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妖怪村の異類婚姻譚  作者: 鍵の番人
第三章 花と香りと、特別な約束
41/81

4.

 一方、目の前でぴしゃりと扉を閉められた乙彦は、呆気にとられたように二、三度、瞬きをした。が、すぐに気を取り直す。


 小姫の言動がおかしなことには慣れている。恋愛事に傾倒(けいとう)し、理想の彼氏がどうの、理想の結婚がどうのと事あるごとに口上を述べるのも、最初は理解できなかった。人間の娘はやはり不可思議だとつくづく思ったものだ。


 しかし、最近はそういった行動がすっかり鳴りを潜めている。理想とやらを断念したのなら万々歳(ばんばんざい)だが、あの頑固な娘がそんなに簡単に諦めるとは思えない。もしや、また裏でこそこそと企んでいるのではないか……と考えたところで、乙彦は思考を切り上げた。


 もし、小姫が本当に何かを隠していたとしてもかまわない。彼女はわかりやすいから、すぐに尻尾を出すに決まっている。それに、どんなに足掻(あが)いたところで、小姫の婚約者は乙彦しかなりえないし、他の誰かを希望したとしても認めることは絶対にない。


 そう納得すると、乙彦は玄関から一歩下がった。母親の弥恵が戻ってくるまで、いつもの場所で見守っていよう、そう思ったとき、ふと、背後に視線を感じて振り向いた。


 小姫の家の前を通る道路には、並行して流れる川があり、その川を渡って山道を少し登れば丘に出る。見られているとしたら、その山か川の方からかと思ったが、もともと人通りの少ないこの辺りには、それらしき人間も妖怪も見当たらなかった。

 念のため、しばらく周囲を警戒してみたが、先ほどの突き刺すような強い視線は、もうどこにも感じられない。


「……気のせい、なのですか……」


 扇子を広げて口元を隠し、そうつぶやく。しかし、完全に警戒を解く気にはなれず、普段よりは近くの木の枝に陣取った。そうして、弥恵の帰りを待つも、とりたてて変わったことはなくその日は終わったのだった。


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