表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

第5話:毒と真実、そして選択

宮廷の朝は、緊張で重く沈んでいた。

白石瑠璃は小さな器と帳簿を抱え、深呼吸する。今日こそ、長く続いた陰謀の糸を断ち切らねばならない――。


「瑠璃、準備はできているか?」

黎の声が、珍しく柔らかさを含む。冷徹な皇太子が、わずかに心を開いた瞬間だった。私は小さく頷く。


黒幕は側室、医局、商会の複雑な連携によって、宮廷の権力を揺るがす計画を進めていた。しかし、私の嗅覚と観察眼、そして章末で記録してきた処方メモの情報を組み合わせれば、毒の元、手口、意図すべてを暴ける。


最初のターゲットは、側室の病を操っていた医局長。彼の部屋に忍び込み、匂いの痕跡と帳簿の数字を照合する。桂皮、甘草、硫黄、微量の茴香――組み合わせの違いが、誰が毒を操作していたかを明確にする。


「ここだ……匂いの変化と帳簿の不整合がすべてを示している」

小さな声で呟き、証拠を整理する。杜コウがそっと手を添える。「瑠璃さん、行きましょう」

「ええ。宮廷を守るために」


昼下がり、黒幕との対面は静かに訪れた。豪華な書斎の奥、硫黄の微かな匂いが漂う。相手は、表向きは穏やかだが、心の奥には欲と権力の毒を抱えていた。

「君が匂いで私を見抜いたのか……」

「匂いと証拠は、嘘を隠せません」

私は手元の器を示す。解毒薬の匂いと、帳簿の整合性が、すべてを証明していた。


黒幕は動揺し、逃げる隙を探す。しかし、私の目の前には、宮廷の守りと、黎の支えがある。数瞬の静寂のあと、全てが明るみに出た。


夜。宮廷の回廊を歩く。側室たちは回復し、医局も整理され、商会との取引も監査される。宮廷は静かな秩序を取り戻しつつあった。

黎が私の横に立ち、わずかに微笑む。「瑠璃、君がいてくれたおかげだ」

「私の力だけではありません。匂いと薬草が、宮廷の真実を教えてくれました」

微かな沈黙のあと、私は決意する――。


宮廷に留まり、黎や杜コウと共に宮中の秩序を守るのか、それとも下町に戻り、薬屋として静かに生きるのか。匂いを頼りに、今日まで歩んできた道は、私に選択を迫る。


深呼吸をひとつ。匂いの奥に、微かな甘い風が混ざる。

「私は……宮廷に残る」

黎が微かに目を見開き、そして笑う。

杜コウも笑顔を見せた。私の嗅覚、薬学、そして観察眼は、この宮廷で誰かを守るための武器となる――。


夜の回廊。甘い香りの奥に潜む硫黄の匂いは、もう脅威ではなく、私にとっての道標となった。

毒と嘘と陰謀を嗅ぎ分け、真実を紡ぐ――それが、白石瑠璃の選んだ未来だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