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何度でも交わろう

作者: 高浦

ベッドに寝転がりながら、何でこんな事になったんだっけ…とぼんやり考える。


嬉しさと後悔の混じった微妙な気持ちになりながら、思わず吐きそうになった溜息を押し殺した。






†               †               †






「…でさ、私はアイツと一週間くらいしか付き合ってなかったのにさ…

なのに今の彼女とは半年も付き合ってるんだってさー…本当、本気だった私が馬鹿みたい」



「まぁ…よっぽど好きだったもんな、お前」



「そうだよ!

それなのにアイツはさ―」




事の発端は、幼なじみである真弥からの電話だった。


夜中の七時半くらいに、「愚痴るから私の部屋来て」と唐突に電話が掛かってきて、徒歩十分程のコイツの家までわざわざ来てやったのだ。



愚痴の内容は大抵予測出来た為、乗り気はしなかったた。

だが、自分が本音を聞けるポジションに居るというのは、頼りにされていると実感する為快い。

そんな思いから断る事も出来ず来てみたら…案の定この調子だ。




「だから嫉ましくて嫉ましくて!

…って言うか、腹立ってんのか悲しいのかも最早分からないんだけどさぁ―」




相槌を打ちながらも端末のディスプレイを見ると、時刻はもう十一時五十二分と表記されている。


俺は殆ど相槌を打っていただけの為、コイツはもう四時間程喋りっぱなしという事になる。



…もう聞きたくねぇ。流石にそう思った。


面倒だとか、眠いだとか、疲れただとか。そういう事ではない。

寧ろ、コイツの愚痴り相手や相談相手なら喜んでなる。


だが―




「大体さ、私はまだアイツの事…好きなのにさ…

なのに私に相談とかしてくるしさ、本当…鈍感」




ズキリ。


胸が締め付けられる。

胃が焼け爛れる様な感覚がする。


何が鈍感だよ。お前も十分鈍感だ。



―好きな奴の恋愛相談何か聞いて、何が楽しいっつーんだよ。




「…だからもう…さ、いい加減疲れちゃった」




そう思っていた矢先、半ば叫ぶ様に元彼の愚痴を零していたコイツが、弱々しくそう呟いた。


コイツのコイツらしくなさに驚き、思わず目を見張りつつ凝視する。




「慰めてよ…悠」



「…は?」




突然の尻軽発言に俺は唖然とする。



コイツの一途さは、恐らく俺が一番よく知っている。

なのに今のコイツときたら、支局真面目な様子で―

いやいや待て、俺が変態思考なだけか?



そんな葛藤を心の中で繰り広げつつも、俺はコイツに問う。




「…一応聞くが、お前の言う慰めるっていうのは…」



「やだなー、今更純情ぶらないでよー


…ね、良いでしょ?ね?」




そう言って俺の胸に擦り寄ってくる真弥。


馬鹿かコイツは。

今まで一途にアイツを思い続けてきた為、誘った事…所か遣った事すらないだろう。


なのに俺相手にこんな行動に出て…もう自棄なのか?

ならば、ならば俺だって―




「…良いぜ、慰めてやるよ」




乗っかってやろうじゃねぇの。






†               †               †






そして冒頭に戻る。



俺も相当自棄だったんだろう。

数年間嫉妬して生きてきた為、半ば八つ当たりの様な気持ちもあった。


だがやはり喜びもある。

好きな奴の初めてを奪えて喜ばない男は居ないだろう。



…と、そんな気持ちが、俺の罪悪感を更に強くさせた。




「……お前さ、初めてだっただろ

嫌じゃねぇのかよ」



「別に…どうせアイツとはもう無理だし?

それに…悠相手だし?良いんじゃないのー」




俺に背を向けて寝転びながらも、真弥は投げやりに言った。


恐らく無理矢理吹っ切れようとしているのだろう。




「前者は分かるとして…後者は意味分かんねぇよ」



「だってさ、何だかんだで私の事一番理解してくれてるのは悠だしさ」




やべ、嬉しい。

嬉しいが…複雑だ。


コイツの中の俺は、「一番の理解者であり幼なじみ」という所からきっと進展しない。


一度交わっても、だ。




「って言うか、悠こそ嫌じゃなかった訳?」



「んな訳ねぇだろ

俺は寧ろ満足してる」



「あー、もしかして溜まってた?」



「ちげぇよ

お前相手だからだよ」



「え?」




驚いて目を見開きつつ、真弥は俺の方へと寝返りを打った。



先程コイツが言ったのは冗談だっただろう。それは分かっていた。

分かっていたのに何故か本音で返してしまった。



もう良い、もう戻れねぇ。




「ちっ…なぁ真弥」




一つ舌打ちをしてから名前を呼び、俺は真弥をゆっくりと抱き寄せる。

素肌と素肌が触れ合った。



真弥は何も言わず、何の反応も示さない。


驚いているだろう。

だって、コイツは俺がコイツに好意を寄せている事何て気付いていないのだから。




「そんなに、アイツが好きかよ」




きっと俺は今、凄く情けない顔をしているだろう。

正直恐いのだ。



だが、一度言葉にしてしまうと、今まで秘めていられたのが不思議な程歯止めが利かない。

声が震えそうになるのを抑えながら、少しぶっきらぼうに問い続ける。




「…俺じゃ駄目かよ」




ずっと胸の内に秘めていた想い。


これが終わりになるか、始まりになるか―




「…好きだ」




真弥の返事を恐れ、拒む様に目を閉じて、呟いた。






でも、もう拒まれたって良い。

もし拒まれたら俺は…



君と、何度でも交わろう。

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