時間がどうにかしてくれる
それでも、俺は腕を振るのをやめなかった。
オタクなら、アイドルにとってスキャンダルがどれほどの重みがあることかを知っている。
それなのに、友達なのに。
許せない。
俺はいつの間にか、ベッドの上でマウントポジションを取っていた。
右腕を振りかぶる。
「やめて!」
何か柔らかいものが突っ込んできて、ベッドに倒された。
「話くらい聞いてよ」
志田の涙目がそこにある。
「ごめん」
俺はまた、志田に助けられた。
長田がベッドから降りて、再び璃奈の隣に膝をつく。
乱れた髪と服。
唇の端が切れて、血が出ている。
「なんでそんなことしたのか説明して」
志田は、しゃくりあげながら、でも確かな声。
「璃奈ちゃんと仲良くなって、相談に乗るようになった」
長田がポツリと言う。
「外で二人だけで会ったらダメなことくらいわかるでしょ」
「写真撮られた日は、たまたま会っただけだ。」
「たまたまならいいのかよ!」
「落ち着いて!」
志田が間に入る。
璃奈はずっと下を向いている。
「璃奈が、・・・・・・璃奈が、お前のことを好きだって言ったんだ」
「そうなのか?」
長田は悲しそうな、うれしそうな変な笑顔で璃奈を見る。
璃奈は何も言わずに、ほんの少しだけ、首を動かす。
「そうか。」
長田の呟きは、明日世界が終わることを知らされた主人公のそれだった。
「ごめん。璃奈ちゃん。」
「ううん。ううん。」
涙声で璃奈は首を横に振る。
元気のないツインテールがゆらゆら揺れる。
「璃奈ちゃんも勇人も傷つけて悪かった」
長田が頭を床につける。
「もう顔を上げてよ。」
「璃奈ちゃんと仲良くなった長田くんも、長田くんを好きになっちゃった璃奈ちゃんも悪くないよ」
志田は泣き止んでいた。
冬。
めちゃくちゃ寒い。
東京ごときでこんなに寒がっている俺は、北海道や東北になんか住めないだろう。
そんなに寒いというのに、街を歩けばカップルばかり。奴らは二人で密着して歩くことで、体を温めているのかもしれない。もしそうであるなら、俺の方が動物として強いはずだ。
別に誰かと密着しなくても街を歩けるくらいの体温調節ができるのだから。
まぁ、人間として強いかどうかは知らんけど。
そして、高3の冬と言えば受験勉強である。
「受験生のクリスマスは苦しみます」なんて宗教観を冒涜するような言葉があるように、受験生の冬と言うのは、人によってはかなり苦しいものである。
日本中の受験生に話を聞けば、一人くらいはハチマキに「合格」と書いて、徹夜している人もいるのかもしれない。
そんな中、俺たちは秋や夏どころか、1年の時とほとんど同じような生活を送っていた。
危機感が足りないと言えば、足りないのだろうが、「結局のところ合格発表の日までドキドキするくらいなら、心配なんかしないでいつも通りにしていた方がいい」という合格の哲学みたいなことを、倍率が千倍を超えるオーディションを中学生で合格した璃奈が伝授してくれた。
それを言い訳にして、今日も俺たちは部屋に集まっていた。
もちろん少しは勉強もした。
朝起きて、昼過ぎまで勉強して、昼ご飯を食べて、志田が来て、長田が来て、それからまた少し勉強した。
それだけやったなら、ちょっとくらい遊んでもいいだろう。
「何時配信だっけ?」
「「6時」」
志田と璃奈の声がかぶる。
「あと10分かー長いなー」
「お前、一時間くらい前から、同じことしか言ってないぞ。壊れかけの?」
「レディオ」
「お前、ラジオだったのか?」
「ちげーよ」
いつもより甘い目のツッコミをしながら、長田はディスプレイを凝視する。
目からビームが出るタイプのモンスターと同じような感じだ。
それか、画面の向こうの電脳世界に意識を飛ばしているのか。
どちらにせよ、長田は心ここにあらずといった雰囲気で、璃奈と志田は百合フィールドを展開していた。
百合フィールドは何人たりとも侵すことのできない心の壁。
逃げちゃだめだ。
「璃奈、どんな曲なんだ?」
「今から聞くんだから、別にいいでしょ」
「そうだよね―璃奈ちゃん」
「水希さーん」
二人の百合フィールドは強力だ。
もしかすると、日本全国の電力をブッ放っても、破れないかもしれない。作戦部長も白旗を上げる作戦に賛同するだろう。
「通知来たぞ!」
長田の一言に、俺たちは振り向いた。
続編書こうか迷ってるので書いてほしい人はコメントください。
一つでもコメント来れば書きます。
これにて完結です。五年ほど前、高校生の頃に書いたものですので拙いものですが、最後まで読んでくれた方ありがとうございました。




