セルアド家の事情02
03
セルアドの領地の一番小高い丘の上に領主邸は建っている。貴族の屋敷としては小さいながら有事の際に遠くまで見通せる様にしてるため窓から見える景色は絶景だった。遥か遠くに地平線が見えるのも初めて見た時は感動したものだった。ま…田舎ゆえに高い建物がないってだけなのだが。昼の見せる姿もそうだが、日が落ちてから見せるもう一つの姿も好きだ。暗くなるにつれ住宅の灯りがぽつぽつと増え始め、空を見上げれば満天の星空。街のお店はまだ少ないが、今は今で良い所が沢山ある。昔と違い、現王の計らいで国の隅々まで明り(ライティング)の魔術を使える者を派遣、教育してしてくれているお陰で日が暮れても街を歩けるようになり犯罪も大分減ったと聞いている。
我が家や少数派だった貴族が中央から外され、得られる収入が激減したとこれまで何度も会話を聞いてきたが、不正をやって来たのが原因なのだとしたらしょうがないと思っている。もちろん自分を取り巻く人たちの前では言えない事で、その人たちの事は好きだけれどそれはそれだと。母様も恨みに思ってる感じは無く微妙に苦笑いをしていた。デリケートな問題なだけに避けたい話題なのは確かだ。ちなみに父様が死んでしまった原因は、これまで順風満帆だった人生だったためショックが強く病気になってあっと言う間だったそうだ。
今の領主は母様が代理として務めているが、弟が成人した時に正式に領主になる。家計の為にも弟には頑張ってもらわないと困るのだ。
屋敷の廊下の途中、通り過ぎる人たちと挨拶を交わしつつ目的の部屋の前にたどり着いた。所狭しと書棚が整然と並べられている我が家自慢の書籍ルームいや小さな図書館と言ってもおかしくない。今日は何の本を見ようかとうろうろしていたが、やがて時間を忘れ没頭していた。
・・・
先ほどの部屋の中ではまだ説教が続いていた。
「分かりましたね、…御返事は??」ギロリとまるでメデューサの様に睨まれ石の様になっていたユーゼフが頷いた事で漸く怒りを治めた母。
「別に貴方が駄目な子とはいってないでしょう?むしろ出来る子だと思っていますよ?ただだからこそ怒ったのです。」そもそもこの子の気性が大人しすぎるのは分かっている。が、いつまでもそれでいてもらっては困る。まだ5歳。これから変わっていけばいいのだから。
「姉さんが後継ぎになればいいのに……」ユーゼフは以前から自分が領主に不向きな性格だろうと思っていた。それだけについ言ってしまう。
「またこの子は…この国の法律でも女子が領主になるのは中継ぎくらいで基本男子が継ぐのが当たり前です。あなたはまだ幼いのだから、これからいくらでも変われますよ。」
俯いてしまった息子を見て怒りすぎてしまったかしら?と慌てて慰める。でも、この子が言った事には多少の納得をする。
頭は非常に良いのに争いごとが苦手な弟ユーゼフ。気弱な性格で、最近では女子が好む刺繍や詩を達筆に書きそれがまた上手で。
対する姉のシャロンは、頭はそこそこなのだが魔術に才があったのか付近に居る導師に師事してもらっている。積極的な性格で、男性が着用するような動きやすい服装が好きでおよそ令嬢らしからぬ口調を良く注意している。
詰まる所、姉が男みたいで弟が女の様で。でもまぁ子供だから自然と年を追えば成長していくのだから大丈夫だろうと。随分後になるが、この時の判断は甘かったと後悔する様になるのは別の話。