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不幸神の加護がついているからと婚約破棄をされた令嬢の末路

作者: 山田 勝

「婚約は破棄だ。すまない」

「お姉様、申訳ありません。この方が国にとって良いと思いますわ・・・」


「・・・はい」


『ですよねー』と心の中で激しく同意した。

 だって、私は神の加護持ち。今も神は後ろについている。


 その名も『不幸神』だ。

 黒毛の縮れ毛、紺の瞳、黒のよれよれとしたドレスを着ている。

 片方の口角をニィとあげて、『クククク』と言いたげだわ。


 一方、つい先日、妹には女神様の加護がついた。

 女神様は金髪にアイスブルーの瞳、白い清潔なドレスを着られているわ。


 誰も理由を話さない。私も聞かない。一目瞭然だわ。

 でも、私はどうなるか?と疑問に思ったら、殿下は申し訳なさそうに。


「申し訳ない。追放だ」

「グスン、グスン、お姉様、今まで有難うございましたわ」


 やっぱり追放者になったのね。


 両親とのお別れの挨拶もそこそこに、食べ物を3日分だけもらって、都を徒歩で出発した。


 国の端に追放者の村がある。

 都も最近、人口過密状態だ。一部屋に10人住みなんてザラだ。

 不幸神付の女をおいておく余裕はないのだ。


 私が殿下の婚約者に指定されたのも、神付だからだ。

 言い伝えである。


『汝、幸せを欲するのなら、不幸を背負え。重荷を背負い坂道を登れ。幸せはその先にある・・・』


 何て、賢者の言い伝えがあったので、私が指定されたのだ。


 さて、3日目でようやく追放者の村に着いたわ。

 この先は断崖絶壁だわ。この国は四方を断崖絶壁に囲まれている。


 女神様の御力で外敵が侵入しないように、地形を作り替えたと言う伝説がある。


「何だ。追放者か、土を耕せ」


「え、はい。いつから?」

「今からだ」


 男に道具を渡されて、土を耕す。

 そして、種を植える。


「数ヶ月後に実をつけた草が生える。パンが作れる」

「パン?女神様の御業では?」

「追放者たちが数代かけて作ったのだ。無駄口を叩くな。やれ」

「はい」


 都だとパンが空から降ってくるけどな。


 しかし、私は不幸神付だ。当然のごとく不幸が襲う。


「鳥が来たぞ!種をほじくり返す!」

「大変ですわ!あっちに行って!」


「どうしたらよい!」

「人がいるときは来ない、人形を作るか・・・」

「もっと深く植えたらどうだ」

「芽が出るか、試して見る価値はあるな」


 また、実をつけた頃には動物が畑に侵入するようになった。


「どうしたらよい!」


 また、ガヤガヤ相談を始めたわ。


 私は謝罪をした。


「あの皆様、不幸神付の私がいなくなれば不幸は無くなりますわ。出て行きます」


 背を向けて行こうとしたら、男に手をつかまれ止められた。


「追放者は仲間を見捨てない。それが唯一の追放村の戒律だぁ!」

「はい・・」


 こんな時も、不幸神は、片方の口角をあげて、『ククククク』と笑う。


 思念が伝わってきたわ。


『背負え。背負え。男は重荷を背負ったぞ!』


 カチン!ときた。何とか役に立ちたい。


 一日中考えていたら・・・


「おい、不幸神付、狩りに行くぞ」

「はい」


 村人たちと棒や石を持って、森の中に入る。

 鹿が穴に足を取られて動けなくなっているわ。

 都ではお皿おいておけば肉料理が現れるのに。


「あの、そもそも狩りとは?」

「こうやって、自然に出来た穴にはまった動物や。木にぶつかって死んだウサギや。狼が食べ残した獲物を捕りに行くことだ」


「ハッ!」


 閃いた。こちらから穴を掘れば。


「木の幹の穴に住む男さん。私に良い考えがあるの」

「何だって?」


 畑の周りに穴を掘り。木の枝を被せて隠した。これは何と言えば良いのかしら。


「ワッとはまって、俺たちは、ナーと駆けつける。ワナでどうだ?」

「良いですわ!」


 手を取りあって喜んだ。

 都では食べ物は女神様が用意してくれる。

 ここでは女神様の恩恵は届かない。


 また、柵も思いつき。畑を囲い動物の侵入を防ぐ。


 そして、私は幹の穴に住んでいる男と結婚をした。

 妊娠したら労働を免除してくれた。


「食べ物を運んでくるから出産と子育てしてくれ」

「はい、でも未経験です。都では女神様が・・・」


 ハッと思い付いた。

 村の女たち共同で子供を育てる。

 そしたら、年寄りを山に捨てなくても済む。経験豊富な年寄りは貴重だ。


 夫に話したら、即OKを出してくれた。


「いいか、40の歳になったら、山に捨てるのはやめだ。賢い不幸神付の考えだ」

「「「賛成だ!」」」


 婆は幼い子を見て、

 爺は、やんちゃざかりの子供たちの面倒を見る棲み分けができたわ。


 人口が増え。農地を増やして、家も建てるようにした。女神様が作る石の家には及ばないが、真似て木で作ったわ。


 やがて、村を柵で囲い。狼や山猫の侵入に備えるようになったわ。





 ☆50年後



 それから、50年後、殿下と妹が訪ねてきたわ。


 私は夫に先立たれて、寝床で一日中伏せっている。

 名前も変わったわ。


「不幸を解決する者よ。都から王と王妃がきました」

「・・・会いますわ」


 殿下・・・いえ、国王と妹は綺麗な身なりをしていたわ。

 その部下達の服も私達の最高階級の村長よりも上だわ。


「久しいな不幸神付、都に戻ってきて欲しい」

「お姉様、私達を助けて下さい」


「まあ、いったいどうされたの?」

 妹の後ろに女神様はおられない。加護を外されたのかしら。


「実は女神様の逆鱗に触れて・・・私達は粛清されるらしい」

「そうよ。やり直すと言っているわ。女神様は天界に行かれているの。私は加護を外れたわ。食べ物も降ってこなくなってきたわ」


「あら、まあ、ここでは毎日、生きるか死ぬかの瀬戸際ですよ」


 話を聞くと、都では民は堕落して、女神様への感謝を忘れて享楽にふけっている。

 男は引きこもり。女は女同士で固まり男に敵意をむき出しにする。

 一部の男に女が群がる。


「何故、私に帰って来て欲しいのですか?」


「女神様に対抗できるのは、その不幸神しかないと思う」

「ええ、そうよ。もう、それしかないわ。お姉様、本当にごめんなさい」


「私は寝床に伏せる身行く事はかないませんわ。

 代わりに策を申し上げますわ。都には数千の人族がいることでしょう。1人ぐらい女神様へのお眼鏡にかなう者もおりますでしょう。

 女神様が人族を滅ぼすのなら、その1人も殺すことになると献策をされては如何でしょうか?

