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091 ベル VS オリエンス


「おいっ! 街の障壁が!」

「嘘だろ!? よりによってこんなタイミングで!」

「いや、こんなタイミングだからこそだろう。落ち着けっ! こんな事態だからこそ、俺たち冒険者が率先して事態の収拾に務めるんだ!」


 強制依頼で街の住人の避難を実施していた冒険者たちには街の障壁が砕け散るという異常事態に動揺が広がっていた。だが、腐っても冒険者。経験豊富な高ランクの冒険者が乱れる者たちを落ち着かせ、避難誘導を再開させていく。


 そこで一人の冒険者が砕けた障壁から何かが落ちてくるのを見付けた。


「おい、あれはなんだ?」

「何かが落ちてくる?」


 それは一筋の軌跡を描いて商業区画へと落ち、激しい落下音を響かせた。


「マズい! あの区画はまだ避難指示が行き届いていないはずだ! 急ぐぞ!」

「くそっ! 次から次へと! 魔王の襲撃なんぞいつぶりだ!? だいたい国はなんでこんな事態になるまで情報を秘匿してやがったんだ!」

「サブマスの話じゃパニックを抑える為だけじゃなく、逃げる者を出さない為だったらしい」

「どういうことだ?」


 事情を知っているらしい仲間に問いかけるAランクの冒険者ラドラ。まだ若い身でありながら落ち着いて事態の把握に努め、冷静に物事に対処する彼はこの中でもリーダー的存在だった。


 長い銀髪、見目も麗しく人望も厚い。アルストロメリアにいる冒険者の中でも数少ないAランクということもあり、非常事態の中でも率先して動いていた。


 魔王の襲来という危機的状況にありながらも、今までと変わらず冷静に事態の把握に努める。その行いが未来の生死を分けることを知っているからだ。


「なんでも今回襲撃に来た魔王は自身から逃げる者を容赦なく殺すような奴らしい。情報を開示すればパニックになり、逃げだす者が多かれ少なかれ現れる。そうなれば、もはや手が付けられないと判断したようだ」

「そこまで情報を把握していたのか。それにしてもこれでは……後手に回っているな。なんとか障壁だけでも復活させなければ懸念していたパニックが巻き起こるぞ」

「だな。避難誘導はあいつらに任せて、俺たちはそっちの方を調べるか」

「そうだな。よし」


 話をまとめ、今後の方針を決めたラドラはこの場に集まっていた冒険者に指示を飛ばす。


「ゼンとセルビアは商業区画へ。さっき何かが落下したところを中心に調査と避難を進めてくれ」

「おう! 任せろ!」

「えぇ」

「モスフィとバラドックは引き続きこの辺りの避難誘導を進めてくれ」

「あぁ!」

「了解した」

「俺とタスムルは障壁が破壊された原因の調査と修復を試みる。事態は魔王が関わる案件だ。十分に注意してくれ! 決して命を無駄にするなよ!」

「よっしゃ、いくか」

「あぁ」


 各々の役割を果たすため、冒険者は別れ、目的地に足を向ける。その様子を物陰から見ていた男性が一人。


(魔王の襲撃だって!? この私が何故こんなことに巻き込まれなければいけないんです!? せっかく出られたというのにこれでは……いや、まだ運は私にあります。逃げる者を容赦なく襲うというのなら、事態が収まるまで身を潜めればいいだけじゃないですか。ふふふっ、私はまだこんなところでは終われないんですよ!)


 男は暗闇に身を溶け込ますように消えていく。そこにはもう誰かがいた痕跡はなくなっていた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「つつつ、あの魔王め。やってくれたものだね……いやはや、これがなければ危なかったよ」


 ロイエンは背中にあるひしゃげた盾……【千変万化(アシュト・ルミエ)】の成れの果てを引っ張り出す。盾が受けた物理的ダメージを反射する盾術の奥義【鏡天(きょうてん)】を発動させ、勢いを殺すことでなんとか一命を取り止めていた。


