最終話 子供は大好き
ああ、どうしてこうなってしまうんだろう。
どうしてみんな私のことをそっとしておいてくれないんだろう。
「この孤児院は寄付金の申告を偽っているおるのではないか?」
この地方の領主がわざわざ兵士たちを連れて孤児院までやってきていた。
「寄付金の申告……ですか」
なんですかそれ?そんなものは初耳なんですけど。前の院長もそんなこと言ってなかったし、そんな帳簿も残ってない。というか一応この領地の法律やら納税やらについて調べてみたけどそんなものはなかったはずなんだけど……。
「我が領地では寄付金にも一定の税金が掛けられることになっている!」
兵士が前に進み出て、大声をあげて言った。
え?なにそれ?ここ孤児院ですよ?本気で言ってるんですか?
「まさかお前、領民の義務を果たしていないんじゃないだろうな!」
私たちに向かって剣を突き付けて恫喝してくる。なにこれ、怖い。
「あ、あの、そのような話は聞いたことがないのですが……」
「おいおい、知らなかったで済まされとでも思っているのか!」
そう言って今度は私の近くにあった椅子を蹴り飛ばした。ヤの付く自由業の方ですか?
激しい音に子供たちがビクリと肩を震わせる。
「だ、大丈夫。大丈夫だから」
私はしゃがみこんで震えている子供たちを落ち着けるように肩を抱き締めて声をかける。
そんな私に向かって領主はしゃがんで優しい声色で語りかけてきた。
「院長さん。我々もね、本当はこんなことしたくないんですよ。でも法律破りを見逃すことはわけにはいかないっていうのも分かるでしょう?一つ見逃せば『なら自分たちも』と考える人間が出てきますからね」
「で、でも寄付金と言ってもここを卒業した子たちが送ってくれる僅かなお金だけで……」
私の言葉を遮るように兵士が大声をあげた。
「我々の試算では!この孤児院には230金貨の寄付が寄せられ、130金貨の納税義務が課せられている!」
「に、230金貨!?」
この国では一般的な平民が一年間で稼ぐお金がおよそ5金貨と言われている。
それからも分るように230金貨なんて大金が孤児院へ寄付されているはずがない。しかも寄付金の半分以上も税金で持っていくなんて……。
「な、何かの間違いです!私たちにはそのようなお金が……」
「間違い?院長、あなたは領主であるこの私が妄言を吐いているとおっしゃるわけですかな?」
「い、いえ。決してそのようなことは……」
「この孤児院では毎年何人の子供を養っているのです?見たところ二十人以上はいらっしゃるご様子。しかも皆さんとても顔色が良く、肥えて、健康的だ。これだけの子供を養うのにお金が掛かっていないはずがないでしょう?」
「そ、それは私がその……森から食料を調達してきているからで……」
「女のあなたが?たったお一人で?嘘を吐くにしてももっとマシな嘘はつけないのですかな。所詮教養もない平民ではその程度が限界ですか」
「ほ、本当です!そのような大金を寄付してくださる方なんて……」
「その顔、その身体。若くはないが男を満足させるには十分でしょう」
そう言って領主が私の肩に手をかける。
ああやめろ。汚らわしい。
「……何が言いたいのですか」
「大方どなたかの愛人にでもなっていらっしゃるのでは、と」
「あ、愛人だなんて!」
愛人どころか未だに処女ですが何か?
