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それからの俺の生活は結構変わった。

まず、新車のキャデラックが来た。もちろん防弾ガラスだ。ボビー曰く、“車の下に爆弾を仕掛けられても大丈夫”くらいボディも強化してあるらしい。左ハンドルで右側通行にはまだ慣れないので殆ど乗っていないけれど。

あとは、俺名義の、クレジットカードとATMカードを兼ねたカードが来た。

もちろん俺は銀行口座なんて持っていないし、単なる一旅行者だった俺が持てるはずのものではない。これはロミオがくれた。銀行のATMで確認してみると、三十万ドルくらい入っていた。しかも、使った分は自動的に補充されるらしい。


組織の方も落ち着いた。実際俺は何もしていなくて、ボビーとロミオの合議制でやっているようだが、結論が出ないときだけ俺に話がある。

ハリウッド内に居た小さなグループも次々に投降し、ハリウッド全体がほぼ一つにまとまった。いくつかの近隣のギャングからも連絡があり、友好関係を結んだりした。

こう書くといい事のようだが、実際はどんな悪いことでもやる奴らがただ集まっているだけのこと、けして街が平和になったわけではない。

一つだけ俺は組織に注文をつけた。それは、ドラッグを扱わないこと。

それを主たる収入源にしている奴らも沢山居たから、当然不満の声も上がったが、俺は力ずくで押し切った。と言っても実際押し切ったのはボビーとロミオだが。

俺達の組織は恐怖と暴力の上に成り立っているわけで、それは十分分かっていた。人を泣かせることで収入を得ていると言ってもいい。日本のヤクザのように任侠なんて存在しないし、金さえもらえば自分の親でも手にかける、と言う奴がごろごろしている。まあ、そんな奴らはいつかどこかで殺されちゃうだろうし、そうでなくても刑務所に行くのが関の山だ。

だが、ドラッグをはびこらせたら一般の人達にまで売ることになるだろう。こいつらギャングが自分でやって廃人になるのは自業自得だが、一般の人はそうではない。金だけでなく、その人の人生すべてを奪うことになる。いつか俺はここから逃げ出すだろうから、せめてそれまではドラッグフリーにしたかった。


そう言う感じで表向きは平和に暮らしていた俺だが、いまだにパスポートがなかった。

帰りのチケットはとっくに期限切れになっていたが、それは金さえ払えば何とかなる。今の俺ならファーストクラスでも買える。

しかし、アメリカに来ている外国人にとって、身分を証明できるものは唯一パスポートだけなのだ。それがないともちろん日本への飛行機にも乗れないし、例えばアパートを借りようにも何も身分を証明するものがない。車の免許すら取れないのだ。

パスポートを取るために日本から謄本を送ってもらったり、日本国領事館に行って一時渡航許可証をもらう手もあったが、俺は少しここでの生活が気に入ってきていた。何しろ俺は日本に帰ったら失業者だ。ここに居たら、ちょっと怖いけれど、何もせずにぶらぶらしていられる。一切金の心配もしなくていい。将来のことは心配だけれど、とにかく楽なのだ。


そんなある日、キャサリンが話しかけてきた。

「ねえトオル、あなた、ずっとアメリカに居るんだったら永住権グリーンカード取る?」

「グリーンカード?取れるもんなら取りたいけど、いろいろと難しいんだろ?時間もかかるっていうし。」

「トオルがその気なら取ってあげるわよ。私、移民局にもちょっと顔が利くの。」

「ふうん。それなら任せるけど、大丈夫なの?俺、捕まって強制送還とかにならない?」

「ならないわよ。この国の移民局はそんなに優秀じゃないわ。」

「書類とか、何を用意すればいいの?弁護士も探さなきゃならないだろう。」

「とりあえず何も要らないわ。申請用紙は私がもらって来るから。書き方も私が教えてあげる。」


三日ほどしてキャサリンが永住権の申請用紙を持ってきた。

厚みが全部で二センチくらいありそうな分厚い書類だった。見た瞬間、これを書くだけで一ヶ月くらいかかるんじゃないかと思った。分からないところはキャサリンが教えてくれるだろうからいいものの、これを自分でやったとしたら、読むだけで一年くらいはかかるかも知れない。

「じゃあ、ここに名前と住所を書いて、一番下にサインして。」

俺は言われたとおりに書いた。

「これでいいわ。移民局に出しておくわね。一週間くらいで呼び出しがあると思うから。」

はい?その分厚い書類は何だったの?と言うか、名前と住所とサインだけで永住権を申請出来るわけがない。それに一週間って・・・ありえない。


ところが一週間後、本当に移民局から呼び出しが来た。

そして、そこで俺はキャサリンの正体を知ることになる。



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