超越者
命ある場は地球だけではない。生きる身を得て死ぬまで活きるために、生命は時に戦い時に助け合う。
それは言葉、価値観、生物としての機能、様々な要因に様々な違いはあっても
個々が生きるために命同士重ね合わせる必要がある時がある。
様々な星、宇宙を超えた世界、そこにもまた世界があり、その世界にもまた生命がある。
その生命は生きる形は違えど、生きるための知恵を集めた一つの環境をつくり合う。
その環境がさらなる環境を作り、文化、文明が興りそして、法が作られる。
「被告、シナーナ艦隊 艦長、ドリオン。我が銀河法に則り、世の禁忌に触れた罪で死刑とする」
白い円上の床に一人男が立ち尽くしている。その言葉を聞き終えて男はうつむいてしまう。
その床以外は黒一色。遠近感がつかめないその空間の男の身長の3倍高い位置に人影が複数見える。
シルエットだけで姿は見えない。シルエットの一人が最後の言葉を言う。
「これにて閉廷」
この言葉をきっかけにか、うつむく男の床も黒に染まる。
「船長~~~!!!」
黒一色の空間がゆるやかに明るくなる。男の周囲には何もない。
白壁の運動施設のようなほど広い空間。男は動かない。
男の後方から大声で数人の人物が駆け寄ってくる。
「索敵、武装マークが集まりつつあります!」
「船長を囲め!隙を見せるな!」
駆け寄りながら男の周りを囲む者たち。
「船長、どうされますか?」
周囲を気にしながらうつむいている男に一人の男が涙目で声をかける。
「最期に行きたい場所がある。そこまででいい」
「・・・船長」
聞こえない、精一杯の嗚咽がそれぞれの口から漏れる。
「法廷正門までの経路を確保!向かえます!」
「よし!船長!行きましょう!絶対守ります!」
この男、かつてこの星のある銀河の中にあったサルガッソーの探索を試みた
イイモデッド星系シナニクト星探査船団、旗艦空母シナーナの艦長である。
紆余曲折を経て今日のこの日、死刑を宣告された。
この宇宙ではこの星の銀河で定められた法律が有り、その裁量は地球のそれとさして変わらない。
価値基準や民族種族の考え方、星星の違い、様々な違いはあれ、その中で決められているものに、
それぞれの違いを加味してもその裁量に裁かれた判決は絶対である。
死刑。それはこの銀河でも極刑である。
死刑を宣告された者は、その裁判が平定した瞬間から人としての人権を失う。
その瞬間から刑が執行されるようなものなのだ。
死刑を言い渡された者は何をされてもすでに死んでいるようなもの。という解釈が
この銀河の価値観である。
たとえそれが冤罪だろうと、決定的な判決だろうと、宣告され閉廷してしまえば・・・。
「物的発射音!」
「見えた!ミサイルだ!防御でいい!とにかく出せ!」
その死刑囚は、ただの狩りの獲物である。
爆風をものともしないトラックに似た車。地球のそれと同じようなスピードながら
さきほど人の大きさほどのミサイルの直撃を受けて傷ひとつ付いていない。
「うちの技術をなめんなよ!そのへんのにわか追跡者の装備品でどうにかなるかよ!」
「武装マーカーが集まり続けています!」
「やっぱ船長すげえな!死刑になっても有名人か!」
荷台側の数人が迎撃準備を立てている中、運転席側には、助手席に船長ドリオン、
運転しているのは傍らで動いていた長身の男。
「船長、どうしてこんなことに・・・!」
「仕方ないさ、やってはいけないことをやってしまったんだから・・・」
「こうなることがわかってたんですか?」
「・・・死刑になるところまではな。そこまで結構時間がかかったのが想定外だったが」
「じゃ、じゃあ知っててあの圧縮砲を?」
「ディオン・・・お前にも黙っていたが・・・あの旗艦シナーナに積まれてる
最大口径の圧縮砲な、実はエネルギーを3段階圧縮充填できるんだ」
ギ゛ギキキイー!!!
