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吸血女王  作者: 妄想日記
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第九話 復讐

 火を浴びても多少ぬくもりは感じるけど焼けどすらしなくなった。

 焼け爛れていた身体の傷は完全に治り、火の中で目を開けていることさえできるようになっていた。

 煙を吸い込んでも咳き込むことなく普通に話せるようにもなっていた。

 私を拘束していた十字架もロープもすでになく、ただ裸で炎の中に佇んでいた。

 炎の向こうから裸を見られているだろうけど何もかもがどうでもよかった。何もかもがどうでもよくなるほどの苦しみが今まで私を蝕んでいたのだから。

 だけどもう苦しくない。もう二度と炎は私に牙を剥かない。なぜかそういう確信が私の中で芽生えていた。

 だから……。


「ねぇ、次はどうやって私を殺すの?」


 私は首を傾げて神父に目を向けた。


「殺さない」


 夜の闇の中、百を超える兵士たちによって燃え盛る炎の周りを完全に包囲され、炎の中にいる私に向かって隙間がないほど槍が突き付けられている。


「殺してしまえば今度は刃物も効かなくなるのだろう」

「かもね。私は化け物らしいから。あはっ、あははっ!」


 私は哂った。

 何度死んでも生き返り、炎の中でこうして平然と立っている自分が化け物であることを否定する気はない。だけどそんなことはどうでもいい。

 それよりもさっきからずっと猛烈に感じている喉の渇きの方がよほど気になる。炎の中にいるからかな?それとも長い時間何も飲んでないからかな?


「それで、いつまでこうしていればいいの?」

「…………」


 神父は私の問いかけに答える気がないのかな。ただひたすらじっと沈黙を守っている。

 ああ、もうだめ。もう無理。我慢できないよ。

 喉が…………………………………………乾いた。


 私は素手で燃え盛る木片を薙ぎ払った。


「うわぁ!」


 兵士たちは勢い良く弾けとんだ木片から顔を庇うように身を守る。

 鋭く尖った木片が腕に刺さり、悲鳴をあげる兵士が目に入った。

 刺さった箇所からじんわりと血が滲み出す。

 その赤い色が目に入った瞬間、私の意識は飛んだ。






 そして次に気がついたときには周りにいたはずの兵士たちは残らず地に倒れ、私は神父の首元に歯を突き立ててその血を啜っていた。

 コクコクと喉を鳴らせるとほんのり甘い香りが口の中を満たしていった。

 美味しい。舌が、喉の動きが、止まらない。

 私は意識を取り戻してもなおその血を啜り続けた。

 しかし遂に血が出なくなってしまったので私は神父の身体をその場で解放してあげた。

 すると乾ききってミイラのようになった神父の身体が折れてその場で崩れ落ちた。


「お前の血はだけは美味しかったわ」


 喉の渇きはすっかりおさまっていた。

 そしてそれと引き換えに身体から今までに感じたことがないほどの力が漲っているのが分かる。

 人間の血を食べ物とする化け物…………そっか、私ってば吸血鬼だったんだ。

 でもおかしいな。私の知っている吸血鬼は十字架やニンニクに弱くて日の光を浴びたら死ぬはずなんだけど、そんなものはこれっぽっちの効かないよ?

 もしかして吸血鬼とは別の化け物なのかな?

 まぁ何でもいいや。何だろうと私が人間と相容れないことには変わらないんだから。

 さて、この町を出なきゃいけないんだけど、その前にケジメだけはつけなきゃ、ね?


 血を飲んだおかげか私の五感がとても鋭くなっていた。

 だから私はとても馴染みのある人間の臭いを追って歩きはじめた。

 広場には生きた人間はもう残っていなかった。



 臭いを追って目的地に辿り着くと、そいつは私のよく知っている家から子供たちの手を引いて慌てて外に出てきているところだった。


「あら、アニー。こんばんわ。そんなに慌ててどこへ行くの?」


 私は首を傾げて笑顔で声を掛けた。。


「ひぃ!」


 アニーが悲鳴をあげて二人の子供たちを庇うように抱きしめる。


「怖がられるのって結構ショックなんだよね。まぁ私は化け物だし、私たちは友達でもなんでもないし、仕方がないとは思うけど」

「た、たすけて……」

「助けて?面白いことを言うのね。その言葉を言った私がどうなったか知っているでしょう?人間が化け物を許さないのと一緒で、化け物だって人間が許せないのよ」

「お、お願いします。どうかこの子たちだけは……」

「知ってた?お願いって種族が違うと通じないらしいわよ。私も最近知ったんだけどね」


 それを教えてくれたのは全部あなたでしょう?


「どうか!どうかお願いします!」


 アニーはその場で膝を付いて、まるで神に祈るかのように両手を組み合わせて涙を浮かべて懇願する。

 やめてよね。そんなことをされると私が悪いことをしているみたいじゃない。


「まぁいいわ。私は人間と違って優しいから。子供に罪はありませんってね。ふふっ、どう?私の方がよっぽど神父に向いてると思わない?」


 私は笑みを浮かべたままアニーたちに近づいていく。


「あ、あぁ……お願いします。どうか子どもだけは…………」

「だからそんなに怯えないでよ。人間なら一回しか苦しまなくて済むんだから」


 そう言って私はアニーを背中から抱き締めた。

 そして身体を堅くするアニーの首筋に歯を突き立てる。

 口の中を腐った味が広がっていく。

 不味い。油断すると吐きそう。

 美味しい血と不味い血の違いってなんだろう。

 やっぱり処女じゃないから不味いのかな?

