは成り行きを見守っていた魔王オリエンスだった。
「気配遮断……? いや、大罪の力を通しても存在が感知できない……だと!?」
ベルやオリエンスが現状持つ七つの大罪のスキル、【傲慢】【憤怒】【嫉妬】【怠惰】【強欲】【暴食】【色欲】は統括スキル【大罪の責務】があるように互いに繋がりを持っていた。
オリエンスは最初に手にした【暴食】の力から他の大罪スキル保持者の捜索を行う際にその繋がりを利用していた。正確な位置まではわからなくても、なんとなくどのあたりにいるのかが認識できたのだ。
だが、今その力を経由してもベルの居場所を見つけることが出来なくなっていた。
「どういうことだ?」
懸命に探るが、結果は変わらない。オリエンスにとってベルは自身の目的を達成するための最後の1ピースなのだ。諦めるわけにはいかなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
キサラが警戒し、オリエンスが捜索を行っていた頃、ベルはふぅと一息つくと創作世界の中を星屑の館目指して歩いていた。
「勇者一行が4人も集まったのだから別に問題ないわよね。全く、次から次へと面倒過ぎなのよ」
元々サクラを逃がし、主が後悔しないように少しでも魔王から街を守る為に戦っていたのだ。必ずしも魔王オリエンスと戦う必要はベルにはなかった。
それは本来やっと集まった勇者の役割なのだ。間違っても魔王であったベルがやることではなかった。
サクラを傷つけた仕返しとして一発ぶん殴ってやりたいという気持ちはある。このまま放置すれば後でフェニックスに愚痴を言われるかもしれない。それでも、今は面倒さが勝っていた。
「あの2人はいるかしら?」
星屑の館の戸をくぐると、辺りを見回す。お茶を入れてもらおうと獣人のメイドを探すが、館の中は静かなもので、人の気配は感じられなかった。
「フェニックスもいないわね。いたら文句を言ってやろうと思ったのだけど、どこかに彼を探しに行ったのかしら」
だとしたら、それはそれで重症を負ったサクラを連れまわすことは感心しない。
「まぁ、あのフェニックスがサクラの負担になることをそうそうしないわよね」
下手をすれば自分よりもサクラに関しては悪魔らしからぬ過保護を見せているのだ。今は心配しても仕方がないとキッチンへ向かうとカップとソーサーを取り出してポットに茶葉を淹れお湯を注ぐ。
それを居間まで移動し机の上に置くと、ソファに腰を下ろした。
「ふぅ。ちょっと疲れたわね。久々に力を使いすぎたわ。魔力に限りがないのはいいけれど、加減が分からなくなるのが難点ね。よくもまぁ、私のご主人様はあれだけ見境なく魔力を使えるものね」
すぐ回復するからと際限なく魔力を消費しているレクトルに称賛を贈るベル。魔力は使用後にすぐに回復しても疲労は蓄積されていく。集中も徐々に乱れ、思っているように力が使えなくなっていた。
そこに新たな敵が殺気という明らかな敵対心を以て現れたのだ。自分が待ち望んでいる者は一向に現れないのに、敵ばかりが増える現状にベルは嫌気がさし、退避を選んだ。
「ま、これが正しき本来の私の姿よね」
何を隠そうベルは“怠惰”の悪魔なのだ。そもそも魔王をまともにやっていた時よりも真面目に戦っている最近の方がベルにとって異常だった。
前回の勇者との闘いだって件の魔法少女以外とは顔すら合わせていないのだ。ベルはティーカップに注いだ紅茶を一口飲むとほっと一息ついた。
カップをソーサーに置き、ソファの背もたれに体重を預ける。
「さて、どうしたものかしら……」
このままここで主やフェニックス……サクラが戻るのを待つか、再び戦場に戻って魔王や勇者の仲間と戦うか、あるいは……
色々考えているうちに疲れもあってかベルの瞳は重く、ゆっくりと閉じていった――
次回12/16更新予定
このままうまくいけば12/30でちょうど100話(幕間除く)で3章エピローグとなりそう?
……なったらいいな。