「随分と体積を減らしてしまったね。コアは無事だが、これではまともに戦えまい……また、彼にお願いにいかないといけないとは……先が思いやられるよ」


 ロイエンは「はぁ」とため息をつくと、よっこらせと身を起こす。ガラガラと自身が墜落したことで崩れた家の瓦礫をどける。【鏡天(きょうてん)】で勢いを殺したとはいえ、かなりのダメージを受けていた。片足を引きずりながら家だった場所から外に出て、状況を把握する。


(なんと……! あれはベルフェゴール君ではないか! 隣にいるのはサクラ君か……。まさか魔王の襲来を察知し応援に? いや、これは……)


 そこには先代魔王オリエンスと対峙する元魔王ベルフェゴールの姿があった。ロイエンは状況を把握するために、瓦礫の影へと身を潜めた。


「まさか無事だったとはな。探したぞ」

「あら、そう? 私は二度と会いたくなかったわ」

「しかし、その姿……人間になり果てたか?」


 まるでそんな素振りを見せず、平然と言ってのけるオリエンスに対し、ベルは差し伸べられた手を払いのけるように言葉を返す。だが、ベルの内心は言葉とは裏腹にかなり焦っていた。


(サクラ! 今すぐ彼の元へ戻りなさい!)

(ふぇえ? ベルベル? どうやってるの?)

(いいから! 私が気を引いている間に早く……!)

(で、でも……敵なら私も一緒に戦うよ!)

(あぁもう! どうしてそうなるのよ!)


 オリエンスがここに現れた理由を正確に理解しているベルはサクラを危険から遠ざけようとレクトルを介した契約を通じて語りかけるが、その思いはサクラに届かない。もたついている間に、人間の姿になっているベルを観察していたオリエンスが異変に気付いた。


「む? これはどういうことだ? 我が魔王核の気配が……感じられない、だと? いや、それ以前に、貴様、どうやってこの場に存在している? その力はなんだ!?」


 ベルに預けたはずの自身の魔王核の力が感じられず訝しむオリエンス。魔王核どころか瘴気すら感じられないベルを驚きの表情を以て見つめていた。


 それは先ほどまでの余裕が消えうせつつあるほどに、オリエンスにとって想定外の事態だった。彼の持つ計画が根本から覆り兼ねないほどに。


「さぁ? どうして私がそれを教えなきゃいけないの?」

「それが誓約だ。私はお前に魔王核を一時預けたに過ぎない。時がくれば返してもらう。忘れたわけではあるまい?」

「何を言っているのかしら。そんな誓約、とうに破綻しているのよ。見てわからないの?」

「……? まさかむ――」


 オリエンスがベルの言い分を理解し言葉にしようとした瞬間、青白い斬撃が魔王を襲った。それはベルが持つ【堕落鎌(レイジネス)】により振るわれた【鎌術】のLv.7奥義、【飛蒼】だった。


 だがそれを半身になってかわすオリエンス。そこには余裕が感じられた。


「ちっ、むかつくわね。すんなり斬られなさいよ」

「我を裏切るか。ベルフェゴールよ」

「最初から仲間じゃないでしょ」

「ふっ、確かに。なら、こちらも力づくでいかせてもらおう」


 その言葉を放った瞬間、オリエンスが身に纏う瘴気が膨れ上がった。荒れ狂う瘴気と魔力が吹きすさび、周囲を吹き飛ばした。


「ひっ!」


 その魔王が持つ威圧に、普通の者は耐えられない。身動きすら取れず、できるのはただ死を待つことだけだった。間近でその圧を受け死を覚悟した屋台の男はしかし、命拾いすることになる。

 

「望むところよ!」


 【魔王の矜持】を発動させたベルが【堕落鎌(レイジネス)】を一振り。その瞬間発生した幾重の斬撃を以てオリエンスを吹き飛ばしたからだ。それはかつて異質同体(キメラ)を切り裂いたものと同種の鎌術のLv.8奥義、【死縫(しらぬい)】だった。


