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船長ドリオン 超越者ドクベー ④

その紙の大きさは5平方メートルといったところか。シワもつくらずぴっしりと、


広げたテーブルクロスのように風に舞って地面にかぶさった。


遠目にはそれが紙なのか布なのかよくわからなかったが、そこに書かれていた模様に追跡者たち、


船員たちは困惑した。


「あれなんだ?」


「ただの紙じゃないんだろうけど、何が書いてある?」


「あれってまるで・・・」


一同の憶測は当たっていた。


「魔法陣か・・・」


ストロー状の筒を小脇に持ち、足を開き戦闘態勢と言わんばかりの構えを取るドクベー。


ドクベーの言葉はドリオンには届いていない。


魔法、それは科学を超えたテクノロジー。とこのイイモデッド星系の宇宙でも存在はしている。


いうなれば「存在しない技術」として。


イイモデッド星系ほどの科学が発達した環境でも、もちろん人は空想する。


その空想の先に発見があり、実験試行があり、進歩がある。


しかし、魔法は、発見することも、実験することもできない。なぜなら、存在しないからだ。


もちろんこの技術の先に存在を肯定できる可能性がないわけではない。


しかし、今のイイモデッド星系の持ち得ている技術では魔法の存在を肯定することはできていない。


空想、幻想に用いられるものにはもちろんその社会環境の中に存在する、宗教や伝説がある。


生態系や宇宙そのものがどう異質でも、そこに生命が集まる以上、意思決定、統率するためには


何かしらのそうさせるための仕掛けが必要である。宗教やそれらはそのために作られることもある。


が、それがどう作られても、それをどう見て、どう学び、どう使うかはその時のその者次第である。


宗教や伝説からさらなる様々な空想や伝説が起こり魔法が作られるのは至極当然の流れ。


ただ、それを現実にできた事はない。それがその世界の魔法。


もっとも、魔法という空想の産物に頼らなくとも、それ以上の技術を有しているので


魔法というものが空想の産物であればいい。という結論が一般的な俗論だった。


「魔法?船長、魔法が使えるのか?ディオン?」


「知らん、あんなの持ってるとか初めて見た。この戦闘で魔法?」


固唾を呑んで見守ってきた船員たちは直に見ていた双眼鏡を外したり、望遠カメラで撮影していた


モニターを見ながら混乱している。


その遠巻きの追跡者たち。


「あれ、魔法陣か?こんな戦闘状態にか?」


「ファンタジー頼みか?こんな土壇場で?」


「・・・あの模様どっかで見てんだよな・・?ガキの頃」


「ん?ゲームかなにかだろ?」


「うーん、俺んちゲームなかったんだよ。星系の中でも外れの星だったんだ。


グエルコだよ。辺境だけど結構良い所なんだぞ」


「そうなんか、んで?グエルコじゃ魔法使ってんのか?」


「そんなのないだろ?ただ、この模様、文字は覚えてねえけど見覚えがな・・・」


一人の追跡者の男が望遠カメラで捉えたモニターを見ながらつぶやいていた。


そこにいる誰もが、魔法の存在を知りながら活用、実践された存在を知らない。


最高水準の技術での武装を持ち、それらを駆使できる能力で戦っているドリオンとドクベーの戦いに


水を差す形となったドリオンの敷いた魔法陣。だが、その差された水は興味が削がれたわけでなく


何をするかわからない興味を増幅させていった。


シナニクトで栄え進歩させた「圧縮」という技術によりあらゆる物質、エネルギーを小型化


することでより多くの技術革新をすすめることができた。しかしそれには限界や条件があり


それらの技術を持ってしても「時間」を圧縮することができないという限界、


他に、それらをするためにはそれができる機材、エネルギー、能力が必要という条件。


何をするにしろ用意というものが有り、その何かがかけていてはその技術を用いることはできない。


という当然ながら重要な条件が技術にはついて回る。


魔法、その存在が否定されながらもなくならないのはそういった条件がない(空想なので


勝手な思い込み)という部分の羨望が理由なのかもしれない。


じりじりと間合いを詰めるドクベー。それでもお互いの距離は50mは離れている。


ドリオンはドクベーを見つめ続けている。隙を作らないという表情。


目の前の地面には魔法陣がしかれているだけ。他に武器はもうない。そんなドリオンにも


ドクベーにも表情には驕りも油断もなく、ただゆっくりと、本当にゆっくりと間合いを詰める。


50mを切った頃、ドクベーが動いた。この間合いがドクベーの攻撃の間合いだ。


脇に構えたストローを振りかぶり足元に突き刺す。ただそれを見るドリオン。


『あいつの周りに魔力はない・・・あの紙にもそれらしいのは感じない。


あいつがハッタリをこんなところで使うやつでもない・・・何を狙ってる?』


「もういいか・・・」


ドクベーに聞こえる大きさでしゃべったドリオン。


さしたストローを引き抜きざまに左手を手刀にしてその穴につき入れるドクベー。