「あなたの態度によっては納税を待っても構わない、と考えているのですが」
私は分かりましたと言わんばかりに目を伏せて震えながらも頷いた。
これでも見た目は三十代後半くらいなんだけどね。平均寿命ば五十歳くらいのこの時代に三十代後半って結構なお年寄りよ?まさかそんな私に欲情するとは思わなかったわ。
「物分りが良くて大変結構」
「せ、せめて子供たちのいないところで……」
私は縋るような目で領主に訴えかけた。
「おい、お前たち。子供は好きにしていいですよ」
「さすがは領主様!」
しかしそんな私の言うことを無視して下種なことを言い出す領主。
そしてそれに沸き立つ兵士たち。
塾女かつロリコンでここまで腐った性格をしているとはさすがの私もドン引きです。
「そんな!」
「心配しなくとも殺しはしません。もっとも、多少は傷モノになるかもしれませんがね」
そう言って領主は厭らしい笑みを浮かべた。
「た、助けて……センセー……」
目に涙を溜めて助けを求める子供たち。
「ごめんなさい。みんなごめんなさい……」
何もできないセンセーを許して…………………………………………なんてね。
「でも、これで分かったでしょう?」
私は領主の顔を見てにっこりと笑った。
そして床の一部を強く押し込む。
その瞬間、天井から何十というギロチンが兵士たちのいるところへと降りかかった。
一瞬にして部屋中が血に染まり、血の臭いが充満する。
ほとんどの兵士が一瞬で絶命したが、不幸にも死に損なった兵士は両足を捥がれて血のなかで悲鳴をあげながら無様にもがきはじめた。
「うふふ」
あまりにも物事が上手く運びすぎて笑いが堪えられない。
「な、なな、なにを!」
領主が狼狽する姿がさらに笑いを誘う。
「あはっ!あはははははっ!ほんともうダメ!私を笑い殺す気?くすくす、この私が!お前たち人間に囲まれて!何の対策もしていないはずがないでしょう!!!あははっ!」
「ひっ!!!」
唯一無傷であった領主は尻もちをついて私から必死に後ずさろうとする。
久しぶりの血の臭いと強い興奮に身体が活性化されていくのを感じる。
「わ、若返った……ですと……。それにその黒い髪、赤い目。ま、まままま、まさか……」
あらら、どうやら刺激を受けてせっかく茶色に染めてた髪の色が元に戻ったみたい。
それにお肌もすべすべ。顔を手でなぞってみたけど皴がなくなっちゃってる。
まぁいっか。
「ふふっ、お前たちのおかげで子供たちに大切なことを教えることができたわ。いい?みんな。人間っていうのはこうやって人を騙して利用して犯して殺す下種な生き物なのよ」
「「「「はい!センセー!」」」」
子供たちが笑顔いっぱいに元気良く返事をする。
「もし私が人間を信用していたら、私もお前たちも全員犯されて、殴られて、金を毟り取られて、食べ物すらもこいつらに掠め取られることになっていずれのたれ死んでいたわ。分かるでしょう?」
「「「「はい!センセー!」」」」
子供たちは知っていた。私が演技していたことを。
一緒に生活をしていたら私が普通ではないことくらい子供にだって分かる。そんな私がたかが人間数名にどうにかされるところなんて逆に想像できなかったんじゃないかな。
それにそもそもここの子供たちだってこの辺の兵士如きにどうこうできるほど軟な育て方はしていないし。
「ならそうならないためにはどうすればいいのかしら?アンセム君」
私は子供たちの中でも一番幼い男の子に名指しで質問した。
「人間を絶対に信用しなかったらいいと思います!」
真理ね。私はそれを理解するのに凄く時間がかかったけれど。
「よろしい。なら次は下種な人間の上手な壊し方について勉強しましょう?」
ありがとう領主様。
領民のためにその汚らしい命を使ってくれるなんて。
そんなに怯えないでよ。
子供、好きでしょう?
主人公
名前 センセー
種族 吸血鬼
能力 不死 炎支配 瞬間蘇生 眷族支配 老化支配
下僕 1人
殺害者数 125877人
死亡回数 2453回
内容を少し補足すると、吸血鬼の血の中にはウィルスのようなものが存在し、人間はそれに感染すると過剰反応を起こして死んでしまいます。しかし常習的に吸血鬼に血を吸われている人間は、その血に対するウィルスの適合性が向上するため、例え感染したとしても死に至ることはなくなります。ですが感染後一定期間は仮死状態に入るため死んでしまったように見えます。また感染後もウィルスの支配権は元の宿主にあります。という設定でした。
最後まで読んでいただきありがとうございました。これにて物語は完結となります。楽しんでいただけたでしょうか?
自分としては思ったよりも凄惨な話にならなかったなという印象ですが、これはこれで満足しています。
これからも活動は続けていく予定なので、今後も是非感想にして皆様のご意見を聞かせていただければと思います。