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蝙蝠の獣人に拒絶される私が、実は溺愛されていた話  作者: 早乙女姫織


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4/8

悪評

夕暮れの学園は、昼間の喧騒が嘘のように静かだった。


校舎の影が長く伸び、風が吹くたびに桜の花びらが舞う。


ミオは一人で帰り道を歩いていた。


友人たちの誘いを断り、今日はどうしても一人になりたかった。


胸の奥に残る痛みが、まだ消えない。


――好きじゃない。


――近づかないで。


ソーの言葉が、何度も頭の中で反響する。


けれど、屋上で見たあの姿が、どうしても忘れられなかった。


(……ソー、あんな顔してたのに)


嫌いな人に向ける表情じゃなかった。


苦しそうで、泣きそうで、触れたら壊れてしまいそうなほど脆かった。


ミオは胸に手を当て、深く息を吸った。


「……どうして、そんな嘘つくの」


呟いた声は風に消えた。


そのときだった。


「おい、そこの子。ちょっといいか?」


低い声が背後から響いた。


ミオが振り返ると、見知らぬ上級生が二人、校舎の影から現れた。


「獣人の転入生と仲良くしてるって噂、ほんと?」


「危ないぞ。あいつ、爪とか翼とか……何するかわかんねぇし」


ミオは一歩後ずさる。


「……ソーは、そんなことしない」


「へぇ? じゃあ、なんでお前だけ避けられてんだよ」


胸が痛んだ。


図星だったから。


「俺たちの方が一緒に居て楽しいだろ。あんな奴に関わるのやめろよ」


「荷物持とうか。家まで送ってやるよ」


上級生の手が肩にのびる。


ミオは唇を噛みしめ、言い返そうとした――その瞬間。


風が変わった。


空気が張り詰め、夕暮れの光が一瞬だけ陰る。


「……ミオから離れろ」


低く、震えるような声が響いた。


上級生たちが驚いて振り返る。


校舎の屋根の縁に、黒い影が立っていた。


風に揺れる外套。


畳まれた翼。


鋭い爪を握りしめた拳。


――ソー。


ミオは息を呑んだ。


ソーは屋根から軽やかに飛び降り、音もなく地面に着地した。


蝙蝠の獣人特有の、静かでしなやかな動き。


上級生たちは後ずさる。


「な、なんだよ……!」


「獣人……!」


ソーはミオの前に立ち、翼をわずかに広げて庇うように構えた。


その姿は、まるで影が形を持ったようだった。


「ミオに……触るな」


声は低く、震えていた。


怒りではなく、恐怖に近い震え。


――ミオを傷つけるかもしれない恐怖。


上級生たちは圧倒され、逃げるように走り去った。


静寂が戻る。


ソーはゆっくりと翼を畳み、ミオに背を向けたまま言った。


「……ごめん。怖がらせた」


ミオは首を振った。


「怖くなんかないよ。ソーが……守ってくれたんでしょ?」


ソーの肩がびくりと震えた。


「違う……違うんだ。僕は……ミオの近くにいちゃいけない」


「どうして?」


ミオが一歩近づくと、ソーは反射的に後ろへ下がった。


翼が震え、爪がわずかに伸びる。


「ミオが……近づくと……制御できなくなる……」


声がかすれていた。


「ミオの匂いも、声も、足音も……全部、僕を狂わせる。触れたら……壊してしまう」


ミオは胸が締めつけられた。


「どういうこと?わけわからないよ」


ソーは答えない。


ただ、苦しそうに拳を握りしめる。


「ごめん、ほんとうにごめん」


消え入りそうな声でそう言うと、すぐにどこかに飛んで行ってしまった。

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