5.
「――お嬢さん! 大丈夫でしたか?」
学校から帰宅したとたん、小姫は玄関で肩をつかまれた。血相を変えた様子に驚き、しばし声を失ってしまう。
「……び、びっくりした。青峰さん。帰ってたんですね」
ほっとして笑顔をつくると、正面の彼も安心したかのように頬を緩ませ、手をほどく。
青峰は小姫の家に通いで来ている大学生だ。代々、調停者と村長を兼任してきた日浦家だが、「世襲制なんて時代錯誤」との弥恵の言により、調停者見習いとして数年前から出入りしている。弥恵が忙しい時は、食事や掃除などの家事もしてくれる、親切で面倒見のいい青年だ。
「すみません、私が帰省なんてしている間に……」
「いえ、青峰さんが気にすることじゃないですよ」
彼は、真面目すぎるきらいがある。「お嬢さん」扱いなんてこそばゆいだけなのだが、何度言っても彼の態度は変わらない。今回のことも、気にするなというだけ無駄だろう。
気を取り直して弥恵の居場所を聞くと、今は村の会合で出ているという。
「そっかあ。事故のこと、聞こうと思ったのに……」
「事故のこと?」
「私、昔、交通事故に遭ったんです。青峰さんは知らないですよね。うちに来たの、その後だから」
乙彦の話を聞いて頭に浮かんだのが、十年前の事故のことだ。
小学生の頃、小姫は交通事故に遭ったらしい。らしい、というのは、小姫に当時の記憶がないからだ。
後で聞いたところによると、小姫はかなりの重傷を負い、そのため、ショックで記憶を失ったのではないかということだ。その時に、妖怪をひとり助けたのだと、弥恵が言っていた。相手はすぐに姿を消したので、何者かは不明のようなのだが……。
(……乙彦が、その妖怪かと思ったんだけど……)
帰り道でも聞いてみたが、彼は何も教えてくれなかった。だから、弥恵に確かめようと思ったのに。
「ああ、そのことでしたら、私も噂程度なら聞いたことがあります」
「え、そうなの?」
「はい。でも……。私が聞いたのは、あれです。根も葉もないでたらめというか、面白おかしく改変された作り話みたいなものというか……」
言いにくそうに、青峰が言葉を濁した。だが、小姫が食い下がると、やむなく口を開いた。
「あくまで噂なんですが……、その場にいた妖怪が、何かを食べているように見えた、と聞きました」
「……何かを食べていた……?」
小姫は首を傾げた。
それは、何の話だろうか。確かに妖怪が出てくるが、小姫が遭った事故とは何の関係もないように思える。
青峰はやはり気が進まない様子で、だが、意を決したように口を開いた。
「そうです。そして、その妖怪が食べていたのが――」
――道端に倒れている、女の子の腕と足のようだった、と。