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1/1

1.マイナス

 「へ?たった今のでマイナス5000万?」


 隣にいる金髪美少女天使はその言葉を聞いた途端、額にシワを寄せて冷たい目で僕を見下ろした。

 背中に生えた2つの翼が、苛立ちで大きく不規則に揺れ周りの土埃が舞う。

 広場で突然の大風が吹き、町の人たちの不満そうな声があちこちから聞こえた。

 それがラスボスのような存在感を漂わせ、もはや悪魔に見えるのは気のせいだろうか。

 「“たった”......?あんた、どんだけ大事なことか分かってへんやろ」 


 若干ドスの聞いた声で、何故か関西弁。

 初めてこんな高嶺の花のような美女から、似ても似つかない声で言われると、もうそれだけで自分がなにかとてつもないことをやらかしたのだと認識させられる。


 「あっあのあの、なんかすみません」

 「あ?なんか?自分が何したか、ほんまに分かってんの?」

 「うっ......、ワカリマセン」

 そう突っ込まれると、なにも言えない。

 なにせ今したことと言えば、『道に落ちていた空き缶をゴミ箱に捨てた』という善良な行為だからだ。

 このどこに、一体怒られなければならない要素があったのだろうか。

 考えてみても、『他人の尻拭いをした』という事実は、悪行とは思えない。

 

 「入れるとき、何したん?」

 「え?なにしたとは?」 

 説明もする必要がないくらい、シンプルにいつも通り入れただけ。

 いざ説明しろと言われても、難しい。

 拾って→ゴミ箱に捨てただけだ。


 「せやから、あんたゴミ箱に入れるとき、投げたやろ」

 「投げま......した。ましたけど!」

 「それ、やってるわ」

 「えぇ!?」

 確かに、近くに置いてあったゴミ箱に入れる際、ほんの少しだけポーンとはした。ことは認める。

 だが、遠くから投げ入れたわけではないし、ゴミ箱に入らなかったわけでも、誰かに怪我をさせてしまったわけでもない。

 あくまで『ゴミ箱の目の前に立って』したことだ。

 ここまで言われても尚、やっぱり怒られるようなことはしていないと、思う。


 そんな僕の心情を察したのか、「あーコイツ、全然分かってねぇな」というような横目で圧をかけられ睨まれる。怖い。

 「無能を見るような目は辞めていただけると助かるのですが......」

 「ここはどこや?説明してみ」

 「無視ッッ!!!」

 

 この世界に来て、まだ3日。

 土地勘なんてない僕でも、今いる場所の説明が出来るほど、この場所は栄えている。


 「シンボルとなるあの高い建物は大聖堂、その横に図書館。食材売り場や武器売り場、雑貨売り場、依頼所までなんでもあるリーレオ都市の中心ですが」


 元いた世界とあまり変わらない食材に安心したのを覚えているし、図書館の本の文字が見たこともないのに読めるという不思議な体験もした。

 武器売り場は包丁よりもずっと鋭い刃をギヨギロと輝かせているし、依頼所は役所みたいだ。 


 「そして?」

 「え、いや、あとは特に、なにも」

 「からの?」

 押さえていた感情が、天使からの若干の煽りによって解放されていく。

 「本当に、なにも、」

 沸々と足の下から心臓の血液を煮えたぎらせ、頭が蕩けていく感覚に飲み込まれそう。

 たたたたたたたた宝たたたたた

 

 我慢、出来ない。


 「な~んとビックリハッピネスグッジョブッッ!図書館の横、つまり今いるこの場所からとってもよく見えるのがこの建物!!!『宝くじ売り場』!!!!!まずこの世界にも宝くじという合法ギャンブルがあることに驚きました!そして現実世界同様ひっそりと、でも建物の色を赤くするという主張も持ち合わせた2つの美!!当たるか当たらないかどちらしかない中で、時には命を燃やし、時には骨をも溶かし、」

 「なんかうるさいから更にマイナス2000万な」

 「いや理不尽ッッッッ!!!」

 説明しろと言ったのは、煽ったのはそっちじゃないかよ!!!!!!!!!!!

