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妖怪村の異類婚姻譚  作者: 鍵の番人
第三章 花と香りと、特別な約束
38/81

1.


 季節はずれの芳香が鼻をくすぐった。


 鮮烈な印象を植え付ける柑橘系の香り。しかし、その香りはあまりに朧気(おぼろげ)で、確かに知っているはずなのに、その像を結びつけることはかなわない。

 次いで、先を見通せないくらい分厚い霧の向こうから、甲高い声が聞こえてきた。



 ――お前のせいだ。お前の……!


 ――よくも騙したな……。


 ――二度と……、二度と、許さない……っ!



 その悲痛な声は吸いこんだ空気とともに肺に吸収され、胸が苦しくなるほど締め付けてきた。

 圧迫感から逃れようと、聞こえてくる声を必死に否定した。だが、自分の否定する声は、なぜか耳に届かなくて。

 


 ――違う。違う。そんなつもりじゃない。


 ――そんなつもりじゃなかった……!


 ――私はただ……!



 その思いは声にならず、心の中だけで反響した。

 相手の声は聞こえてくるのに、自分の声は届かない。

 どれだけ叫んでも、届かない……。



 ――そうして、声だけでなく、すべてを失った――……。


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