 私にはそれしか思い浮かびません」


「もう、都は3万人だ・・・」

「増えすぎましたわ。でも、子供は生まれません」


 結局、都に行くのは断った。


 王たちが帰った後、私は村人達を集めた。老いも若きも、全て、全村集会だわ。


「不幸を解決する者、村人全員を集めました」

「大婆様、ご指示を!」


「これから、都は女神様の審判が降ります。この村も危ないです。断崖絶壁を降るのですわ」


「そんなこと可能ですか?」


「一度に降りなくても良いわ。縄を作り。途中に休憩できそうな場所に食料を置き。徐々に降りていくのよ。時間はないわ」


「そんなこと、我らに可能でしょうか?」


「私がここまで長生きできたのは、貴方たちのおかげよ。自信をもちなさい・・・ゴホ、ゴホ」


「不幸を解決する者よ!」

「大婆様を休ませるのじゃ」


「後は、ワシら、年寄り衆に任せよ」

「そうじゃ、食料を保存食に作り替えるのじゃ」

「若衆で探検隊をつくれ」

「女衆は縄じゃ!」


 私の子供達は、私を運ぶ背負い具まで作ってくれたわ。


 その数日後、都の方に燃える石が沢山落ちてくる光景を・・・教えてもらった。

 私はこのとき、目が見えなかったわ。


「大婆様がお亡くなりになられた!」

「でも、魂は我らと共に!」


 その後、私の子供達は、崖を降りた。


「ワシら、年寄り衆はここに残る」

「足弱じゃ。言い伝えによると、崖の下におりた部族もおるそうじゃ。探すのじゃ」


 崖の下は大森林だったわ。私の子供達の苦難は続いたわ。


 崖を降りた部族の生き残りはいなかったわ。

 原因は、森の種族、エルフに襲われたからだわ。


「何だ。毛無猿だ!」

「弓の的に丁度良いぜ」



「洞窟に隠れろ!」

「しかし、あの武器はなんだ。これは、ヤーと飛んで来るな・・・」

「真似しようぜ」



 でも、少しずつ学び。

 子供達は助け合ったわ。


「いいか。子供達は皆で育てるのだ!」


 長い年月をかけて、徐々にエルフを圧倒し始めたわ。


「何だ。毛無猿がこんなに沢山!」

「逃げろ!」


 エルフは最強だけども、私達は相手が10くらいの時に、100人以上で襲いかかったわ。

 エルフは団結力がないのと長寿種だから、人口は少ないみたいだわ。



 そして、ついに洞窟に隠れなくても良いようになったわ。


「フウ、洞窟をでて、森を抜けて、草大き平らな所に行くぞ」

「祭壇も忘れるな。始祖様の魂が・・・あ。祭壇が・・・壊れた。粉々になった・・」

「もう、数百の歳を数えた祭壇だよ。元は運搬具だったとか」

「「「合掌!」」」


 私は洞窟に残ることにした。

 本来、死んだら、偉大な法則の一部になるはずだったけど、私は自我を保てたわ。


 私の子供達は、やがて、平原で国をつくったけども、女神に見つかり。洪水や飢饉を起されたりと苦難の道を進むわ。


 子供達は堤防を作ったりと、飢饉用の作物を見つけたりと様々な工夫をこらしたわ。


 やがて、女神でも対抗できなくなるほどの人口を擁するようになったわ。


 女神の欲する人族は数千人で、あらゆる罪を起さない無原罪の健気な人族。大陸で数千万人を超える人口には対応出来ないみたいだわ。


 現在、ご存じの通り。大陸を北進して、魔族と膠着状態にあるわ。これも苦難なのかもしれないわね。


