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勝負はあっという間についた。本当にあっさりとついた。
奴らはドラッグを売ってもいるが、自分達で打っている奴も多いのだろう。そんなジャンキーどもに、組織化された俺達が負けるわけがない。
奴らのトップクラスの何人かは手足を縛って転がしておいた。
倉庫を片付けた後のポリスが拾いに来てくれることだろう。
帰ってきて翌日、監禁していたバーバンクのヘンリーを解放した。それも、まったくの無傷で。
俺を直接狙った奴なので殺してしまえと言う意見が多かったが、俺は連中に諭した。
「考えてみろ。殺すのは簡単だが、あいつが俺達に捕まったのはバーバンクの奴らも知っていたはずだ。それが、無傷で帰るんだ、何かあると思うのが普通だろう。バーバンクに帰っても、ヘンリーは裏切り者と見なされる。放っておいてもバーバンクの残党の奴らが始末してくれるよ。でなければ、ヘンリーはもうこの界隈には居られない。追っ手の影にビクビクしながら逃げ回って暮らすのさ。元の仲間にやられるか、一生ビクビクして暮らすか。それは死ぬより辛いだろう。俺を狙って、キャサリンを危ない目にあわせたんだ。簡単には死なせない。」
「あんなにキレたトオルは初めて見たって皆言ってたわよ。」
俺はキャサリンとドライブに出ていた。今日はメキシコのティファナ辺りまで行ってみようかと思っている。
「ああ、奴らは俺ばかりではなく、君まで危ない目に合わせたからね。それに、ドラッグを扱っているのが気に入らなかった。」
「どうしてそんなにドラッグを目の敵にするの?もちろん、ドラッグは良くないけどさ。」
「うん、実はね・・・」
俺は親友の話をした。
奴とは中学高校とずっと仲が良かった。
どちらかというと俺は目立たない方、奴はいわゆる不良だったが、不思議とウマが合った。
周りからはどうして俺達が仲がよいのか不思議がられていたが、結構いい奴だったのだ。
高校を出てからは別々の道に進んだので余り頻繁には会わなかったが、ある時から奴の様子がおかしくなった。
気づいた時には奴はドラッグ中毒になっていた。好奇心から手を出して、俺が気づいた時には自分の意思とは関係なく抜け出せなくなっていたのだ。
今でも奴は病院にいるが、廃人同様になっている。
親友を奪われたのもあるし、人間の尊厳そのものを奪うドラッグを俺は憎んだ。
もちろんただの会社員だった俺が日本で何か出来るわけではないが、今回はハリウッドの仲間達もいた。
「ふうん、そんなことがあったんだ?」
「ああ、今でも、何でもっと早く気づいてやれなかったのかと悔やんでるよ。」
「ねえ、国境の手前で車を停めて、メキシコに入ったらタクシーでエンセナダまで行きましょうよ。美味しいシーフードの店があるの。」
それからハリウッドに平和が来た。
と言いたかった。
ところが、自分で持っていた一線を超えてしまった俺は、自分の居場所を見つけられなくて悶々としていた。
立場的にはハリウッドのトップだし、バーバンクも制圧したし、近隣のギャング達とは友好関係にあるか、傘下に収めている。いわば、北ロサンゼルスのトップと言ってもいい。
だけどそんな立場が俺にはむず痒かった。
今では街のどこにでも顔は利くし、金もいくらでも入ってくる。困ることは何一つない。
だけど、基本的に俺は元々普通の会社員だったのだ。
それが、何の間違いかトントン拍子にこっちの世界で出世してしまった。それも、たまたま旅行中のアメリカのハリウッドで。
俺に言わせれば、俺は迷子になっているようなものだ。ひょいと路地に入り込んでそのまま奥に進んでしまい、いつの間にか出口が分からなくなってしまった。自分が今どこにいるかもわからない。だけど何とかそこには居られるし、余り困っていない。
でも、本来自分が居るべきところから外れてしまっているし、元の世界で俺を知っている人達はどうしているのだろうか。
居心地のいいような、悪いような状態で、自分の意思と関係なく進んでしまっているけれど、元の道にいつかは帰れるんだろうか。できればこれ以上迷路の奥には進みたくないんだが。
「トオル、青い奴ら(ベニスビーチ)から友好関係の申し出が来てるぞ。」
「まて、奴らは赤い奴ら(もう一つのベニスビーチ)との対立が激しくなってるから、関わるとやばいぞ。」
「いや、赤い奴らは黒い奴ら(メキシコ系)とも最近組んでるようだし、青い奴らは元々卑怯な奴らだ。近づくなら赤い奴らの方がいい。」
「いっそ奴らの対立をあおって、共倒れさせる手もあるぞ。」
やれやれ、また始まった。
俺はこれからどこに行ってしまうのだろう。