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蝙蝠の獣人に拒絶される私が、実は溺愛されていた話  作者: 早乙女姫織


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3/9

感情の暴徒

夜の風が屋上を吹き抜け、ソーの黒い翼を揺らした。


ミオの泣き声が、まだ耳の奥に残っている。


胸が痛い。


痛くて、息ができない。


――近づかないで。


あんな言葉、本当は言いたくなかった。


でも、言うしかなかった。


ソーは拳を握りしめた。


鋭い爪が掌に食い込み、じわりと血が滲む。


痛みは、むしろ救いだった。


心の痛みより、ずっとましだから。


「……ミオ」


名前を呼ぶだけで、翼が震える。


胸の奥が熱くなる。


心臓が跳ねる。


獣人化してから、ソーは自分の体が“感情に反応する”ことを嫌というほど思い知らされた。


ミオの匂いが近づくと、呼吸が乱れる。


声を聞くだけで、翼が勝手に広がりそうになる。


足音が近づくと、心臓が暴れ出す。


名前を呼ばれたら――もう制御できない。


治療師の言葉が頭にこびりついている。


「最も危険なのは“恋情”だ。その相手には、決して近づくな。感情が高ぶれば、翼も爪も牙も、すべて暴走する」


ソーはその意味を、誰よりも理解していた。


ミオの前に立つと、翼が震える。


爪が伸びる。


呼吸が荒くなる。


視界が赤く滲む。


――触れたら、壊してしまう。


その恐怖が、ソーを縛りつけていた。


「ミオに……触れたいのに……」


呟いた声は、夜風に消えた。


触れたい。


抱きしめたい。


あの日のように、小指を絡めたい。


でも、それが一番危険だ。


ミオの肌は柔らかい。


自分の爪は鋭い。


翼は力が強すぎる。


抱きしめたら、折ってしまうかもしれない。


ミオの涙を拭いたいのに、


その涙を流させているのは自分だ。


「……守りたいんだ。ミオを」


ソーは胸元を押さえた。


心臓が痛いほど脈打っている。


「だから……拒絶するしかないんだよ……」


ミオを傷つけないために。


ミオを守るために。


ミオを壊さないために。


ソーは自分の翼を抱きしめ、膝をついた。


「好きだから……近づけないんだ……」


その本音だけは、


ミオにだけは、絶対に言えなかった。

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