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妖怪村の異類婚姻譚  作者: 鍵の番人
第三章 花と香りと、特別な約束
39/81

2.

「――っ!」


 声にならない叫び声をあげて、小姫は飛び起きた。

 心臓がバクバクと鳴っている。冷や汗で額が湿っている。ゆっくりと周囲を見渡して、白い空間ではなく、真っ暗な室内にいることを確認した。


「……夢……?」


 自分のかすれた声が耳に届いたことに驚く。さっきはあんなに力いっぱい叫んでも、一言も声にならなかったのに。

 憎しみを形にしてぶつけられた感じがした。それは重く鋭い矢じりのように、胸の深いところに突き刺さっている。頭の中では甲高い声が、繰り返しガンガンと響いている。



 ――よくも、騙したな……。


 ――絶対に、許さない……!



(……ほんとうに、ただの、夢……?)


 それにしては生々しく、意味のないものとして片づけるには真に迫りすぎていた。そこまで恨まれるほどの過去が、小姫の中に眠っているのだろうか……。

 急に恐ろしさを覚えて、小姫は身震いをした。天井へ、そして部屋の外へと視線を移してから、のどに手を当て、深呼吸を繰り返す。


 ――大丈夫だ。何があったとしても、乙彦と弥恵がいるのだから……。


 そう、何度も言い聞かせた。呼吸が落ち着いたのを確かめて、もう一度布団にもぐる。

 しかし、鼻を突く甘い香りは言いようのない不安と混ざり合って、しばらくの間、小姫を(さいな)み続けたのだった。


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