 ベルもすぐさまその後を追うように飛び上がった。その姿はすでに魔王そのもの。頭の角も背中の羽も【存在偽装】が解除され、元の姿へと戻っていた。


「ベルベル!」

「あなたは主に助けを求めなさい!」

「でも……!」


 目の前で仲間が戦っているのに、そこから逃げることなんてサクラにはできなかった。例えそれが助けを呼ぶ為だとしても、その間に何かあればと嫌な未来が頭をよぎる。


「お願いフェニア、力を貸して……!」


 空中で戦うベルとオリエンスの戦いに、空を飛ぶ手法を持たないサクラは力になれない。【星桜刀】を握りしめ、自身の中に眠る悪魔へと助力を求めた。


 空中ではベルとオリエンスの攻防が続いていた。


「瘴気を生む核を失ってなお、その力を発動させるとは。それにさっきの話、まさか人間の下に降ったというのか」

「ふ、そうね。素晴らしいご主人様よ。私は今幸せなの。邪魔しないで欲しいわね」

「悪魔の面汚しが! 【魔王の矜持】を持ちながら、悪魔の矜持を侮辱するとは!」

「くっ!」


 オリエンスが身に纏う瘴気がさらに膨れ上がる。それはベルが記憶していた過去のオリエンスとは比べ物にならないものだった。


「随分と腕を上げたのね」


 その異常さにベルは焦りつつもそれを悟られないように冷静に言い放つ。たとえそうでなくても格が違うのだ。本来の実力で魔王の座についたオリエンスと、ただ魔王核を一時譲り受けその力を借り受けたまがい物のベル。


 そこからさらに力をつけているとなると、ベルが相手になるはずがなかった。できたとしても時間を稼ぐことだけだった。サクラが主を呼びにいかなかったとしても、この状況を好転させる可能性にベルは心当たりがあった。


「フン、以前の我とは思わないことだ。魔王最弱と言われていた過去は今日を以て終わりを告げる。貴様が最後の仕上げだ。この時をどれほど待ちわびたことか……!」

「何を……言っているの?」


 言葉を交わす間も剣と鎌による攻防が続く。闇の魔力を打ち付け合い、紫の光が激しく瞬く。力は圧倒的にオリエンスが上回っていた。ベルはレクトルより供給される魔力を膨大に消費し、なんとかそれにくらいついている状態だった。


 常に全開。自身への強化と、レクトルが創作した【堕落魔王の変装着】へ魔力を供給し、【物理保護】と【魔力保護】を展開し続ける。


「どういう絡繰りだ? 一体どこからそれだけの魔力を? 我が攻撃をここまで防ぎ続けるとは一体……」


 オリエンスは驚きを通り越して感心していた。まさかここまで抵抗されるとは思っていなかったのだ。手を抜いているとはいえ、能力値(ステータス)は桁が1つ違うほどに開いているというのに抗えるその理由がわからなかったのだ。


 ただ力をもっと開放し、さらなる力を以て蹂躙することもできた。だが、オリエンスはその力に興味を持った。自身に取り入れられないかと考えたのだ。


 オリエンスは元々魔王の中でも力が劣っていることを自覚していた。その中で届いた勇者による南の魔王アマイモン消滅の報告。自身よりもはるかに古くからあり、実力が上の魔王がたかが人間に倒される。その事実は当時のオリエンスに衝撃を与えた。


 力よりも頭脳に優れたオリエンスはアマイモンの二の舞にならないようにすぐさま行動に移した。ベルフェゴールと出会ったのはそんな時だった。その存在はオリエンスにとって、今後の行動を決定づけるものとなった。


 もう少しでそれが達成される。だが、それを前にして提示されたさらなる力の可能性。オリエンスは自身の頭脳をフル回転させ、その力の探求に勤しんだ。それは片手間でもベルの相手を成せるが故にできたことだった。


 だが、ベルとてただ攻めあぐねていたわけではない。記憶にあるオリエンスと、今目の前にいるオリエンス。その違いを見極めていた。少しでも勝機を見付ける為に。


「【黒剣】展開、斬り刻みなさい!」


 ベルの命令に従い、幾重も生み出された漆黒の剣がオリエンスを襲う。全ての黒剣が襲い掛かったわけではなく、5つほどはベルの周囲を旋回していた。


「無駄なことを」


 オリエンスはまるで蠅を叩き捨てるかの如く、その攻撃を全て剣撃によって撃ち落としていく。弾かれるだけではない。ひとつ、またひとつと確実にその数を減らしていった。


 だが、ベルにはそれで充分だった。黒剣はベルのスキルによって生み出されたものだ。壊されても魔力が続く限りいくらでも補充ができる。それはレクトルの魔力供給を受けているベルからすれば無限に生み出せるに等しかった。


