船長ドリオン 超越者ドクベー ③
エネルギー兵器。質量弾を必要としない兵器である。
文明の高水準によって開発実用されたそれは多くの失敗の積み重ねの上に成り立っている。
最初は高温の熱線を細く照射する熱線。しかしその温度に砲身が耐えられなかったり、
照射し続けるエネルギーがとても多く長く持たなかった。
砲身を強く、熱線の照射を効率よく、と試行に思考を重ね、そして
エネルギー弾兵器を完成させた。
その文明特有の圧縮技術でエネルギーを小さく圧縮しそれを発射する。
質量を持たないため反動はなく、圧縮し高密度のエネルギーの持つ温度圧力が
着弾時に爆発するように圧縮したエネルギーの性質変化させるなどの工夫。
まさに理想の兵器の誕生であった。
様々な取り決めや規格の整備、法の整備、多くの反対の声、数々の苦難の後、正式に採用されたのは
兵器完成の、およそ100年後だった。
兵器である以上、多くの悲劇も生まれた。が、多くの命もまた守ってきた。
その守ってきた兵器を使ってきた男、ドリオンが今、なんの躊躇もなく
ひとつの生命体のドクベーに光弾の嵐を浴びせている。
「っふ~。やっと半分ってとこか。そろそろ仕掛けてきそうだな」
自動連射した設置しているキャリーガン。そこからつながっているジェネレータに座りながら
左肩に構えているバズーカを打てるタイミングを計りながら連射し続けているドリオン。
エネルギーの光弾は着弾の時の破裂によるまぶしさもあるが、実は発射する際にも砲口から
射出する時も一際眩しくなるというリスクを持っていた。
一丁の兵器ならさして問題はないが目先に二つ以上の砲口があるとなると
前方は確認はできるにしても眩しさが気にならないことは決してないくらいの眩しさがある。
ドリオンはその眩しさの中でもちゃんと前方のドクベーを見据えている。
がそのまぶしさが落とし穴を生んだ。
『そろそろ仕掛けてくるなら飛んでくるか?被弾覚悟で横に抜けてくるか?それとも?』
前方のドクベーができるだろうあらゆる方向を想定しながら動かない前方に容赦なく打ち続ける。
ミシ・・・
ドリオンの耳にかすかにだが、はっきり聞こえた音。土が盛り上がる音。
『やっぱそうきたか!』
ドリオンの前方の目線が下に行く。が、
ギュルル
ドリオンの首に後ろから何かが巻きついてきた。
「「「ああ!」」」
遠巻きの船員たちが気づいたのはドリオンが首を縛られながら高く持ち上げられた時だった。
何が起こったのかわからないまま戦況が動いた。
「ぐえ」
首に縛りこんでくる濃い緑色の人の腕のような質感のそれは、座っていたドリオンの背後から
土から出てきた瞬間と思うほどの速さで一気に首に巻き付きドリオンごと振り上げて地面に叩きつけた。
首の縛りは解いていない。バズーカは手を離れている。振り飛ばされるあいだに放り投げていた。
位置としてはジェネレーターとドクベーの直線の中間ぐらい。
体を起こしながら左手で首の腕をつかみ力任せに引っ張る。それでも離れはしないが、
呼吸はできるほどになる。数秒間の首絞めだったのに首には圧迫跡がくっきり残っている。
「ふう、後ろからだったか。大した距離伸ばせるようになってんなおい」
「ふん!そもそも俺はこの星を飲み込んでいたんだ。この体になっても出来ることは変わらん」
お互いにしか聞こえない大きさでの二人の会話。その憎まれ口の言い合いをきっかけに、
ドリオンが構え直し首の腕を押さえながら右腕で伸びている腕を引っ張る。
ボゴコゴゴゴゴゴ・・・
地面を捲り上げながら腕は地表に現れ出す。直線上にあるエネルギージェネレーターを
持ち上げるほどの力がその腕に伝わっている。
ジェネレーターはその拍子で設置していたキャリーガンに接触し、
キャリーガンを押しつぶす形でバランスを崩し倒れてしまう。
連射が続いていたキャリーガンはここで沈黙した。
片膝をついていたドクベーも引き込まれまいと、なのか、
地面に埋めている右腕を引き上げるように起きる。
地面を捲り上げながら出てくる腕。ドクベーが引ききった時、
その腕の長さはゆうに100mをこえていた。
それほど長いのに、遠目から見ても全くたるみがない。船員からは遠景の錯覚で若干曲線的に見える。
「ドクベーってどこの星人なんだ?あんな事ができる星の人類なんて知らないぞ?」
ハンカーが生唾を飲み込んで聞いた。
「超越者に関しての情報は機密になっている。だが、立場を使い我々のように多少親しんで
会話してくれても教えてくれることはなかったからな。知っているとしたら・・・」
「船長だけなんでしょうね・・・」
船員たちの会話はその場だけで結論がついた。
「それじゃぁこのまま絞首刑だな。よく頑張った。その状態はもう詰みだな。
どちらの手を離しても結果は変わらんぞ?」
ドクベーは伸ばした腕を縮めながら歩いてドリオンに近づいてくる。伸びている腕の質感から
その腕に込められた力は全く緩みが無い。
それは首に巻かれているドリオンが一番感じていた。
『少しでも左手を緩めたら一気に絞め殺す・・・どころかねじり切る気だろうな・・・』
それほどの力のせめぎ合いを首では行われていた。が、
「ふんっ!」
右腕に握ったドクベーの腕を振り払うようにドリオンは体を振った。
締め上げ引っ張り合っている体勢で。
一瞬体勢を崩すドクベー。だが踏みとどまり腕に込める力を緩めることなく腕の長さを変える。
そのまま後方に走っていくドリオン。遠目からは伸縮自在のリード付きの犬が
遠くに走っていくように見える。
ドクベーは若干呆れたが、これが逃げているのではないことは承知の上だった。
『引き合いにする気か?腕を切ってくるか?・・・いや、なにかやばい!』
考えながら踏みとどまった姿勢から腕を引き始めるドクベーだったが、直感にも似た異変を感じ取る。
伸ばした右腕を躊躇なく左を手刀に変え断ち切った。
その腕は断ち切るために張ったドクベーははずみで尻餅を付いたが、そのはるか前方のドリオンは
断ち切られた瞬間に引っ張るのをやめていたのか体勢を崩すことはなかった。
「よくわかったな。それが異能の「直感」ってやつか?
