セルアド家の事情04
その日私はユーゼフの部屋に居た。手編みであろう完成品のクロッシェがテーブルに重ねられているのをじっと見て「――本当器用なんだから。姉さん立場ないわ」と注いでもらった紅茶を含みながら軽口を言ってると大げさだなぁとはにかんだ。「自分の趣味なだけだから」って(趣味ねぇこれが。部屋にある市販品とそれほど変わんないじゃない。)
「未来お店でも街に開いてみたら?」と提案してみると「そのつもりだよ。物を作るのが好きで初めてみたけど、人にプレゼントして喜んでもらうのも面白いと思うようになったから。」ああ、なるほど。何日か前にパーティに招待された私たち。そこで大人同士の難しい話から離れた所で小さな子同士の交流もある。女の子がユーゼフの身に着けていたアクセサリに興味を持って売ってる店を訪ねたので手作りと言うとすごいすごいと驚きユーゼフがそれをプレゼントした所嬉しそうにしていたのを思い出す。
「それに温泉街以外にも何か事業をしたいと思ってたから。それだったら楽しくて良く分かってる物がいいなって」「そうね。湯治目的の人って老人が多いから若い子向けの物もあった方がいいわね。」年齢バランス取れていいじゃないの、と私が言うと「姉さんそれはちょっと問題発言じゃ…」部屋で姉弟を見守っている若いメイドはそんな様子を微笑ましいと見ていた。
・・・
執務を行う領主の間。質素だがそう安ものだと分からない物を中心に置かれているセルアド邸の中で唯一当時栄華を送っていた時代を感じさせる部屋に彼女は居た。子供が居てもなお麗しい美貌なので何通も恋文らしき物も届いているのは噂だけではない。だが、本来穏やかな気質の彼女が珍しく厳しい表情で執事に用事を頼んだ。
「―それでは奥方様、行ってまいります。」主に礼をし足早く後にする。
部屋に一人残され深く息を吐き「気が重いわね……」そう一通の手紙を忌々しそうに見つめた。