天使の園 2話
重い体を起こし、むず痒い頭を手で搔きながら部屋を出る。そして一階へ下りる。毎日やることだが
億劫になるな。
階段を下りていくと、美味しそうな匂いがしてきた。母親が作った朝食の匂いだろう。
さすがに腹が減る。ほんの少し早足で食卓があるリビングに入ると、目が合い苦笑いとも苦笑とも
言えない笑みを浮かべた母親が朝食の準備をしていた。
「やっと起きてきた。全く。早く食べちゃいなさい」
促され自分の席に座る。空席はあと二つ、一つは母親のでもう一つは父親が座る。
家は三人家族だ。父親は見当たらない、俺が遅く起きているというのもあるけど、いつも父は早く食べて
仕事に行ってしまう。
と言っても父の仕事は装飾職人だとかで、家に隣接した作業場にいつもいるから、今日もそうだろ。
「フィートが起きるの遅いからお母さんまで食べるの遅くなるんだからね」
母はいつも、俺と一緒に朝食をとってくれる。俺に一人で食事をさせたくないのだろうか、
正直、寂しいという気持ちはないのだが、そうしてもらえるのは幸せなんだろうな。
「もう、寝ぐせもとらないで起きてきて。貸して、やってあげる!」
母が徐に俺の髪を引っ張り、寝ぐせを直そうとする。母譲りの栗色の髪だが、髪質は似なかったようで
俺のは少し硬く、寝ぐせ等も付きやすい。きちんとセットしても母からは「狼みたい」と言われる始末だ。
「しっかりしてよね、もう私がなんでもやってあげる訳にはいかないんだからね」
「ああ、分かってるよ」
寝ぐせを荒く直し、言う母に、少ない言葉で答えた。
確かに、もうこんなやり取りもできなくなるだろう。
この家にいられなくなる。家族とも離れなきゃならない。
俺は、天使なのだから。