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19.
「……っ」
――唐突に、小姫は目を開けた。
暗闇の中、天井が視界に映る。秒針が時を刻む音が、静かな室内に響き渡る。
まだ、真夜中だ。誰もが寝静まり、少し身じろぎをしただけの音がやけに大きく鼓膜を震わす、そんな時間に。
――なぜ、目が覚めたのだろう。
夢をみていたような気がする。立体感があって、体にも心にも負荷がかかる、現実とさして変わらない、そんな夢。
なんとなく目元に違和感を抱き、小姫は右手で頬に触れた。そこで、胸を突くような痛みに襲われた。
頬に、涙のあとがあったのだ。
なんで、とつぶやく声が、夜の静寂を破る。
――なんで。なにが。この涙の原因は何――……。
わからないまま、また一つ、水の粒が生まれ――。
前の跡をたどって、頬を滑り落ちていった。