 ということはあの神父は童貞だったってこと?

 ふふっ、聖職者も大変なんだね。


 やがてアニーの身体は冷たくなり、脈動が止まった。

 私は歯を抜いて立ち上がり、もはや死者には必要ないであろうアニーの服を剥ぎ取ってこの身に纏った。裸だった私は村娘の格好となり、ミイラとなった遺体はその肌を外気へと晒し、服を剥ぎ取る過程で干乾びた腕や足がもげてしまった。


「それと、これも貰っていくわ」


 アニーの服の下から出てきたのは大振りのナイフ。

 くすっ、こんなもので私を殺そうとでも思っていたのかしら?

 手の中でナイフをくるくると回していると鋭い二つの視線が私に突き刺さってきた。

 アニーの子供たちが震えながらも目に涙をいっぱい溜めて、それでも怒りと恨みのその目を宿し、まるで私の姿をその目に焼き付けるかのように瞬きすらせず私のことを睨み付けていた。


「……絶対許さない」


 兄から発せられたその声はアニーのものによく似ていた。


「私も、アニーのことが絶対に許せなかった。ふふっ、もし生き延びることができたら私を殺しに来てもいいのよ?どうせ生き返るから意味ないだろうけどね」


 そう言い残して立ち去る私を身じろぎ一つせずじっと睨み付ける兄と妹の目を忘れることはきっとないだろう。


 それから私はできるだけ人のいない道を抜け、外壁を越えて町から抜け出した。

 私には後悔も罪悪感も未練もない。だってエサが私を殺そうとするのも、私がエサを食べるのも、私がエサと共存することができないのも当たり前のことだから。

 だから世界がぼやけて見えるのもきっと煙が目に染みた所為。

 この日私はエサを決別することを決意した。





 なんて。


 悪役ヒールぶってみたもののこれからどうしろってのよ……。

 うーん…………、血を飲んだ所為かちょっとおかしなテンションになってたよね。

 私にとっての血は人間にとってのアルコールみたいなものなのかな?

 徐々に酔いが醒めて冷静になるととんでもないことをしでかしてしまったような気がする。

 はぁ…………。

 ちょっと冷静になった頭で一度状況を整理してみようか。

 普通に考えて私は大量殺人犯の人殺しで化け物ってことになってるよね?

 目撃者はいっぱいいただろうし、前みたいに全員口封じするなんてどう考えても不可能。私の外見と名前は既にバレてるだろうから確実に指名手配されることになると思う。

 で、取り柄と言えばちょっと力が強いことと死なないことくらい。ああ、あと炎も効かなくなったんだっけ。

 もしかして吸血鬼なら霧になったり蝙蝠になったりできたりするのかな?

 と、とりあえず一度試してみようかな。


「へん・しん!」


 脳内で自分が霧となって霧散していく様をイメージしていく。


 …………。

 …………。

 …………。

 しーん…………。

 ですよねー。


 ないわー。さすがに今のはないわー。

 年頃の娘として女として失ってはいけない何かが失われたような気がするのはきっと気の所為だと思いたい…………うぅ。

 とりあえず私は怪しげな魔術の類は使えないらしい。

 うん、もう二度と試さない。絶対に。

 魔術が発動しなくても精神力はごっそりと失うみたいだからね……。

 仮に誰かに見られて死にたくなったとしても私じゃ死ぬこともできないし……。

 でも死なないってどこまで死なないんだろう?

 やっぱり頭潰されたり心臓に杭を刺されたりしたら死ぬのかな?

 もしくは銀に弱いとか水に弱いとか?

 それはないか。

 普通に銀貨や水に触っても何もなかったしね。

 あと血を吸った相手が吸血鬼化するってこともないみたい。

 血を吸った相手はみんな死んでるし。

 あーでもそれは吸いすぎの出血多量で死んでるのかも。

 うーん、こうやって考えて見ても私って本当に吸血鬼なのかな……。

 だってずっと血を吸ってなくても問題なかったし、特に吸いたいとも思わなかったし。もちろん『今までは』の話だけど。

 でも神父の血の味を知った今ではアレを我慢するのはかなり難しい気がする。

 ずっと我慢してたら欲求不満で狂ってしまいそうな気さえする。

 うん、立派な吸血鬼だわ。

 やっぱり純潔(笑)の血だからあんなに美味しかったのかな。


 今までは特に目的も目標もなくて、ただ生きていければそれでよかったけど、これからは美味しい血でも捜し求めようかな。


 純潔となるとやっぱり子供の血?

 いやいや、いくら化け物だったからって外道にまで落ちる気はないですよ?

 これでも自称子供好きですからね。

 ただし、可愛くて五月蝿くない子供に限るんだけど。


 なんて考えながら歩いていたからだろうか。

 私は街を出る前に小汚い死にかけの子供を拾ってしまった。

名前   ミサ

種族   吸血鬼

能力   不死 炎支配

僕    0人

殺害者数 138人

死亡回数 101回


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