真っ直ぐ高速で走っていたトラックがその姿勢のまま前転するかのような
後輪の持ち上がり方をして頂点付近でそのまま下がって止まった。
驚いたのは運転していたディオンだけではない。荷台で聞いていた者たちも驚いて船長を見ている。
「船体の耐久を度外視すればもう一段階可能とは聞いている。射手の見解もそうだ」
「射手・・・ジャミンは知っていたんですか?」
「知っていたわけじゃない、解ったんだそうだ。まぁわかったにせよ、そうそう我々の仕事で
あの規模の圧縮砲を使うことはそうそうないからな。あいつに撃ったのを
最初で最後にして欲しいものだ」
「・・・でもそれが、次元を撃ち抜くほどのエネルギーだったとは・・・」
「ああ、考えが及ばなかったな・・・。2段階の圧縮で次元の壁を打ち抜けるとはな」
「決定的だったのはそれを偶然あの方が目の当たりにしていたことです」
「それはしょうがないさ、あいつは私の仕事を見届けるのが仕事だからな」
「そこですよ船長!!」
声をかけてきたのは左腕に取り付けている連射式の機銃のようなものを撃ち終わった男だった。
補足するが、死刑を言い渡された者はどう殺してもいいが、その死刑囚を何らかの理由で
守ろうとする者がいる場合、守ろうとするものはどう迎撃してもいいが、死刑囚を狙うものは
その守ろうとするものを殺してはならないルールになっている。
しかし、二次災害的な死亡は殺害に数えられないため、死刑囚を狙った攻撃が大規模破壊を起こし
守っていた者が被害の末に死亡する。という結果を狙うものは狙っている。
会話の最中も再発進して、距離を詰めてきた死刑囚追跡者たちと交戦中であった。
「そのおと、お方の報告書って船長が先に目を通すんでしょ?で、船長が提出するんですよね?
その時書かれてたことを知ってたんですか?」
「ああ」
「じゃあ、まさか死刑になりたくて・・・?」
「ああ・・・」
「船長・・・」
うつむきながら返事をして黙ってしまったドリオン。トラックは重い空気に包まれる。
「船長・・・なんでですか?なんで死にたくなっちゃったんですか?」
「・・・」
「シナーナどうするんですか!!?」
索敵担当をしていた女性が荷台側から興奮し始めたようにまくしたててきた。
「ゲル!ビアリーを止めろ!」
「げ!あいつらジェルナパームまで!!ゲル!代われ!」
トラックの上から広範囲に粘質液体のようなものが撒かれた。トラックは直撃を受ける範囲内だ。
バシャアアアー!グボワアア!!
液体がかかった瞬間一瞬にして火の海が出来上がった。しかしトラックはその周囲に物理的な
障壁をうむバリアーを展開させて難を逃れていた。進むトラック。
「このまま荒野へ・・・」
ぼそりと聞こえたドリオンのつぶやき。
「船長!!」
「了解。ビアン、落ち着け・・・船長はジャミンを庇ったんだ」
つぶやいた船長に再び叫ぶ羽交い絞めにされているビアンにディオンが運転しながら諌める。
「再圧縮充填出来ると話したろう。それを最大4段階できる。
2段階の圧縮砲で次元に穴があくんだぞ!、遅かれ早かれ誰かに気づかれる」
「・・・ジャミンは我がシナーナに必要な砲射手だ。戦闘機会が少ない探査旅団としても
何らかの戦闘はある。もし何かしらの事で圧縮法の威力の非が船長でなくジャミンに及んだら・・・
悲しむのはジャミンの彼女のお前以上に・・・船長なんだぞ・・・」
「せ、船長・・・」
羽交い絞めからは既に解かれているビアン。泣きべその顔を隠すことなくすその場にへたりこんだ。
「ん?武装マーカーが離れて、いや、止まってるのか?安全になりました」
羽交い絞めを解いてビアンの代わりにモニターを見ていた男が驚きながらしゃべる。
「早いな・・・」
ドリオンの声。顔を上げながら姿勢を起こすドリオン。
周囲に建物がなくなるのは早かった。それでも距離にすれば最初の法廷から100キロは離れた場所。
そこは宇宙船の発着場として使われている何もない。通称「荒野」である。
その荒野はあまりに広く、遠景に見える建物や山の形がとてもぼやけている。
そこの地平の曲線まで見える荒野に人影があった。トラックはそこに向かっている。
「船長、あの方・・・」
