2.
「――っ!」
声にならない叫び声をあげて、小姫は飛び起きた。
心臓がバクバクと鳴っている。冷や汗で額が湿っている。ゆっくりと周囲を見渡して、白い空間ではなく、真っ暗な室内にいることを確認した。
「……夢……?」
自分のかすれた声が耳に届いたことに驚く。さっきはあんなに力いっぱい叫んでも、一言も声にならなかったのに。
憎しみを形にしてぶつけられた感じがした。それは重く鋭い矢じりのように、胸の深いところに突き刺さっている。頭の中では甲高い声が、繰り返しガンガンと響いている。
――よくも、騙したな……。
――絶対に、許さない……!
(……ほんとうに、ただの、夢……?)
それにしては生々しく、意味のないものとして片づけるには真に迫りすぎていた。そこまで恨まれるほどの過去が、小姫の中に眠っているのだろうか……。
急に恐ろしさを覚えて、小姫は身震いをした。天井へ、そして部屋の外へと視線を移してから、のどに手を当て、深呼吸を繰り返す。
――大丈夫だ。何があったとしても、乙彦と弥恵がいるのだから……。
そう、何度も言い聞かせた。呼吸が落ち着いたのを確かめて、もう一度布団にもぐる。
しかし、鼻を突く甘い香りは言いようのない不安と混ざり合って、しばらくの間、小姫を苛み続けたのだった。