第一話 ボーイミーツダークマター
その日、世界各地で、ある宇宙の写真の話で盛り上がった。
マウナヘア天体観測所が捉えた一枚の写真。そこにはとても鮮明に
光の塊だけが移動する流れ星のようなものが写っていた。
中に何もない、ガス帯の塊だの岩塊だの、中心に何かないはずない光の塊。
専門家も一様に頭を抱えるその写真が世界に衝撃を生んだ。
ほかの天文台も、宇宙開発局も、自分たちでその天体を撮影し検証するが、
その全ての写真には、やはり中心には何もないのに光の塊が写った。ただ検証の結果、
その塊が高速で移動中という事、そしてその向かっている先が、地球である可能性が高い事がわかった。
関係者や専門家は大いに沸き、マスコミは煽り、その光が向かう先を
分析し当たりを付ける事に必死になった。
どこの海か?陸地か?時間は?多くの憶測、ウワサ、ガセネタがネットや世間に飛び交った。
しかしその一方、地球に衝突(?)する危険性を訴え、危機感を煽る者も出てきた。
ある国ではその写真に手を加え光の中央に、人物をコラージュさせネットにアップさせたりした。
またある国では、まれに起きた地震を、その流れ星のようなもの影響と謳いさらなる不安を起こした。
いよいよ近づいた流れ星。ワイドショーや専門のネット放送まで作られた。
当初の見解ではこの流れ星は未だに撮影していても光の中心に何もない。ということは質量がない。
つまり、衝突したとしても、衝撃はなく避難は必要であれ、さして被害は少ないであろう。
という話が持ち上がった。が、衝突した時点で何かしらの影響が起こるのは確実。
被害がないはずがない。という論争に発展。話題は流れ星を中心に留まらなくなった。
コラージュもより水準を上げ、流れ星にひたすら祈る写真や、
流れ星を攻撃のエフェクト調にした写真や、
流れ星が地球をそのまま貫通した写真。民衆の興味は流れ星一色に染まった。
しかし、その頃には分析も進み、光体そのものの正体はわからないにせよ、
そのサイズはとても小さく、人間の倍くらいのサイズと判明していた。
しかしそれが逆に、そんなサイズで光を持続させ高速で移動する物体というミステリアスさが
流れ星騒ぎに拍車をかけた。
初めて流れ星が肉眼で確認できるようになったのは日本だった。
日本を中心にアジア圏でも目撃の情報が増える。
専門家達の予想では、予想より1週間は早い確認だという。
このままで行くとその3日後に太平洋に落下するという結論に一致した。
この頃には中心内部の論争は放射能の塊。に落ち着いていた。
流れ星を確認してから3ヶ月は立っていた。それ以前の経過を考慮し
内部の放射能の濃度を計算した専門家たちは、衝突した場所の死滅という結論に至った。
その影響からか流れ星の話は興味から恐怖に変わり、コラージュ画像も悪質なものが増えていった。
流れ星がとうとう地球の大気圏内にやってきた。その直下には・・・日本。
やはり予想よりはるかに早く予想落下地点は日本の、ある町という事になった。
被害がどうの避難がどうの、その町周辺はパニック、にはならず、いつもと同じ日常だった。
政府のあらかじめの誘導か、中身のない流れ星、サイズは少し大きい人間サイズ。
どこに落ちても政府が補償してくれる。と放送。とアフターケア(?)を広めていたからだ。
もちろん全ての人たちが安心できたわけでもない。騒ぐ連中はまだ小さいが、
もうすぐ自分たちの町に落ちてくるあの、今のような昼間でも見える光にドキドキしながら
かたやビクビクしながら心待ちにしていた。テレビ局もロケに来ていた。
普段はおとなしい一地方の町である。町というより、そこは村に近いかもしれない。
テレビ局の車など、こんな町にはなかなか止まっていない。
インターネットの時代ながら今でもテレビ局の車に興味を持つ子供がいるような町。
その町に流れる「一級河川」にも指定された川の河川敷の防波堤の道を
一人歩く少年が、そんな河川敷に止められている、テレビ局の車に集まっている子供を
眺めながら歩いている。
