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翌日、こっそりとモーテルに戻ってみた。パスポートだけは失くすわけにはいかない。
ボビーの手下とかが居るかも知れないから、慎重にしなきゃな。
少し離れたところから覗いてみると、ボビーの手下らしい奴はいなかったが、代わりに警察が居た。
俺が泊まっていた部屋の周りには黄色いテープが張り巡らしてある。
やっぱりボビーはあのまま死んだのか?
だとしたら、俺、人殺し?しかも逃亡犯?
少し近づいて、集まっていた野次馬に聞いたみた。
「何かあったの?」
「夜中に争うような声がして、朝になったらドアが壊れてて中の荷物も人も居なくなってたらしいよ。カーペットに多量の血痕があったって。泊まり客は日本人らしいって言うから、強盗にでもあったのかねぇ。」
やれやれ、俺、知らない間に事件に巻き込まれてる。
キャサリンの部屋に帰って、今聞いてきたことを話した。
「今ちょうどローカルニュースでやってたわよ。荷物もボビーの死体もなくなってたって事は、きっとボビーの手下が片付けたのね。」
“死体“って。死んでることに決めてるじゃないか。
「うそうそ。ボビーがあれくらいのことで死ぬわけないじゃない。それより、今頃きっとボビーの手下達が血まなこになってトオルを探してるわよ。」
「だろうなぁ。捕まる前に早く日本に帰りたいんだけど、パスポートも荷物ごと持っていかれたらしい。」
「今頃もう売り飛ばされてるわよ。日本人のパスポートは高く売れるからね。」
「じゃあ日本領事館に行って一時渡航証明書をもらってくるしかないかなぁ。ダウンタウンの方にあるんだっけ?」
「私にはよく分からないわ。でも、今行ったらまずいんじゃない?多分もう事件のことは伝わってるだろうから、根掘り葉掘り聞かれるわよ。」
「それもそうだな。じゃあ、どうしたらいいかなぁ・・・。」
「ほとぼりが冷めるまでここに居ればいいのよ。大丈夫、奴ら、バカだから見つかりっこないわよ。」
ところがボビーについて詳しい話を聞いて震え上がった。
ハリウッドを二分する大ギャング団のボスで、子分は数百人もいるらしい。いわゆる武闘派で、あちこちでいさかいや抗争を起こしている。
銃やナイフなんて当たり前だし、手下には人を殺すことなんて何とも思ってないような奴がごろごろしているという。
ボビー自体は刑務所に入ったことはないが、それも身代わりを立てているというもっぱらの噂で、今ではボビーのために代わりに手を下すという奴が何人もいるらしい。
どうしよう。
そんな奴に睨まれちゃったのか。見つかったら即さらわれて海にでも沈められちゃうのかな。
「やっぱり俺、日本に帰る。」
「無理よ。ちょっと時間を置かなきゃ。それに、日本領事館の周りだってボビーの手下が張っているかも知れないじゃない?」
「じゃあ、他の州に逃げる。」
「お金もないのに?」
「貸してくれよ。」
「お断り。ここに居るんならいいけど、お金を貸したらいなくなっちゃうんでしょ?ねえ、ここに居てよ。」
考えてみたら他の州に行ったところで金もなければ住む所もない。大体、パスポートがなければどうせ身動きは取れない。
ビザなしで来てるけど、三ヵ月までは居られるはずだ。ほとぼりが冷めるのを待って領事館に一時渡航許可証ってのを取りに行こう。後は、日本に電話をして何とかして金を送ってもらうか。それまでは、ヒモみたいで気が進まないけどキャサリンの世話になろう。