ep1
「ん……んん……」
目覚めた新九郎の視界に最初に飛び込んできたのは木造の天井だった。柱の表面はところどころ煤けていて、それはこの建物が最近建てられたものではないことを示していた。
「おお! やっと目を覚ましおったか客人! おい、みなり! こやつやっと目を覚ましおったぞ!」
古風な言い回しだが幼くあどけない声が聞こえる。
「ん……んん……」
そちらの方に体を起こそうとする新九郎の体を痛みが襲う。
「お、おい! 無理をするでないぞ客人! 主は三日も寝ておったのからな!」
今度は首だけを声のする方向に向ける。
「ほんに……大丈夫かの?」
ベッドの横に目をやるとそこには、頭に狐耳をとつけた小さな女の子が木製の椅子にちょこんと座っていた。
「あ……あの、さ……」
新九郎が声を絞り出すが狐耳の女の子が左手を差し出すことで制止する。
「よい、主が言いたいことなど大体の察しがついているでな……、主もわっちらと同じくあの小さな女の子のなりをした創造神に別世界からおくられてきたのであろう? わっちは不知火、こっちの世界に来る前は豊穣神と呼ばれておったわ……以後よろしゅう頼むことになるかもしれんでな」
「……、あんたが助けてくれたのか……?」
「ん? 裏の庭に落っこちておった主をベッドに寝かせて後は主の回復力頼み、だなんて間抜けな処置を助けと呼ぶのならそうじゃよ」
「……、そうか。俺もまだ何が何だかあまり良く分かってないけど……ありがとう」
「礼など要らんわ、主がわっちらと同じようにここではない世界から送られてきたことは大体分かっとたし、そうでなくても怪我をしとる人間を見たら助けるのは普通の事じゃろ、……それより礼はみなりに言ったらどうかの」
そう言うと不知火と名乗った狐耳の女の子はベッドの反対側へ指をさす。
「わっちはあやつめに力を制限されておって主を運べるような体ではないからの……実質全てをみなりがやったようなものじゃよ……」
体を反転させるようにして新九郎がベッドの反対側を見ると長い黒髪を腰の辺りまで垂らした女の子が椅子に座っていた。
「おはよう、でいいのかしらね、こういう場合って。とにかく目が覚めて良かったわ」
右手を口の前にもってきて抑えるようにくつくつ、と笑っている少女の顔には安堵の表情が見て取れた。
「……君が俺を助けてくれたのか……?ありがとな」
「んー、どうも。あと君、じゃなくてみなりでいいわよ?立花みなり。それが私の名前。これからよろしくね________?」
少女がくすり、と小さく笑った。