河川敷にはテレビ局だけでなく、バーベキューをしている人たちもいる。
ほとんどの人たちはやはりというべきか、そらにある光の点を見ていた。
集まった子供たちを適当にあしらっては子供たちを散らしたテレビクルーの人達は
その子供たちをあしらったカメラマンに拍手をしながら照れるカメラマンとともに
生放送の準備を始めた。子供たちの手にはそれぞれ小さなお菓子が握られていた。
川べりで遊んでいる子や、遠巻きに見ている子供たち、バーベキューをする人たちも
上の光を見たり、生放送の様子を見たりしている中、近づく光をネタに生放送が始まった。
「さあもうすぐです!もうすぐあの小さな光がこちらにやってきます!」
『いよいよですねぇ!本当にその場所に落ちるんですか?』
「なんか、間違いなさそうです!、今見えてますでしょうか?肉眼でもとても小さい光です。
ただいま3時すぎでお日様のほうが日差しが強いんですがそれでも見えていますね。光の点です。
まっすぐといってもいいんじゃないでしょうか!」
綺麗な女性がカメラを気にせず上を見ながらしゃべっている。
「おう!熊田、どこいくんだ?」
堤防を一人歩く少年にいつの間にか後ろから走ってきた少年がラリアートしながら声をかけてきた。
「って!あ?おうタケか、帰るに決まってるだろ?お前はあれか?彗星見に来たのか?」
「ああ、俺だけじゃないぜ、朝方からあんなにハッキリ見えてるんだ。
ネットでこの辺って言われてたしな」
タケの後ろにクラスメイトが数人歩いてきていた。
「バカバカしい。じゃあ気をつけてな」
「お前だって足おっそいじゃん。結構見たいんだろ?」
「う、まぁちょっとはな。でもなんかあの光見たら、なんかな」
「なんかってなんだ?」
「なんかわかんねぇけどどうでもいいかな?ってな」
「なんだそれ?お前半年くらい前に急に倒れてからなんか変わったよな?」
「いつの話だよ、何にも変わんねって」
「うーんまぁ変わってないっちゃ変わってないんだけど・・・なんなんかな?」
「お前も何かおかしいぞ?、お、もうこっち来そうだな・・・やばくね?」
光は音もさせずその大きさを変えていった。距離がみるみる近くなる。
そして、それを見る誰もが一瞬にして恐怖に支配され体が固まった。
それもそのはず。人間大の塊がはるか上空から自分たちの場所に落ちてきているのが
目に見えるのだ、はっきりと、大きさもわかるその塊が。
興味本位、物見遊山、仕事上、たまたま、理由はどうあれ何かが落ちてくる。
それが分かっててやってきたもの、その場に居合わせただけのもの。
その光はその場にいる全ての人たちの心を縛り付けた。固まった体は操られたかのように
カメラも、マイクも、機材も、食べかけの串もなにもかも放り投げ
光に背を向け逃げだすように人々を走らせた。ただ一人を除いて。
「あー落ちる落ちる・・・おお、落ちた」
誰もが光に背を向けて走り逃げようとした中、少年は一人、その光の軌跡を目で追った。
静寂があたりを包む。
「ん?どうしたタケ?なにビビってんの?」
「え?あ、流れ星は?」
「もう落ちたよ。音とかなかったけど」
「は?彗星だぞ?まっすぐ落ちてきたんだぞ?何もないわけないじゃねーか!」
周りの人達は一様に自分を取り戻した。マイクを拾いカメラを拾い機材を立て直し
倒したバーベキューグリルを戻し、火の始末や散らかった物の片付け。
それらをしながら周りを見渡している。
「あれ?流れ星は?あれ?」
レポーターの女性はきょろきょろと可愛く困っていた。
カメラマンもカメラを女性に向けてカメラ操作に気を配りながらあたりを見渡す。
バーベキューをしていた人達は川の中に足を近づける人もいる。
しかし、地元の人間ならその川のそのあたりは急に深くなることを知っている。
その近づいた人も見える場所まで足を川に付けるがすぐに戻った。
「あの光はあのままヒューってあのへんに落ちてったよ」
「お前見てたの?本当に?」
「お前ら見なかったの?なんで見なかったの?」
この返しの頃にはクラスメイトはみんな集まっていた。
