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今日はツイてる。

何の気なしに入ったバーで飛び切りの女と知り合った。

歳は二十五くらいかな。金髪で青い目の腰のくびれた女だ。

おまけに見ろよ、どうだ、店を出て俺についてくるじゃないか。

ひょっとしたら売春婦なのかもしれないが、日本じゃとてもじゃないがこんなにいい女とは出会えない。まだ金は残っているし、少しくらいなら払ってもかまわないな。


アメリカを旅して一ヵ月ちょっとになるが、こうなってみるとハリウッドを最後の滞在地に選んで正解だった。この街には女優とかモデルのタマゴとかがごろごろしているんだろうが、この女もその一人だろうか。これだけの美人だったらいつか世の中に出ることだろう。

考えてみたら会社をリストラされて旅行することを思いついてニューヨークに降り立って以来、女っ気が一切なかったからな。

もちろん、バックパックを背負ってユースホステルや安宿を泊まり歩いて、移動は夜行バス、髪も髭も伸び放題だったから女が近寄ってくるはずもない。やっぱり今日床屋で髭を整えてもらってよかった。もしかしたら髭がラッキーなのかもしれないから、日本に帰ってもこのまま伸ばしておこうかな。

日本に帰るまであと一週間ある。西海岸の陽気と青い海を楽しんで帰るつもりだったけど、思っていたより楽しく過ごせそうだ。


その店はハリウッド大通りの東側のはずれに近いところ、あと半ブロックくらい行けばフリーウェイという所にあった。街の真ん中には派手な電飾をつけたバーが何軒もあったが、そういうところは店に合わせたのか客も派手で、どうも気後れがした。それに、音楽も外まで聞こえるくらいうるさかった。

そのままふらふらと歩いていたら、割と落ち着いた感じの店を見つけたのでのぞいてみたというわけだ。

古いジャズっぽい音楽が流れて、店の中は木造りだがそれほど高級そうな作りでもない。客層も結構若い奴がいて、ここなら落ち着いて遊べそうだった。


店を出た俺たちは、歩きながら話した。

「ねえ、トオルは何の仕事してるの?」

「いや、普通の会社員だったんだけどリストラされてね。なかなか仕事が見つからなくて、今は失業保険もらってる。日本に帰ったらまた仕事探さなきゃ。」

「日本人だったらカラテとかできるの?強い?」

「キャサリン、日本人が皆カラテをやっているわけじゃないんだよ。俺はそっち系はまったくだめだなぁ。子供の頃からケンカの時は逃げ回ってた口さ。」

「ふうん。でも、日本って綺麗な国なんでしょ?あたし、一度行ってみたいの。ニンジャとかゲイシャとかサムライとかにも会ってみたい。あ、日本と言えばフジヤマよね。スシ、テンプラ、テリヤキも好き。」

「ああ、俺はニンジャには会ったことがないけど、ゲイシャになら会えるかもしれないな。でも、多分日本に来たらがっかりするよ。」

「どうして?」

「東京はまるでニューヨークみたいだからさ。」


ハリウッドは華やかなイメージが先行しているが、メインの通りをちょっと外れれば、意外と安い宿がある。

ユースホステルばかり渡り歩いてきたが、ここでは結構ゆっくり滞在できるのでモーテルに泊まることにしていた。値段はそれほどかわらない。一週間で400ドルだ。まあ、値段が値段なのでお世辞にも綺麗とは言えないが、ちゃんとしたベッドとシャワーとトイレがあって、一応鍵もかかる。シーツも代えてくれる。ユースホステルとの差額分の快適さはある。

とは言え、正直なところこんな所に女の子を連れてくるのはちょっと恥ずかしい。でも、こんなことは予想してなかったんだからしょうがない。

ハリウッド大通りから15分ほど山の方に歩いて俺のモーテルに着いた。途中の酒屋でビールも買った。俺ももうすぐ30歳になるのに、写真つきの身分証明書(ID)を見せろと言われたのには驚いた。さっきのバーでは何も言われなかったのに。結局キャサリンのIDでビールを買った。


モーテルに帰って、ビールを飲んで二人でゆっくりした時間を過ごしてのんびりしていた時だ。時計の針はもう1時を回っていたが、突然ドアがノックされた。いや、ノックという表現は正しくない。激しく殴りつけているような音だった。

同時に叫ぶような声が聞こえた。

「キャサリン、ここにいるのは分かってるんだ!出て来い!ここを開けろ!」

「早く開けろ!でないと、ドアを叩き破るぞ!」

「お前がここに男としけこんだのは分かってんだよ!さっさと開けろ!」

おいおい、一体何が起こったというんだ?



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