12.
……どれだけ時間が経ったのだろうか。
暗闇に走る光に刺激され、小姫は目を開けた。
「――お嬢さん!?」
光源に目が慣れるよりも早く、駆け付けた青峰に抱き起こされる。
「……青峰さん? どうしてここに……」
「いつまでも帰って来ないから、探しに来たんですよ! 近所の人が、お嬢さんが山に入ったのを見かけたって……。それで、なんとなく地面の濡れているところを辿ってきたら、ここに着いたんです」
青峰は懐中電灯を下ろし、心底ほっとしたようにため息をついた。
(地面の、濡れているところ……?)
そんなところあっただろうか。
ぼうっと考えていると、青峰が腕を引っ張って、小姫を立たせてくれた。
「さあ、雨が降る前に帰りましょう!」
「――あっ……。待って! まだ、乙彦が――」
促されて数歩歩きかけてから、小姫は立ち止まる。
「乙彦? ってあの、河童の? ……いえ、ここにはお嬢さん以外誰もいませんでしたよ」
「そんなはず……」
そんなはず、ない。だって、さっきまで、一緒に――。
小姫はそう言いかけたが、最後まで言えずに口をつぐんだ。乙彦のいたはずの場所を振りかえってみると。
……青峰の言う通り、洞窟にはもう、誰の姿も無かった。