第十二話 冒険者
目を覚ますとそのままおチビに抱きかかえられた。
「クイーン、敵です」
おチビの言葉に頭が覚醒する。
私はすぐさまおチビの腕から飛び降り、右手を横に伸ばした。
「剣を」
右手を握るとそこにはなじみのある感触を感じた。
そして私はソレをいつものように引き抜く。
大振りの両手剣。人間の筋力を遥かに上回る私が扱うのに適した武器がそこにはあった。
私は武器を持たない。
私の武器を持ち運ぶのはおチビの役目だ。
おチビは私が剣を引き抜いたのを確認すると、再び鞘を仕舞い、自分用の武器を取り出した。
一見杖に見える。が、私は知っている。仕込み刀だ。
おチビは並の人間では相手にならないほど強くなったが所詮は人間。そして強くなろうとも同族を恐れている。そう、同族の狡猾さを。
だから人間を油断させ、そしてその爪を隠すために仕込み刀を好んで使う。
しかしそれも化け物の私が隣にいてはただの刀に成り下がる。
足音が近づいてくる。
何者かが賊の討伐に乗り出したのかもしれない。
友好的に話をして戦闘を避けようなんて考えない。
そんなこと一度も考えたことがない。
私は音もなく扉の前に立ち、剣を振り上げる。
相手は気配を消しているつもりだろうけど、おチビにすら気づかれているようではたかが知れている。
いや、もしかするとこの惨状を目の当たりにして注意力が散漫になっているのかもしれない。
まぁそんなことは関係ないけどね。
人間を見つけたら餌以外は残らず殺すことに決めてるから。
扉の向こうに人の気配を感じると、私は両手に持った剣を前に踏み込みながら力いっぱい振り下ろした。
扉が砕け散るとともに、その奥にいた一人の男の頭が割れ、身体が切り裂かれ、絶命する。
周りにいた者たちから悲鳴が上がるが、その隙を逃すはずもない。
好都合。私が次の一振りで二人同時に始末する間におチビは一人の人間を絶命に至らしめる。
「ば、バケモノ!!!」
「知ってる」
一人、また一人と力任せに人間を刈り取っていく。
ここにいた賊よりも数は多そうだ。
あっさり死ぬから強さは分らないけど、多分賊より強いんだろうね。それにいいものを装備してるみたいだし。
「久々に装備を新調できるかもしれないわね」
「そうですね。クイーンの剣もかなり痛んできてましたから運が良かったのかもしれません」
私の場合化け物としての身体能力を使って力任せに振り回してるだけだからね。それだけ武器の損耗も激しくなる。
人間を十数人殺したところで明らかに格の違う一人の男が私と対峙した。
私よりも明らかに巨大な肉体を持ち、私と同じように人の身ほどありそうな大きな両手剣を私に向ける。
「何者だ!なぜ我々を攻撃する!」
「ふふっ、殺したいからに決まっているでしょう!」
剣を片手でなぎ払うと男はなんとかそれを受け流して驚愕に目を見開く。
「なっ!ありえん!なんだこの力は!」
「あら、その肉体は見掛け倒し?意外と力がないのね」
「化け物かっ!」
「否定はしないわ」
剣を振り回して男を追い詰めていく。
「て、撤退だ!ここで起きたことを陛下に報告しろ!」
「ふふ、させると思う?おチビ」
「はい」
「皆殺しよ」
「はい」
おチビが周りの者たちを一人ずつ切り捨てていく。
やっぱりマシなのは目の前の男だけなのね。
「さて、お前と打ち合うのもそろそろ飽きてきたわ。次で終わりにしましょうか」
「クソッ!」
男に向かって剣を振り下ろすと、男は自分の剣で私の斬撃を受け止めた。
激しくぶつかり合う剣が火花を散らす。
しかし次の瞬間ただの火花が激しく燃え上がった。
激しく燃え上がる炎に向かって剣を何度も切り払うとそれに合わせて炎が踊り狂う。
私が剣を振るうたびに触れただけで人を消し炭にするほど高温の炎が目の前の男を包みこみ、おチビを避けて周りにいる人間全てを飲み込んでいった。
「鳳凰剣舞。なんてね」
「クイーン…………、やりすぎです」
「え?」
まさかおチビのクセに私に文句付ける気?
「これでは武具が使い物になりません」
「あ…………」
そういえばそうだった。いくらなんでもこれだけの高温にさらされたら金属だって劣化する。明らかにやりすぎだ。
「…………………………………………一ついいことを教えてあげるわ。剣は人を殺さない。殺意が人を殺すのよ」
「…………そ、そうですね」
目を逸らされた!?くっ、おチビの癖に!
「ムカついたから血を吸うわ。抱っこして」
そう言っておチビに向かって両腕を広げるとおチビは「はい」と言って私を正面に抱き上げた。
手をおチビの首に回しておチビの首に歯を立てる。
んー、甘露甘露。苛立ちが少しずつ和らいでいく。
「んあいあんおうお(長居は無用よ)」
「はい」
楽チンすぎる。これこそ私の求めていた自立思考型餌の完成型。ほんと頑張って育てた甲斐があったわ。
主人公
名前 クイーン
種族 吸血鬼
能力 不死 炎支配
下僕 0人
殺害者数 1858人
死亡回数 207回




