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妖怪村の異類婚姻譚  作者: 鍵の番人
第二章 花と光と、小さな熱
34/81

21.

 だが、どこに向かえばいいのだろう。

 先ほどもあんなに探し回ったのに、乙彦が自ら現れるまで見つけることはできなかった。いくら耳がよくなったといっても、雑音がうるさすぎて、目当ての音だけを聞き取るなんて不可能に思える。


 しかし、ある程度動き回っているうちに、聴覚の方は慣れてきた。全部ごっちゃになって飛び込んできていたのが、取捨選択できるようになった感じだ。これならば、乙彦がぶつぶつ独り言でもつぶやいてくれれば、遠くからでも声を拾えそうなものなのだが――。


(うう、もう、足痛い……、家に帰ろうかなあ……)


 先に体力の限界が来た。慣れない下駄で足は痛いし、走り回ったせいで、ふくらはぎも、ふとももも筋肉痛だ。何より、猫耳と尻尾をつけた状態で人込みをうろつくのは、精神の疲労が激しすぎる。耳はお面で隠してみたが、両側に二つお面をつけている女というのもイタイ格好に違いない。

 戦々恐々(せんせんきょうきょう)としながら会場を一周したところで、スマホが着信を知らせた。何気なく画面を見てしまって後悔した。それは五月からだった。


(あ……)


 彼に連絡をするのを忘れていた。


 ――いや、忘れていたというよりは、忘れてしまいたかったのだ。彼に会ってしまったら、言いにくいことを言わなければならないから。


(あれ……私……)


 そう、自然に考えてしまった時に、気が付いた。急にすとんと、腑に落ちた。


(――ああ……そっか。私……本当はずっと、こうしたかったんだ……)


 すでに、選択肢はなかった。今ならまだ忘れられるなんて、そんなわけがなかった。無理やり理想の型にはめようとしても、手遅れだった。小姫の心はもう、たった一人だけを選んでいたのだ。

 五月のおかげで、気づくことができた。しかし……そのために、彼を傷つけなければいけない。


(……もし、このまま無視してしまえば……、気づかないふりして帰ってしまえば、きっと、五月君もどういう意味か察してくれる。あとは、学校で会っても、何事もなかったようにふるまえばいい。それなら、返信しなくていいし、直接会って話をするなんて嫌な思いをしなくてもいい……。その方が、きっとお互い、楽だ。……でも……)


「…………」


 小姫は画面を見つめ、立ち尽くした。だが、やがて決心して、スマホを操作した。


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