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脳筋 vs 扉

 目が覚めたらそこは見知らぬ部屋の中、石の床から体を起こし胡座をかいて回りを見る。


 暗く狭い正方形の部屋を天井に吊るされたランプが薄く照らしていて、目の前に鉄の扉があった。

 何が起きたか分からん、木の上で寝ていた俺をどうやってここまで運んだのか、まぁいい、さっさとここから出て鍛練だ。


 立とうとして手を地面に着くと、石とは違う感触、着いた手に目をやるとそこには黒い本、誰かの忘れ物か、文字が読めない自分には縁遠い物だ。

 本を隅に放り投げて、扉に近寄り押すが開かない、ならばと引いても開かない、仕方なく扉を壊そうとするが壊れない。


 どういう事だ、鉄など散々引き裂いて来た、へこみすらしないだと、餓死は勘弁だ、全力を持って挑もう。

 叫び心体を荒ぶらせて、激流のように沸き上がる力に身を任せ目の前の扉を殴り付ける、轟音が狭い部屋に何度も響き、扉を撃つ両手足が血で染まる。これで破壊できなかった物は無い。

 しかし、扉は壊れない。


 苦し紛れに一撃加えて膝を着いて、息を乱しながら扉を見上げる、所々に赤い拳の跡があるが、平然と何事も無かったようにそこにある。


 これまで俺がやっていた事は何だったのだ、扉一つ壊せないとは情けない、だが休んでいる暇はない、これを破らないと死んでしまう、よしこれも鍛練だ、叩き続けよう。

 そうして、生きて出る為の鍛練が始まる。



 時間が過ぎる度に空腹が身を苛む、体が徐々に鈍るのを感じる、しかし微かな手応えがあった、扉の中心を打つと中で何かが軋むような感触が伝わる。


 感触を覚えると滅茶苦茶に打たずに、その一点のみを叩き続けた、右手に限界を迎えたら左手に変え、左手に限界を迎えたら右足に変え、右足に限界を迎えたら左足に変え、左足に限界を迎えたら右手に変えて打ち続けた。


 そうしていく内に、限界を迎えるのが遅くなり、だんだんと軋む感触も大きくなってきた。

 そして今、その感触は音を立てて部屋を満たす、そろそろだ、体も限界に近い、賭けに出るとしよう。


 力を振り絞って叫び心体を荒ぶらせる、激流のように沸き上がる力を制して扉の中心に叩きつけた。

 ぴしりと表面に亀裂がはしる、その亀裂を見て自然と笑みが浮かぶ、後少しだ、後少しでこの鍛練が実を結ぶ。

 増えていく亀裂の中心へ向かって無傷の拳を叩き付ける、扉の内にめり込み拳の跡がつく、この跡に蹴りを入れようとして、俺の体はふらついた。

 

 膝を着いて、息を乱しながら扉を見上げる、無数にはしる亀裂の中心についた拳の跡、平然とあった扉が今にも壊れそうになっている。


 壊したい、この一心で歯を食い縛り立つ、よろめいて倒れそうな体をなんとか保ち、息を整えて、構える。

 繰り出すは正拳中段、突きだした拳は中心を捉えて、扉を突き抜けた。


 がらがらと、音を立てて崩れる扉の向こうに。


「や、御苦労様」


 長い黒髪の女を見て、意識が切れた。

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