 未だに女神は人族の抹殺を諦めていないわ。




 ☆☆☆現在



「嘘よ。そんな話、経典に載っていないわ!」


「フフフフ、さあ、どうかしらね。でも、女神様が全知全能だったら、とっくに完璧な人族を生み出し、不幸のない世界を作っているわ」



 ・・・はあ、はあ、はあ、私はシルビア、この王国の聖女だ。

 古い洞窟の浄化に訪れたら、壁画が描かれていた。この洞窟は古の邪教の聖地だったと言い伝えがある曰く付きの場所だわ。


 壁画には、女、女神様かしら、それが、大勢の人族を天から石を降らせて殺戮している様子や、

 しつこく、洪水や日照りで人族を殺そうとしている様子が描かれていたわ。


 眺めていたら、亡霊が現れたわ。

 腰蓑と乳バンドをつけた原始的な服の人族の姿が現れて解説を始めたわ。


「フフフフ、この姿は木の幹の穴に住む男と結婚した時の姿よ」


「そんなことを聞いていないわ。女神様は慈悲を唱えているわ」


「あら、それは人族が考えたものよ。本当に女神が欲している者は無原罪の人族よ。それは経典に書かれているわね。実際は不可能よね。それに女神は何故、豪華な神殿を欲しているのかしら・・・まだ、女神の意思は健在よ」


 言い返せなかったわ。



「最近は方法を変えたわ。異世界から勇者、聖女を呼び寄せ。混乱させようとしているわ。女神らしいやり方だわ。チート能力で問題を解決させて、成長させないようにしているわ。始めは良いけども、それじゃ、後で魔族にしてやられるわね」


 でも疑問があるわ。


「不幸神はどこに行ったのよ」


「あら、貴女の後ろにいるわ」


 後ろを振り向くと、黒い縮れ毛の女がいたわ。


 片方の口角をあげて、『ククククク』と笑っているようだ。


 思念が伝わってきたわ。


『聖女シルビアよ。初代不幸神付は五色人ぞ、全人族の始祖だ・・会えて僥倖だったな。さあ、一緒に不幸を味わおうぞ!』




「ヒィ」


「では、もう行くわ。偉大な法則につながっている者よ」


 亡霊はスーと消えた。


 洞窟を出ると、殿下と護衛の騎士たちがいたわ。


「シルビア、こんな浄化に何時間をかけている!タカコなら、簡単に浄化できているぞ。全く」


「申訳ないですわ」


「え、殿下ぁ、シルビアさん可哀想だよ。こっちはチートだよ」

「だな。シルビアには荷が重たかったか」


 そう、今年、異世界からの聖女が突然、王宮の中庭に現れた。

 その可愛らしい容姿と自由奔放な性格で皆に愛されている。

 それから、殿下はキツく当たるようになった。


 洞窟の中にも入ってこない。理由はタカコがゲジゲジがいるから嫌だと言ったから、聖女タカコを洞窟の前で護衛するとのことだ。



 殿下達には不幸神が見えないらしい。

 思念が伝わってきたわ。


『ククククッ、シルビアよ。あの男は背負うのをやめたぞ!さあ、一緒に不幸を味わおうぞ!』


 殿下の罵倒よりも、不幸神の言葉の方が気に掛かるわ。

 不幸を味わおうとは、私の?それとも殿下の不幸かしら。


 しかし、殿下の罵倒はどうでも良くなった自分に気がついたわ。



最後までお読み頂き有難うございました。

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