「そいうえばなんで見なかったんだろ?見に来たのに・・・」
「俺、なんか急に怖くなったんだよな。落ちてきたらこの辺吹き飛んじゃうとか思って」
「お、俺も落ちたとたん放射能がぶわーって襲ってきたらとか考えて・・・」
「ニュースとかで言ってたろ?あの光の中何もなかったって。
放射能とか言うけど俺ら今何かあったか?」
「あーゆーのって後々影響が出るとか・・・」
「じゃあその時はその時だって」
テレビ局のクルーの一人が車の中の人間と何かを話している。直後出てきた男が
手にした紙をレポーターの女性に手渡す。
「えー、今中継車に用意していた放射線の測定機の数値結果が出ました。
異常な放射能の数値は検出れていません。この周辺の放射線量は通常の値です」
その声は周りの人たちに聞かせるように大きかった。
その声が聞こえた人たちは、ホッとしたり、喜んだり、みんなが安心した。
「放射能なかったって!よかったな」
「まだ安心していいのかな?実はもっと別の何かに侵されたちゃってたりして」
「こええこと言うなよ!それにあの光は結局どこにいったんだ?熊田くん見てたの?」
「おお、あの辺、あのテレビ局の車の裏の、ほら見えるだろ?あの浅くなってるとこの」
「どこだ?行ってみようぜ」
さっき言われたビビってんの?という言葉に発奮したのか、タケが堤防をすべり降りていく。
「熊田もこいよ、案内頼む!」
「俺はいいよ、もう帰る」
「なに?ビビってんの?」
「はぁ?めんどいだけだろ!場所教えたらすぐ帰るからな!クソ!」
熊田も降りていった。それに続いてクラスメイトも降りていく。
テレビ局の連中、バーベキューの客、遊んでいる子供たち、他の野次馬、
恐ろしくあっさりと、あの光もなくなり日常の空気が漂ういつもの中に帰っていく。
熊田たち学生に近かった野次馬たちは熊田があの光を最後まで見た。という言葉を
信じる者だけついて行った。
その熊田たち。
「確かこの辺だったんだけど?ああ、ここここ」
「その先から深いからな、こっちからなら入れる。気をつけろよ」
「私はや!靴脱ぎたくないもん」
「私も」
「で?入って見つけてどうするの?」
「テレビに出れるんじゃない?」
「そもそも見つかるの?」
比較的浅い場所を知っているのも地元民。熊田の見た光の軌跡はその浅い場所に落ちたらしく、
タケを先頭に男子クラスメイト、勢いで入ってしまった熊田含めて3名が膝までズボンをたくし上げ
川の中に入っていった。女子はそのそばで座っている。
ついてきていた野次馬連中はその様子を見守っていた。しかし数分後には誰もいなくなった。
「どこだ?熊田?本当にここなのか?」
「ぅわ!すべる!・・・あ、ああそのへんだ。・・・っ・・・」
バシャーン!!!
「うーわ!滑って転んだ!熊田くん!大丈夫?」
「あははははははは!だっさい!熊田くん大丈夫~?」
「おいおい熊田早く起きろって・・・熊田?おい!」
滑って転んで全身ずぶぬれになりながら動かなくなった熊田。
タケ、とクラスメイトが濡れるのを省みず熊田を抱え起こし岸まで戻る。
もはや流れ星どころではない。クラスメイトは心配しながら近くの大人に助けを求めた。
テレビ局の人が最も近く対応してくれたため救急車の到着も早く熊田はタケと
たまたま保健委員をしていた女子生徒と一緒に最寄りの病院へ一緒に乗って行った。
なぜ川に入っていたのかという説明をいきさつ付きで話す残ったクラスメイトは
テレビ局の人とも一緒になって熊田が落ちたと言っていた場所に入っていろいろ探したが
結局何も見つからず、落ち込んでしまった。が、その落ち込みを見るに見かねた
局の人が、この日レポーターをしていた人気が出始めている女子アナのサインをプレゼントして
元気づけられたという。後日学校で若干得意げに持ってきたそのサインを熊田の付き添いで
貰いそびれたタケに取られるのは別の話。
さて、当の熊田は・・・?
ようやく本編です。
できるだけ頻度上げたいと思いますが
週一が精一杯だともいます。
よろしくお願いします。
熊田くんはどうなってしまったのか?