第3話 衝突
勇者を追いかけようとするタリオスを村長が止める。
「村を助けてください!!」
タリオスの体に抱きついて懇願する。
「くそぉぉ!!」
タリオスは魔物の方向へと走り出す。
勇者は、この場から逃げ去った。
〜〜〜
勇者は、逃げた何処までも。
「はぁ……はぁ……はぁ…」
方向も分からぬまま、その場から離れたい一心でここまで逃げてきた。
「は…はは…」
ふと上を見上げる、雨が降ってきた。
「結局何も変わらないのにな……」
「せめて……家族の顔でも……見に行きたい……」
〜〜〜
マトラ村
数十体もの魔物の死体が山のように積み上がっていた。
「これで終わりか」
タリオスの身体には魔物特有の青色の血がこびりついていた。
「あ、ありがとうございます!戦士様!」
そんな言葉タリオスの耳には、届いていなかった。
今は、逃げた勇者を追いかけようと必死になっている。
「俺は勇者を追いかけに行く、後の2人は任したぞ」
「は、はい」
その返事を聞いた瞬間、目にも留まらぬ速さで移動する。
「勇者…様?」
一足先に目覚めたパリスが会話の一部始終を聞いていた。
〜〜〜
「雨が降ってきたな……視界が悪くなる…」
タリオスは、森を駆け抜けていた。
「!!!」
上を見上げている勇者を見つけた。
「おい!!相棒!!」
その言葉に反応しタリオスの方を見る。
「どうやっても…君は来てしまうんだね……」
よく見ると勇者の周りには大量の血が残留していた。
「なんだ…魔物に襲われたのか?」
「そんな事を話しに来たんじゃ無いだろう」
タリオスは、唾を飲み込む、いま目の前にいるのはいつもの勇者じゃない。
タリオスには、まるで別人かのように映っていた。
「なぁ…何で逃げるんだ?」
「これでも5年間の中だ…相棒が魔王を前に怖気づいたんじゃ無いことは分かってる」
「だからこそ理由がわからねぇんだ……」
雨の音が静寂を包み込む。
「何か言ってくれよ……俺たちは仲間じゃなかったのか?」
「仲間だと思っていたのは、俺だけだったのか?」
勇者は、黙ってタリオスを見つめている。
「もう……いい加減にしろよ!!」
「黙ってばっかで、ここでも逃げるのか!!」
タリオスは、涙を流していた。
「魔王は…強かったか…」
「はぁ…?」
「魔王は…強かったか?」
意味のわからないことを言う勇者に、苛立ちを隠せない。
「ああ!強かった、正直お前が居ても負けてたぐらいに…」
「それが今関係あるか!?」
勇者は、顔色一つ変えない。
「仲間は好きか?」
「はぁ?」
さっきから会話が成り立っていないことに、より腹を立てる。
「当たり前だ…少なくとも俺は全員が好きだった!」
「だから今それが!!何の関係が!!」
「……………」
勇者は、涙を流していた。
5年間過ごしていたタリオスも観たことがない勇者の涙に困惑する。
「俺も四人全員が好きだった」
「全員が幸せになってほしいと切実に願っていたし、こんなことに巻き込んだことを後悔していた」
「タリオス……君は信じないだろうが……」
「これが、最善策だったんだ」
タリオスは、黙って大剣を勇者に向ける。
「最善策?何ふざけたこと言ってやがる!!」
「お前が逃げたかっただけだろ!!」
タリオスが、今剣を振るえば勇者は死ぬ。
そんな緊張状態が続いていたとき。
「タリオス?何をしているのですか?」
パリスが後をつけていたのだ。
「パリス、今目の前にいるこいつは勇者じゃねぇ!!」
「ただの腰抜けだ!!」
その怒号には、悲しみが詰まっていた。
「落ち着いてください!タリオスさん!」
「パリス、お前も現実を見るべきだ」
「少なからず勇者を見た瞬間思っただろう?」
「勇者は、逃げんじゃないか…ってな」
パリスは、タリオスに向かって言い放つ。
「口を慎んだ方が良いですよ……状況が状況ですから」
パリスの持ち武器である、杖をタリオスに向ける
「お前もそっち側かよ……」
タリオスは2人を睨めつける。
「そっち側も何もないでしょう…ただ貴方が早とちりしているだけです」
沈黙の間が訪れる。
やがてその均衡は、タリオスによって解かれた。
「俺は、故郷に帰る」
「!!!」
「貴方…シリアのことを忘れたわけじゃないですよね…」
「今、満身創痍の俺たちが助けに行けると思っているのか?」
「あれは、勇者様が居なかったから…」
「変わんねぇよ、そいつは今の状況が最善だと言ってるだ」
「そんな奴が魔王を前に戦えやしない」
「勇者様…今の状況が最善だと仰ったのですか?」
勇者は黙ったままである。
「沈黙は肯定だろ?」
「俺たちは、今すぐに帰って支援を求めるべきだ」
「そんなの…シリア様が耐えられない!」
「その覚悟であいつは俺たちを逃がしたんだ!!!」
「………」
「もういいです…好きにしてください」
「あぁ…好きにさせてもらうよ」
「気をつけろよ、そいつすぐ逃げるから」
タリオスは、その場を離れた。
「勇者様どうします……か……?」
パリスが気づいた時には勇者は居なかった。
勇者は、その場から逃げた。