悪評の原因
ソーが実技テストで圧倒的な力を見せてから、学園の空気は一変した。
人間の生徒たちは驚きと憧れを抱き、獣人の生徒たちは複雑な視線を向ける。
その中に、一人だけ――
ソーを睨みつける獣人の少年がいた。
レオン・ヴァルガ。
狼系の獣人で、学園でも有名な実力者。
プライドが高く、負けず嫌い。
そして――ミオに密かに想いを寄せていた。
レオンは、ソーが人だかりに囲まれているのを遠くから見ていた。
翼を畳み、照れたように視線を逸らすソー。
その姿に、女子生徒たちがきゃあきゃあと騒ぐ。
「……なんだよ、あいつ」
レオンの耳がぴくりと動く。
尻尾が苛立ちを隠せず揺れた。
ミオが少し離れた場所からソーを見つめているのに気づいた瞬間、胸の奥がざわりと波立つ。
(ミオ……あいつを見てる)
その視線は、憧れにも似ていた。
レオンは歯を食いしばる。
(なんでだよ。俺はずっと……ミオのこと……)
その想いは、誰にも言えなかった。
獣人の本能は強いが、恋には臆病だった。
その日から、学園に妙な噂が広がり始めた。
「ソーって、前の学校で問題起こしたらしいよ」
「獣人の中でも危険な部類なんだって」
「人間を傷つけたことがあるって噂も……」
ミオは胸がざわついた。
(そんなはずない……ソーは……)
けれど、噂は止まらない。
まるで誰かが意図的に広めているように。
そして、ミオは気づく。
噂が広がる場所には、必ずレオンがいた。
レオンは人間の生徒に近づき、
さりげなくソーの悪評を囁いていた。
「気をつけた方がいいぞ。あいつは……危険だ」
その声は低く、冷たかった。
レオンはソーの実力を認めていた。
だからこそ、悔しかった。
自分より速く、
自分より高く跳び、
自分より強い。
そして――
ミオの視線を奪った。
(ミオは……俺を見てくれないのに)
胸の奥が焼けるように痛む。
レオンは拳を握りしめた。
「……ミオは、あいつに近づいちゃいけないんだ」
それは嫉妬であり、同時に“自分の正しさ”を信じたいだけの言い訳だった。
ある日の放課後。
ミオは偶然、レオンが人間の生徒に噂を吹き込んでいるのを聞いてしまう。
「ソーは危険だ。ミオにも近づくなって言ってる。あいつは……人間を傷つける」
ミオの胸が凍りついた。
「……レオンくん。
その噂……あなたが流してたの?」
レオンは驚き、振り返る。
ミオの瞳はまっすぐだった。
「どうして……そんなことするの?」
レオンは唇を噛み、視線を逸らす。
「……ミオが……あいつを見てるのが……嫌だったんだ」
その声は震えていた。
「俺は……ずっと……ミオが好きだった。でも……ミオは……あいつばっかり……」
ミオは息を呑んだ。
レオンの瞳には、嫉妬と苦しさが滲んでいた。
「だから……あいつを遠ざけたかった。
ミオを……守りたかったんだよ……」
ミオは静かに首を振った。
「守るって……そんなやり方じゃないよ」
レオンは拳を握りしめ、悔しそうに俯いた。
ソーは影から見ていた。
その会話を、校舎の影から聞いていた。
翼が震え、爪が食い込む。
(ミオ……守られてない。
僕が……守らなきゃいけないのに)
ソーは胸に手を当て、深く息を吸った。
――ミオを守るために。
――ミオを傷つける噂を止めるために。
ソーは、レオンと向き合う覚悟を決めた。




