第5話 神殿
暗く不気味な、長く苦しい滅紫の森を抜け、勇者は行き着く。
古代神殿【サンクチュアリ】に。
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過去五百年前、全人類の八割が信仰していたとされている宗教【ディビニティー】。
表向きは人の平等さを信仰する宗教であり、裏向きを表す一文がある【人の格差は、常に人ならざるものによって作られる】
魔族によって人の格差が生まれているという敵対意識を促進させるものだ。
真実か否か、定かではないが、ディビ二ティーの影響が、古来から続いている魔族との争いが絶えない理由の一つであると考えられる。
今では知る人ぞ知る専門分野であるが、その血に刻まれた、魔族拒否の概念は今でも人類の最深部で根付いている。
そんなディビニティーの聖地であるのがこのサンクチュアリ。
勇者は、静かに内部へと歩き進める。
今では誰もいないはずである、ある一つの種族を除いては。
「おい!止まれ!」
何者かの一声で勇者の動きが止まる。
「あれ?君か」
白い翼を生やした、幼い少年かのような容姿いわゆる、【守人】だ。
※守人
古来から神聖な場所や、人物を守るために生涯を費やす種族、機動力、基礎能力が共に高く、古代では魔族戦争の最高戦力と称されていた。
「早急に出ていってくれないかな」
「君たち人類には、もう期待してないから」
冷たく追い出されそうになる。
こうなってしまっているのも理由がある。
ここサンクチュアリでは、選ばれし勇者だけが持てる伝説の剣が納められている。
しかし、勇者と称されて来る、今までの全ての勇者はこの剣を扱えずにいた。
もちろん、勇者も勇者の父親も、唯一その剣を扱えたのは、初代勇者だけである。
約五百年程、次の適正者が現れないため、守人は、人類に対して軽蔑の目を向けている。
「君も一度来ただろう?僕の記憶が、正しければ1週間ほど前だ」
「剣に触れた途端、気絶したはずだ」
守人は、メモ帳らしき物を確認しながら言う。
「そんなことを話しに来たんじゃない」
「ここに剣目的以外で来る必要あるかい?」
守人は、呆れたかのように問いただす。
「守人の神、【守神】と話がしたい」
守人は、黙ってこちらを睨めつける。
「その情報、どこから入手した?」
「ただの勘だよ」
守人は、持っていたペンをへし折る。
「図に乗るなよ」
守人は背中から槍を取り出す。
「私も、好きにあんた殺したいわけじゃない」
「正直に言え、誰から聞いた?」
勇者は、じっと守人を見つめる。
騒ぎを聞きつけた他の守人が集まってくる。
「落ち着いてください、ティミー!」
少女の守人が止めに入る。
「離せ……どうやら守人は知らぬ内に舐められていたようだ」
「どういうこと?」
「たかが人間が守神に会わせろと言った」
ガヤが騒がしくなる。
「ここで奴を殺すのが我々、守人の使命だ」
ティミーと言ったか、その守人は血のついた槍で勇者に突き刺そうとしたとき。
「ありがとう、もう大丈夫だ」
勇者の発言に動きが止まる。
「お前…何を言って…」
「もう守神に会えた」
そう言いティミーを無視し一人の老人に歩みを進める。
「儂になんか用かね?」
白髪で支えの杖を持った弱々しい老人だ。
「お初にお目にかかります、守神様」
勇者は、跪く。
同時に全ての守人が跪く。
「ほっほっほ、よかろう」
老人の肌にヒビが入り、本当の姿が垣間見える。
白銀の翼を6つ携え、頭上には上位存在の印である天使の輪っかが、足と腕には金色の輪が、上裸にシルクの布を被った美青年。
まるで神話に出てくる天使のような、そんな姿。
「僕に会いたかったんだっけ?」
一言一句が魅了の術のような声。
「あぁ…苦労したよ」
守神は、ニンマリと笑みを浮かべる。
「さて、この全知全能の神である僕に……」
「何が聞きたいの?勇者君」
その勇者の目は深淵のように暗く、悍ましかった。
「魔王の倒し方」