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どれくらい気を失っていたんだろう。時間の感覚がない。
その前に、ここはどこだ?
起き上がろうとして、自分が車のハンドルの下にうずくまっていたのが分かった。
ぶつかった衝撃なのか、変な体勢でいたからなのか、体がちょっと痛かった。
何とか車から這い出てみると、どうやら俺が通り過ぎようとした倉庫の中らしい。
表が見えないまま走っていてコントロールを失って、そのまま倉庫に突っ込んだようだ。
何やらきな臭い匂いがする。後ろを見てみると火の手が上がっていた。
誰かが火を付けたのか?襲撃はどうなったんだ?
それより、まずここを出なくちゃ。
「うう・・・。」
うめき声が聞こえた。誰かいるのか。
声がした方に目を凝らしてみると、誰かが倒れている。
「おい、しっかりしろ。早く逃げないと焼け死ぬぞ。」
俺は男に声を掛け、助け起こそうとした。
「足が挟まってて抜けないんだ。」
鉄骨か何かの下敷きになっているらしい。
俺は近くから鉄の棒を見つけると、てこの原理で鉄骨を起こした。
「さあ、早く抜け。」
「助かった。感謝する。」
「よし、逃げるぞ。俺の肩につかまれ。」
俺たちはふらふらと出口へ向かった。
「おお、トオルだ。トオルが出てきたぞ!」
誰かが叫んだ。どうやら仲間らしい。
「トオル、大丈夫だったか。お、血が出てるじゃないか。どこか怪我は?」
「俺は大丈夫だ。それよりこいつを。足が折れてるかも知れん。」
「わかった。おい、しっかりしろ。あれ、こいつ、ロミオだ!おいみんな、トオルがロミオを生け捕りにしてきたぞ!」
ロミオって、相手方の大将じゃないか。
どうやらロミオの足は折れてはいないようだったが、その代わりに手足を縛られて車のトランクに押し込められた。
俺たちはボビーの家へと戻った。
途中、ボビーが、俺が気を失っている間のことを話してくれた。
「まったくトオルは無茶するよな。奴らをあおって注意を引き付けるだけでよかったのに、あの銃弾の雨の中をそのまま倉庫に車ごと突っ込んでいくし。奴らも慌てただろうけど、俺たちも焦ったぜ。急いで倉庫に飛び込んでみるとトオルはもう居ない。一人で切り込んで行くなんて信じられないよ。だが、おかげで襲撃は大成功だ。おまけにトオルはロミオまで捕まえてきてくれた。まったく今回の成功は全部あんたのおかげだよ。見ろ、あんたに不信感を持ってた奴らもすっかりあんたに参っちまったようだ。ま、カマロは潰れちまったけど、あんたにはキャデラックでも用意しなきゃならないな。防弾ガラスの。」
ボビーはそう言うと大笑いした。
なるほど、そういう事があったのか。なんて、納得してる場合じゃない。命が助かったからいいようなものの、ちょっと間違えたらあの世行きだった。危ない危ない。もうこんな抗争とかはごめんだな。
「ところであのカマロ、あの倉庫に置いてきたままだけど大丈夫なのか?」
「ああ、そうだな。じゃあ、トオルからキャサリンに一言言っといてくれよ。」
「キャサリンに?何でキャサリンに言うんだ?」
「何でって、お前、ひょっとして知らないのか?まあ、言っといてくれればキャサリンがうまくやってくれるよ。詳しくは直接聞いたほうがいい。」
ボビーの家に着くと、ロミオが縛られたままリビングに引っ立てられてきた。
「さて、どう痛めつけてやろうか。」
ボビーが凶悪な目で睨みつける。
俺は口を挟んだ。
「もう勝敗は着いてる。血生臭いことはやめてくれ。」
「しかしなぁ、トオル、こいつはこれまで散々俺にたてついてきた奴なんだ。きっちりけじめをつけないと示しがつかない。」
その時、ロミオが口を開いた。
「待て。俺は殺されても仕方ないが、ちょっと俺の話を聞いてくれ。」
「命乞いなら聞かん。」
「そうじゃない。ちょっとだけ、その男・・・トオルって言うのか、トオルに話をさせてくれ。」