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リズムとイズムとオカルトと宝くじ

作者: 安藤博文

「リズムとイズムとオカルトと宝くじ」


僕はオカルトの類をまるで信じていない。

科学で解明されていないことを語ったところで結論など出るわけもなく、幽霊とかUFOとか超能力とか予言とか、そのようなことを一切信じる気にはならない。

そんな僕であるが、一番信用できた大学の友達はオカルト好きの女性だったんだ。

予知夢を見るという話だけはどうにも信じることができなかったが、リズムとイズムさえ同じなら人間関係など友好的になるもので、彼女とはそこが素晴らしく一致した。


僕は授業の合間には決まって駅前のパチンコ店に行ったのだが、彼女も同様で、その頻度やタイミングはまったく一緒だった。同じ時間に店に入り、同じ時間に店を出ることが多く、僕らのプレイリズムは何故か一致していた。

自然と、どちらかがやめるときは一声かける様になり、パチンコの後で食事をするのが恒例になっていた。

僕も彼女も大金持ちになるのが夢だった。彼女は必ず玉の輿にのってみせると言い切っていたし、僕は会社を起こして事業で成功することを宣言していた。お互い金持ちになるためにはどんな努力も惜しまないタイプだったし、そのあたりのイズムも一致していた。

二人の会話はいつも終電ギリギリまで盛り上り、彼女と過ごす時間はとにかく楽しかったんだ。

予知夢の話だけは聞き流していたが、ただひとつだけ、僕が宝くじで一等を当てる夢の話は覚えている。当選番号が77組111777と、いかにもパチンコ好きの妄想らしい番号だったので二人で大笑いした。

繰り返すが僕はオカルト的なことは信じない。だからそんな話も、笑い話としか受け取れないし、絶対実現しない確信もあった。

僕は宝くじを買ったことがないし、これから先も一生買うつもりはないからだ。


二人はまるで恋人同士のようにいくつかの季節を共に行動し、楽しい日々を過ごしていた。

だけど、就職活動の時期は色々忙しくもなる。徐々に会う機会は減っていって、僕が約束の時間にすっかり遅れて会えなかった時から、彼女の連絡は途絶えてしまった。何度も電話やメールをしたが返事がなく、大学の仲間に聞いても、彼女の行方を知るやつはいなかった。結局僕らはそれっきりとなったんだ。


あれから一年以上経過する。

今夜参席した結婚式の引き出物をぼんやり眺めながら、僕はそんなことを思い出している。花嫁の幸せそうな顔を見ることができて何より気分がよかった。

そう、音信不通だった彼女が結婚した。唐突に電話があったかと思うと披露宴へのお誘い。久々の電話が結婚の報告なのも驚いたが、もっと驚かされたのはその後の懺悔話だった。


僕と仲良くなるずっと前に、彼女は大金持ちと結婚する予知夢を見た。結婚相手の顔はわからなかったが、駅前のパチンコ店で出会う相手だということはわかったらしい。

ある時、同じ大学に通う男が彼女の夢に登場する。なんと、宝くじで前後賞込みの一等賞金を獲得している夢だった。それが僕。彼女は結婚相手が僕だと考え、それからは僕への接近を試みた。パチンコするためではなく僕目当て。というよりは将来の金目当てで駅前のパチンコ店に通ったらしい。

どんな努力も惜しまない点はさすが、僕らはいかにも自然に仲良しとなる。彼女の計画は順調に進行していたが、僕が遅れた日にパチンコ店の前で車にひかれてしまった。

彼女をひいたのが結婚相手。それがきっかけでお付き合いが始まり、結婚に至ったようだ。

懺悔の対象は僕。彼女の思いこみで近づいたが、何も知らずに楽しそうに話す僕を見て罪悪感にさいなまれていたようだ。

僕に近づくために、偶然を装って出会いを演出したなんて、僕にとっては超常現象よりもびっくりさせられる話だったが、彼女に騙されたという感情は全く生じず、むしろまるで映画のような出来事に僕は感動したくらいだ。


結婚相手はずっと身分を隠していたようで、プロポーズを承諾した後に、超がつくほどの資産家であることを知らされたらしい。玉の輿にのる彼女の夢と予知夢は両方実現した。

でも今日の嬉しそうな表情はそんなこととは関係なく、最高のパートーナーとめぐり合えたことがもたらす幸せいっぱいの笑顔だと感じた。


引き出物に入っていた高価そうな品物を取り出しながら、電話の最後に言った彼女のセリフを思い返していた。


「そろそろあなたの番ね」


僕の近況も話せという意味か、結婚のことか・・・。


袋の底には10枚ほど入った宝くじの封筒。一番上の番号は111771。


僕はオカルトは信じない。

いまのところは。




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