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蝙蝠の獣人に拒絶される私が、実は溺愛されていた話  作者: 早乙女姫織


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2/10

誤解はシミとなって

翌朝、ミオは目を覚ました瞬間、胸の奥がずきりと痛んだ。


昨日の出来事が、夢ではないと気づくまでに時間はかからなかった。


――近づかないで。


ソーの声が、耳の奥に残っている。


拒絶されたという事実が、じわじわと心を締めつけた。


布団の中で膝を抱え、しばらく動けなかった。


涙は出ない。ただ、胸の奥が空洞になったように重い。


「……行かなきゃ」


自分に言い聞かせるように呟き、制服に袖を通す。


鏡に映る顔は、いつもより少しだけ疲れて見えた。


家を出ると、春の風が頬を撫でた。


昨日と同じ風なのに、どこか冷たく感じる。


通学路を歩きながら、ミオは何度も空を見上げた。


黒い影が飛んでいないか、無意識に探してしまう。


――ソーは、今日も学校に来るのかな。


考えるだけで胸が痛む。


会いたい。


でも、会うのが怖い。


そんな矛盾が、ミオの足取りを重くした。


学園に着くと、友人のユナが手を振った。


「ミオ、おはよ……って、どうしたの? 顔色悪いよ」


「え……そうかな。大丈夫だよ」


笑ってみせるが、ユナは納得していない顔をした。


「昨日、何かあった?」


「……ううん。何も」


本当は“何もない”なんて嘘だ。


でも、言えなかった。


ソーのことを話すと、胸がまた痛む気がした。


教室に入ると、ざわめきが広がっていた。


「今日も来るかな、あの獣人の転入生」


「怖いよな……翼とか爪とか」


「近づかない方がいいって」


そんな声が耳に入るたび、ミオの心はざわついた。


ソーは怖くなんかない。


優しい。


誰よりも。


でも、昨日の拒絶が頭をよぎる。


――近づかないで。


ミオは席に座り、机に視線を落とした。


胸が苦しくて、息が浅くなる。


そのとき、教室の扉が開いた。


静寂が落ちる。


ソーが入ってきた。


黒い外套。


畳まれた翼。


伏せられた瞳。


ミオの心臓が跳ねた。


ソーはミオの方を見ない。


視線を合わせようともしない。


まるで、ミオがそこにいないかのように。


胸が痛む。


昨日よりも、ずっと。


ソーは教室の一番後ろの席に座り、静かに息を吐いた。


その横顔は、どこか苦しげだった。


ミオは気づいてしまう。


――避けてる。


――やっぱり、嫌われたんだ。


昨日の拒絶が、現実として突き刺さる。


授業が始まっても、ミオは文字が頭に入らなかった。


黒板の文字が滲んで見える。


ソーは一度もミオを見なかった。


ミオも、振り返る勇気が出なかった。


昼休み、ミオは中庭の隅で一人座った。


風が吹き、髪が揺れる。


「……ソー……」


名前を呼ぶだけで、胸が痛む。


昨日の言葉が、何度も何度も頭の中で反響する。


――好きじゃない。


――近づかないで。


ミオは膝を抱え、顔を埋めた。


「……嫌われたんだ……」


声に出した瞬間、涙がこぼれた。


止めようとしても止まらない。


でも、ミオは知らない。


校舎の屋根の上で、黒い翼を持つ青年が、


ミオの泣き声に気づいて、拳を震わせていることを。


――近づけない。


――触れたら壊してしまう。


ソーは自分の爪を見つめ、唇を噛んだ。


「ミオ……ごめん……」


その呟きは、風に消えた。

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