恐怖
「おう、姉ちゃん」
手野駅前の手野百貨店から2筋ほど裏に入った、人気の少ない路地。近道だからといってここを通ったことがそもそもの間違いだろうか。どこから聞いても野太い、チンピラな感じの声が聞こえてくる。無視しようとして速足で歩くと、突然目の前に壁ができた。コンクリートの分厚い壁だ。
「逃げれねぇよ」
仕方ないと観念した私は、彼らをみる。どこかで見たことがある顔が半分ほど。全員で男ばかりで10人と少しといったぐらいだ。さらにその中の1人は、掲示板かどこかで見た記憶がある。
「あっ」
思い出した。広域指名手配ということで、警戒するようにということが掲示板に張られていた男だ。男は強姦致傷、強盗、殺人未遂を犯し、そしてつい3日前には強姦殺人罪を犯した。全て魔術で起こした犯罪であり、魔術師としての資格は即時停止されていたはずだ。
「あなたたち、何が望み?」
見覚えがあると言った男らについても分かった。大学で私を誘った男らだ。こんなふうにつながっているとは思いもしなかったが。
「当然、知っているだろ?」
知りたくないから、わざわざ聞いたわけだが。でも、どうやら予想通り、私の体を狙っているようだ。ついでに嬲り者にしたいといったところか。さて、私はここから逃げ出さないといけない。でも、足が思い通りに動いてくれない。背中はコンクリの壁、目の前にはまるでレスラーかと思うような屈強な男たちが十数人。魔術で数人は一度に倒せるだろうけど、他を抑えることはできないだろう。ともなれば、私の未来はぞっとするようなことになる。
目をぎゅっとつむり、落ちつくようにイメージを浮かべる。特に思い浮かべたのが、不思議なことに膳所だった。助けてっと強く思い続ける。