「おおおおおおお!!!」


叫びをあげ地面の穴に突き入れる腕、地面に大した変化はないが明らかに何かをおこしている。


「ドクベーが仕掛けた!地面になにかしてるぞ!」


「地面をひっくり返す気か!?」


「セ、船長!どうしたんですか!?」


船員たちが緊張する。彼らの見ている二人の温度差が違和感そのものに見える。


かたや叫びながら地面を突く。かたやその光景を見ながら未だ動かない。


「・・・お前も知らなかったんだなこれ。そんなに近づいて・・・」


 「ん・・・?・・・!!ん゛???」


再びドクベーに聞こえるようにしゃべるドリオン。ドクベーは魔法陣などどうでもよく


この位置からドリオンめがけて地面をひっくり返し下敷きにしてやろうと


地下に向け腕を伸ばし続けていた。しかし、その地面に異変が起こっていた。


 『なんだ?ドリオンに向けて腕が伸ばせない・・・!地面に何かある!』


「ある辺境の星の調査でな、俺は一時船に帰れない事態に陥ったんだ。18番惑星グエルコ。


知ってるよな?あそこでな?俺、魔法使いにあったんだよ」


 「魔力持つ者との接触か。お前ほどの男ならあって当然だろう。長年来で初耳だがな」


「ああ、初めて話すからな・・・墓まで持って行くつもりだったし・・・」


 「じゃあその魔法陣はそいつのものか?感知したところ何もないが・・・なにをやった?」


「俺たちはさ、宇宙に行けるほどの技術を持てるようになったよな。だがそれでもできない事はある。


魔法はさ、宇宙に行けなくとも、俺たちにできないことをやってのけるんだよな」


 「ああ、そうだな」『魔力の障壁か何かか?まったく進めない。仕方ない方法を変えるか』


ドリオンに向けて地中から伸ばしていたドクベーの腕はドリオンに届く前に、見えてはいないが


おそらく魔法陣のある場所からなのだろう。あの周囲に近づけない何かしらの見えない


壁のようなもので覆われているようで、ドクベーの腕はどれだけ押しても


そこから進めないようになっていた。気持ちを切り替え別の戦法をとることに決めたドクベー。


腕の動きが変わる。


「圧縮はエネルギーも圧縮することはできるが、それを携帯維持するにはそれ専用の機材が必要だ」


 「そうだ・・・な!」


地面に埋めた左手をそのまま、というより、より伸ばして姿勢を立ち上がらせながら振りかぶり


右腕に力を込めながら渾身のパンチをドリオンめがけて繰り出した!


バチイン!


ドクベーのパンチはメンコをひっくり返すときの様な軽い音で魔法陣を敷いたあたりで弾かれた。


「なんだ?あの白い紙、本当に魔法なのか?」


「星の核まで届くと言われるドクベーのパンチが・・・あっさり弾かれた」


「エネルギーの解析を通しても船長の周りにはなんの力場も確認できません!」


船員たちは目の前で起こっていることにただ混乱している。


「惜しかったな~もう数秒早かったら届いてたぞ?」


 「お前の方からは仕掛けてこないのか?それとも時間稼ぎで終わりか?」


流石に少しだけイラ!っときたドクベー。滅多に言葉で挑発することはしないがパンチが


あんな軽い音を立てて弾かれたのは嫌だったようだ。


「もうすぐさ。仕掛け終わったからあとは一言言うだけ」


 「一言?」ピクっと反応するドクベー。


「そのグエルコで出会った魔法使いはな、要は超越者だ。が、この世界にゃ魔力なんてない。


だから彼は帰還することができなかった・・・だが、その帰りたいという気持ちが熱くてな~!


俺はしばらくそいつと魔力の研究をしていたんだ」


 「まさか、30年ほど前の時か・・・お前が一時期調査船団から離れたという・・・。


あの事は里帰りと聞いてたがな・・・」


「ああ、まぁそれはな、秘密の一つや二つってやつだ。んで研究し続けても結局魔力は作れなかった」


 「魔力を作る!?作ろうとしてたのか??」


「ああ、でよ、魔力は作れなかったが魔力に似た力は出来たんだ。でも小さすぎてな、


彼は帰ることができなかった・・・」


ドクベーは聞きながら横に移動し始める。左腕は地面の中のまま。


魔法陣の紙を避けようと思っているようだ。


「しかしせっかくできた魔力の代替え材料だってんでな。せっかくだからある圧縮した力を・・・」


 「その紙に封じたと言ったところか!!」


バチイン!


同じ結果だった。明らかに魔法陣の範囲を避けてドリオンめがけ放ったパンチが


またしても軽い音を立てて弾き返された。


『ん・・・両腕なら・・・いや、多分無理だな。あれは壁とかじゃない。


いうなら次元の壁そのものだろう。全く異質だった。次元の壁を壊すほどの力は今は出せん・・・』


「ああ、魔法ってすごいな!機材がなきゃ出来ないことも魔力があれば文字と言葉と模様だけで


できてしまう。この世界にないのがなんとも悩ましかったよははは」


ほくそ笑みながらドリオンがしゃべり終わった瞬間から軽い地鳴りが響いてきた。


ココココ ゴゴゴゴゴゴゴ・・・


地鳴りは徐々に大きくなり揺れも感じだした。


「お前らあ!もっと離れてろ!!帰ってもいいからなあああ!