 ズボンからシワシワのハンカチを2枚、3枚と取り出し1人悲しくえんえんぐすぐす。

 理不尽ってどこにでもあるものなんだなコンチキショーと怒ってみても更に又、理不尽にマイナスされるだけのような気がしたので、大人な表情を作っておいた。


 「なんやその顔、気色悪いわ」

 「......っす」

 

 「ステータス」と声にならない空気のような声を出し、半透明で四角い画面を出す。

 名前:早野勇大(はやのゆうだい)

 年齢:25歳

 特殊スキル:運の天使が見えること

 運の強さ:マイナス7000万

 その他:童貞

 

 合計マイナス70000万になってしまったこの運の強さという数字。

 信じたくもないが、多分、きっと、この口悪天使がついた嘘だと思いたいが、ステータス画面は現実しか映さない。

 この数字が現在の僕の『運の強さ』だ。

 つか、童貞情報いらないだろ。


 「えらい沈んどるやん、どないしたん?」

 「ほぼあなたのせいですよ......」 

 「何言うてるか、まったく分からへんな」


 そしてこの天使こそ、僕の運の強さを握っているキーパーソン。

 なにか良いことをする度に運をあげ、やらかしたら下げる。

 裁量は完全お任せランダムで、気が向くままに弄ぶ。

 普段は温厚でとても優しく神のようなオーラを纏う天使だが、僕がなにかをやらかしてしまう度に何故か関西弁になり神のオーラも消え失せ、悪魔のような恐ろしい天使になるのだ。


 「言うとくけど、わざと意地悪してるわけとちゃうからね?」

 「え?違うんですか?」


 こんなけマイナスされると、疑うことから入ってしまう。

 だってさすがにやりすぎな気がするし......。

  

 通り過ぎ行く町の人たちのステータス画面は、特殊ステータス以外誰でも簡単に閲覧可能なので、数人の画面を覗き見した。

 どの人も差はあれど、マイナスの人は滅多に見かけない。

 唯一見かけたとすれば、刑務所から出所したいかにも殺っちゃってます。オーラを出した怖い方々たちだろうか。

 それでもマイナス50万や80万の画面しか見られず、この僕のマイナス7000万とは桁が違う。

 こんなことってありますか、天使サマ。

 

 「お前は空き缶を拾うとき、こうおもった。"可哀想"」

 「そりゃベコベコにみんなから潰されて可哀想だなとは思いましたけど、いたわりの心ですよ」

 「ちゃう。そんなのちゃう。この子は踏まれながらも一生懸命誰かがひろてくれるのを待っとったんや。そんなコに可哀想?えげつな。この子も泣いてるわ」


 先ほど僕が入れたゴミ箱から、空き缶を取り出し頬擦りし出す。

 天使はどうやら人の言葉だけではなく、空き缶の思っていることまで分かるらしい。

 確かにそれを聞くと、一生懸命健気な心で待っていた空き缶に申し訳ない気持ちになる。

 けど、けどね、


 「マイナスしすぎじゃないですか?」

 「ソンナコトナイ」

 「自分でもちょっとやりすぎゃちゃったかもなーって思ってますよね?」

 「オモッテナイ」

 「......もういいです」


 そもそもマイナスだからなんだ。

 確かに運の数字が上がれば上がるほど、宝くじに当たる確率は高くなる。

 まだこの世界に来て日は浅いが、違う世界に来たからといって宝くじを当ててやるという情熱は消えていない。


 俺はマイナス7000万でも、当ててやる。

 例え7等300円でも当てられたら、俺の勝ちだ。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 「だから運は大事と言ったのに。マイナスで当たるわけないんですから。夢を見すぎて辛くなるのはあなたなんですからね」

 「 ......天使のバカ!!そもそもこんなに下げたのはそっちでしょ!?7等も当たらないなんて......」

 「はぁ!?人がせっかく慰めてんのに!.おもんな。マジおもんないわ。.....もう知らん。更にマイナス3000万追加」

 「○×△☆♯♭●□★%!?!?!?!?!?!?!?」

 

 こうして運を司るという天使と喧嘩をしてしまった今日の運は、『マイナス1億』スタートからとなった。





 「掃除屋ギルドに行って、運とはなにかをちゃんと勉強した方がいいと思います」

 「あぁ確かにそんなところがありましたね!喜んで行きます行かせて下さい♪宝くじが当たるのならなんだって出来ますから♪♪♪」

 「ギャンブルばか。」

 「え?」

 「いえ、なにも」


 

 物陰から2人を見つめる影さえもニヤリと笑ったのは、誰も知らなくていいこと。

 「ふふっ、順調にマイナスしていて偉いわ。堕天使ヴィユノーク♡」


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