暴走
「どうして……そんなことしたの?」
レオンは唇を噛み、視線を逸らす。
「……ミオが……あいつを見てるのが嫌だったんだよ」
その言葉に、ミオは胸を痛めた。
けれど、レオンの背後――校舎の影で、
黒い翼が震えていることには気づかなかった。
ソーはそこにいた。
拳を握りしめ、爪が食い込むほど強く。
(ミオ……泣きそうな顔してる)
胸が焼けるように熱くなる。
呼吸が荒くなる。
翼が勝手に広がりそうになる。
――危険だ。
――近づくな。
頭ではわかっているのに、
体が言うことを聞かない。
レオンがミオに一歩近づいた瞬間、ソーの視界が赤く染まった。
「……ミオから離れろ」
低く、震える声が響いた。
レオンが振り返る。
「なんだよ、お前……また出てきたのか」
ソーはゆっくりと歩み出る。
翼が風を切り、影が地面に伸びる。
「ミオを……傷つけるな」
「傷つけてねぇよ。俺は――」
「嘘だ」
ソーの声は低く、怒りで震えていた。
レオンの噂、ミオの涙、全部が胸の奥で爆発しそうだった。
「ミオを泣かせた。
それだけで……許せない」
レオンの耳がぴくりと動く。
「……は? ミオを泣かせた?
お前だろ、泣かせたのは」
その言葉が、ソーの心臓を刺した。
瞬間、翼が大きく広がる。
風が巻き起こり、砂埃が舞う。
「黙れ……!」
ソーの声は、もはや獣の唸りに近かった。
レオンも負けていない。
狼の耳が立ち、牙が覗く。
「やる気かよ、蝙蝠野郎」
次の瞬間、二人の影がぶつかった。
レオンが飛びかかる。
ソーは翼で風を起こし、横へ跳ぶ。
爪と爪がぶつかり、火花が散る。
レオンの拳がソーの頬をかすめ、
ソーの爪がレオンの腕を裂きかける。
「やめて!!」
ミオの叫びが響くが、
二人には届かない。
ソーの視界は赤く染まり、
レオンの姿しか見えていなかった。
(ミオを……泣かせた……)
怒りが胸を焼く。
翼が暴れ、風が渦を巻く。
「ミオに……近づくな!!」
ソーが叫び、レオンを吹き飛ばす。
レオンは地面を転がり、砂埃が舞う。
「っ……くそ……!」
レオンも立ち上がり、牙を剥く。
「ミオは……俺が守るんだよ!!」
その言葉が、ソーの心を完全に壊した。
「違う……ミオは……僕が……!」
ソーの翼が大きく広がり、
風が爆発するように吹き荒れた。
ミオは思わず目を覆った。
「ソー!!」
その声だけが、暴走する心を貫いた。
ソーの動きが止まる。
翼が震え、爪が地面に落ちる。
ミオが駆け寄り、ソーの腕を掴もうとした瞬間――
ソーは反射的に後ずさった。
「ミオ……だめ……触れたら……!」
ソーの瞳は恐怖で揺れていた。
怒りではない。
ミオを傷つけることへの恐怖。
レオンは息を荒げながら立ち上がる。
「……あいつ、本気で暴走してたぞ……」
ミオは首を振った。
「違う……ソーは……私を守ろうとして……!」
ソーは苦しそうに胸を押さえ、
翼を震わせながら後退した。
「ミオ……ごめん……
僕……君の前に立つ資格なんて……」
そのまま、影のように走り去っていった。
ミオは伸ばした手を、
ただ空に残すしかなかった。
「レオンくん、私は誰にも守られたいと思ってないわ。あなたの考え方は傲慢よ。しかもこんな卑怯なやり方で。あんたみたいなやつが一番嫌い。早くどっか行って。大嫌い。」
レオンは唇をかんだ後、走り去っていった。