・・・ああ、お前は帰るなよ?ドクベー」


 「ドリオン、お前死刑囚って自覚ないだろ・・・」


ドリオンが遠くの船員たちのトラックに向けて大声で叫んだ。


ドクベーへの言葉はドクベーに聞こえる音量だ。


「え?え?え?」


「ディオン!なにかまずい!どうする?」


「ハンカー、ビアンを落ち着かせろ。現場維持だ!何が起こってもこれ以上船長から離れん!」


「ああ了解だ!」


ドクベーの二度にわたる攻撃を二度とも防いだドリオン、この地鳴りと地震はそのドリオン


の仕掛けだろうと踏んだ船員達、船長からの撤退命令ともとれる言葉を聞いても


ここを退いてはいけない。ハンカーとディオンはなぜかそういう心境に駆られ引くことを拒絶した。


「ビアン、お前はトラックで・・・」


「いや!私も残ります!船長の最期だもの!私も最期で・・・」


「ジャミンはどうするんだ?」


「向こうに逝ったら考える!」


女性ながら男勝りで異常に頑固な性格にこの星系独特の軽い生死観が拍車をかけ


死地にありながら自分のその時の気持ちを優先させる。これがこの世界の人類である。


地震は気持ちを不安にさせるくらいの体に感じる大きさながら収まる気配がない。


ドクベーは揺れよりもあの魔法陣に封じ込めたものに不安を抱いていた。


「召喚魔法、ってのがあってな。生物だろうがなんだろうがその対象に召喚魔法を施すとな、


どんだけ離れてようと、どこかに封印しようと一言で呼び出すことができるんだ」


そう言いながらドリオンは魔法陣の紙の端を持ち上げる。ペラペラの紙がまるで硬い板のように


まっすぐ引き上がる。しかしやはり紙なのか、ドリオンは軽々と向きを変えながら


魔法陣をドクベーに向ける。ドクベーが不審に思い移動してもその方向に魔法陣を向けた。


 『発射系か・・・?この規模の揺れを起こすもの・・・なんだ・・・?』


「さっきも言ったが俺たちの技術ではエネルギーを圧縮して維持するにはそれ用の機材がいる。


あのバズーかやキャリーガンの弾丸もエネルギーをぶつ切りにして撃ちだすだけ。


魔法ってなその対象としたものならそのまま封じてそのまま取り出せる!全くすげえもんだ!」


・・・ダン!ダンダン!


魔法陣を中央付近まで持ち上げたドリオンが足で地面を合わせて3回踏んだ。


直後揺れも地鳴りもぱったりとやんだ。


魔法陣の紙のしたに潜り込む形となっているドリオンだが、


ドクベーの方向はまるで見えているかのように動き回るドクベーに魔法陣を向けている。


ドクベーは覚悟を決めてもとの左腕を指している地面のところにやってきた。


『エネルギー体ということか、一度出せばあの魔法陣はもう機能することはないだろう。


耐えさせすればいい・・・それでドリオン、お前の最期だ・・・』


一瞬目を閉じてひとしきり思いを心の中で語る。


目を開いたドクベーのその表情に迷いはなくなっていた。


ドリオンからドクベーの表情は見えない。紙の薄さでドクベーのいるのがわかるくらいだった。


だが、その一連のドクベーの動作は、ドリオンに伝わるはずもないのに、ドリオンはなぜか微笑んだ。


「さて、じゃあ・・・逝くか!あばよ戦友!」


バババババアアアアアアアアア・・・!!


言葉の中の何が引き金だったのか?ドリオンが叫ぶと魔法陣が光りだし魔法陣周辺の地表もろとも


何かの光が立ち上りあたりが眩しい光に包まれる。光の大きさは船員達を包むあたりまでだった。


 『さて、何が来る・・・ん?・・・急に温度が上がったか・・・?』


まぶしさの中ドクベーは地面に刺した左腕の先で何かを掴んだ。


周囲の異変を感じたのはその瞬間だ。


眩しさに目をやられたのは魔法陣の紙をかぶったドリオン以外の連中。


魔法陣の紙はいつの間にか布のように力なくしおれていた。


膨らんでいるのはそこにドリオンがいるからだ。


いや、ドリオン以外にもあの光に目をやられなかった者たちはいる。


一番外周を囲むように見物していた追跡者達だ。


だが、彼らはその直後、恐怖のあまりほとんどがそこから逃げることになる。


逃げなかった者たちもいる・・・恐怖をこえて気絶したものたちだったが・・・。


ドリオンの呼び出したその恐怖の原因はまだドクベーの目には写っていない。


ただ彼らの頭上に赤々と燃え盛っていた。

もうじきこの二人の戦いも決着します。

「星が違えば考え方も違う」を表したいんですが

これもまた難しいですね。

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