何かしらの兆しを感じて直後に行動に移す能力。もうちょっと遅ければ決着だったのにな」
後ろを振り向いたドリオンの左手には注射器のようなものが掴まれていた。
その先端は首に巻かれた腕に突き刺さっている。するとその刺さっている箇所を中心にみるみる
腕に質感が悪くなり、まるで植物が枯れていくようになっていった。
そのスピードが異常で、みるみる巻きついていた腕から、伸びている腕にかれるという現象が
走るように腕全てを枯らしてしまった。
枯れて朽ちた首にまとわりついていた腕を引っ剥がし残ったカスを払いながら向き直るドリオン。
「異能かどうかは知らんが、この直感で多くの死地を抜けてきた。まさかここで助かる形で
使うとは思わなかったがな」
お互いの距離は20メート人ほどになっていた。一人と一人との対人戦闘ではそれでも遠い距離だが。
ちらっと首筋にある時計を見るドリオン。この仕草はこの荒野に来る前の車内でも見せた仕草。
あの仕草はコートにしまっている道具の確認ではなく時計を見ているだけだった。
「さっきからどうしたんだ?戦闘中もちらちらと時間を確認してたようだが」
バズーカを撃っている時も、ジェネレーターを出している時、
首を絞められていたとき、犬見たく走っていたとき。
ちらちらとコートの内側にある時計を見ているドリオンを確認しているドクベー。
『死刑囚が時間を気にするか?いや、死ぬ気がないとしてそれでも
死刑の宣告を意図的に受けた・・・で、時間を気にする・・・?何を狙っているんだ?』
さすがのドリオンも超重力のコートでの超越者との掛け合いで疲労の色が見えていた。
「ああ、ちょっとな・・・だがもういい」
そういうとドリオンはコートから大きめの紙の筒を取り出した。
紙の筒を取り出し終えたドリオンは着ていたコートを脱ぎだした。
そこにはピッシリした鍛え抜かれた体にそって誂えたような着こなしの戦闘服姿の男が立っていた。
脱いだコートを無造作に地面に振り捨てる。コートは脱いだ時点で微弱な電子音をさせなくなっていた。
脱ぎ切った段階で超重力の発生は止まる。そして同時に亜空間の発生も止まる。
亜空間に残されたものがどうなるかはドリオンたちも知らない。
紙の筒を肩に担ぎながら数歩下がるドリオン。その表情は全く緩みはないが高圧的でもない顔だ。
ドクベーはその表情に覚えがあり、その表情の際に起こす事の重大さを知っている。
ドクベーもドリオンを見据えながら距離を取る。そして初めてドクベーも
自分の衣服の懐に手を差し伸べる。懐から出てきたのはドクベーの唯一の武器である、
手になじむ程度の太さながらドクベーの身長の半分ほどの長さになる筒。
ドクベーの着ているコートも実は亜空間のコートだった。
ただドクベーのは市販されているサイズで超重力はドリオンほどではない。
亜空間のポケット口のサイズが小さいタイプ。だが、その筒を入れておくには十分なサイズだ。
筒の材質も特殊なのだろう。武器として使う分にはむしろ少林寺のような格闘術での棍術に近い。
だが、それが筒である必要がドクベーにはある。
「ドクベー、これがシナーナ艦隊総司令ドリオンの最期だ・・・。お前を止めさせてもらうからな」
「わかった・・・最期への花向けだ。全力を出し切って来い」
『・・・ん?』
何かしらの違和感を感じたドクベー。そのドクベーを前にドリオンは丸まった髪を開く。
長時間丸まっていた紙は本来なら丸みの跡がつくものだが、その文明での紙は特別なのだろう。
まるで布のように広がりピッシリ端から端まで折り目なくドリオンの前方に広がりきった。
そこには円形の絵柄の中に特徴的な文字や数字。まるで魔法陣のような模様が描かれていた。
次でとりあえずこの二人のお話は収まります。
これが何のフラグかは後ほど。