「ああ、死ぬならあいつと決めていたんだ・・・」
ディオンの言葉にそう答えながら、ドリオンは服の襟元のセンサーを起動させて
何かの確認をしているようだった。
「追跡がやんだ原因はあの人か・・・」
人影は身長はトラックの天井を少し超える。深緑のコートを着込んでいるように見える
サングラスをかけた細面。もみあげが長い。
その男の近くにトラックが止まる。
ドリオンが先に降りる。続いてディオン。荷台後方からゲル、ビアン、大柄な男。
「ドクベー、よく来てくれた」
ドリオンが近づきながらしゃべる。ドクベーと呼ばれたサングラスの男はため息混じりに数歩近づく。
「こんな形でお前を殺すことになるなんてな・・・なぜあのまま見せた?」
ドリオンはビアンの方を一瞥して向き直っていう。
「・・・可愛い後輩を守るためだ。あの装備がある以上、いつかバレる。
たとえ次元の壁を敗れた原因がダークマターにあろうとな」
「ダークマター?」
サングラスの男の声色が表情とともに変わった。
「あの圧縮砲はダークマターに向けて撃った。おそらく本当の理由はそのせいだろう」
「ダークマターを見つけたのか?なぜ報告書にかかなかったんだ!?」
「もうこの次元にないものを報告する必要などないだろう?」
「船長!じゃ、じゃあ圧縮砲は次元を突き破る兵器じゃなかったってことですか?」
「船長は死刑じゃないってことじゃないですか!!」
「いや、ダークマターが次元の壁破壊の一因だとしてもその壁を破るために
ダークマターに高圧力高密度のエネルギーが必要だったのなら非は免れない・・・」
ドクベーがサングラスを取りレンズに気を遣いながら内ポケットにしまいながら言う。
「そういうことだ。そのうえであのシナーナに搭載されたエネルギーカノンは
最大4段階圧縮することができる。と付け加えておいた。
ダークマターはサルガッソー消滅の際消し飛んだことにしてな」
「なんでそんなことを!船長死刑なんですよ!」
「言ったろう。いつか飛び火する火の粉から後輩を守るため。
それに、引退するならここらが潮時かな?と思ったからだ!
ディオン!次の船長はお前だ。現時点を持って「イイモデッド星系シナニクト星探査船団、
旗艦空母シナーナの艦長に任命する!」
「船長・・・」
「役職は艦隊司令だが動かすのは旗艦シナーナだ。堅苦しいのが嫌で艦長、船長と砕いたが
お前は好きに呼ばせろ。船長を継いでくれると嬉しいがな!」
「・・・そしてダークマターの話を俺に聞かせてお前の死刑は執行される。と。
そういう筋書きでいいのか?」
「かいつまむとそういう話だ。どうせ死ぬならお前に殺されたい。
ただじゃぁ死なないがな!超越者ドクベーよ!」
「・・・いい時代になったものだ。お前の本性を知らない世代が多い今、
ただの船乗りでなく一悪童に戻って死にたいと・・・それで行き着いたのがここか
ダークマターは我々にとっての禁忌。それに関わるものは全て消す。
だが死刑囚の戯言ならば、それを聞いたもの、それに関係するものがもし、いたとしても
私には興味はない・・・」
眼差しはドリオンに向けられていた。が後半の言葉は明らかに船員たちに向けられていた。
さっきを帯びたその言葉の威圧に船員たちは硬直した。
ドリオンは船員たちの方に向き顎で下がれと合図した。
そのドリオンの合図に見えた優しい眼差しが船員たちの硬直を解いた。
船員たちは会話の内容を対して理解できずにいるが、お互い何かを知り得る中なのが伝わり
トラックに乗り二人を確認できるくらいの距離に離れてトラックを降りた。
周りの武装した追跡者を探査するモニターは起動されたまま。
そこには荒野の外周を円のように追跡者を示す色のマークが土星の輪のように点々とし、
そこから中央におそらく数キロは距離があるだろう場所に
追跡者以上の武装を示す色で発色した船員たちのマークがある。
そして・・・荒野の中央には最も危険度を示す色をしたマークが二つ、
いつ起爆してもおかしくないと異常を示す明滅を繰り返していた・・・。
オープニングの扱いだけにするつもりだったんですが
なんか考えてたらいろいろ人物たちが動いちゃいます。
なんだでこの人らの流れが少し続きます。