 壊された端から新たな黒剣を生み出し、オリエンスに向かわせる。そして自身はさらなる一手を放つ為に力を溜めた。


「【炎掌爪(ハルファバール)】!」

「ふん」


 ベルの交差した両手に生み出された灼熱の巨大な手を模した炎をクロスに振り払う。その瞬間、灼熱の斬撃がオリエンスを襲う。だが、オリエンスは避けることもせず、自身の魔術防御……護力だけでそれを受けきった。


「まだよ! 【黒鋲渦(ネルフィガル)】!」


 今度はオリエンスを中心に漆黒の杭が魔法陣より生み出され、オリエンスを包囲した。それを射出すると同時、既に展開していた黒剣に対しても奥義を発動させる。


「【乱咲】!」


 魔術と物理。荒れ狂う斬撃と刺突の嵐が吹き荒れた。そこに留めとベルは【黒剣】にて生み出した長大な大剣を投げつけた。


 だが、それは切っ先が中心に到達したであろう位置で急に停止する。そして煙が晴れると、そこには片手で黒大剣を掴み、つまらなそうな顔をしたオリエンスがいた。


「この程度か。それだけの力も、扱う者がこれでは宝の持ち腐れだな」

「うそでしょ……」


 倒せるとは思っていなかった。それでも、主であるレクトルから膨大な魔力供給を受け、それを全力でつぎ込んだのだ。少しでもダメージを期待していたのは言うまでもない。


 だが、蓋を開けてみれば全くのノーダメージ。ここまで差があるのかとベルは驚きを禁じ得なかった。


「力とはただ振るえばいいものではない」


 オリエンスの姿が掻き消える。そして次の瞬間にはベルの目の前に現れていた。


「うぐっ、このっ、放しなさいよ!」


 ギリギリとベルの首を握りしめるオリエンス。それを振り解こうとベルは身をもがくが、力では到底かなわなかった。この現状ですら、手加減されているのだ。そうでなければベルの首は容易く引きちぎられていた。


「つまらぬ。新たな力があるなら、我にその可能性を示してみよ」

「なに……を」

「ベルベルを離せーー!」

「――っ!」


 その言葉に我に返るベル。慌てて制止の言葉を言おうとするが、首を掴まれているベルは言葉を続けることができなかった。


 下から感じる魔力の集束、そして熱量。サクラが何をしようとしているかは明白だった。だが、対処に動くことができない。そして事態は取り返しのつかない方へと転がっていく。


「【緋焔】!」


 放たれる炎の斬撃。それは狂いなくオリエンスへと放たれたが、それは片手で弾かれるだけで簡単に霧散した。だが、オリエンスはダメージを負ったわけでもないのに、じっとその手を眺めていた。そして、徐に口元が歪んでいく。


「そこにあったか……」

「サク……ラ、に……げ……」

 

 オリエンスはもうベルには用はないと言いたげに近くに建っていた建物へと投げつけた。


「きゃあ!」

「ベルベ――あぐっ!」


 それを見て助けに動こうとしたサクラはだが、そこで言葉が詰まる。お腹に違和感を感じ視線を下ろすと、そこには自分の腹から生えた黒い手があった。その手には同様に黒い宝玉が握られている。


「まさか人間の中に隠しているとはな。これは盲点だった」


 オリエンスはそれを乱暴に引き抜くと自身の中へとそれを吸収する。


「あう……けほっ」


 まだ事態を把握できていないサクラは痛みに耐え兼ね、蹲る。咳と共に血を吐き出しながらもベルの元へと向かおうと身体を動かす。


「ベル……ベ……ル……」


 だが、身体に力が入らず、意識はそこで途絶え、ドサッと地面にその身を預けたのだった――


次回11/4更新予定です。

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