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シークレットサイド

 後ろ手にドアを閉める。ガシャンと音をたてないように、そっと静かに。


 このドアを閉めたのは初めてかもしれない。


 見慣れたドアなのに、なんだか変な気持ち。


 これまで大体は、北山くんが通りまで見送ってくれた。雨の日も、寒い日も。


 「じゃあな」

という彼の声に、

「またね」

と言うと、

「おう」

と彼は言う。


 雨に濡れながらでも。


 彼は優しい。


 この前も、クラスの女の子が筆箱を机から落として、中身が全部出てしまった時に助けてくれたと言っていた。



 彼が優しいという話題は三十秒と続かずに、話題は昨日のテレビの話に移った。

 彼は教室の隅で、音楽を聴いていた。



 彼は、自分が嫌いとか何もわかってないとか言っていたけど、やっぱり優しい。

普通の人は、お見舞いに来た人を見送ったりなんてしないはず。


 優しくないのは、私の方。


 風邪でベッドの上で寝ている人に、泣きながら何十分も話をさせるなんて。


 それに、私はきっと彼の力にはなれてない。話をさせて、それを聞いた。ただそれだけだから。


 ただ彼に苦しい思いをぶり返させただけ。もしかしたら、私が尋ねてきたせいで、また熱が上がるかもしれない。


 でも、その方が私にとっては都合がいい。


 学校では喋れないけど、北山くんの部屋で二人きりなら何でも喋れるし、もっとそうやって二人で居たい。


 なんて、そんなことを考えている私を、閻魔大王は、きっと許してくれないだろう。


 アヌビスでも、ミーノスでも、きっと同じ。


 もし私だったら、こんな人は地獄行きだって思うから。


 だから、この気持ちは誰にも言わない。


 これを言っちゃうと、私はもっと悪い人になってしまう。


 肩にかかるカバンが重い。お見舞い用に買ったポテチは、結局渡せなかった。その袋が、カバンを膨らませている。


 足取りも重い。長い間ずっと座っていたからかもしれない。でもそれはきっと違う。


 自覚したから。


 沈みかけて、おでんの大根の一口目みたいになった夕日が私を照らす。


 太陽は、老若男女問わず、照らしてくれる。


 そのおかげで、北山くんには私の顔がはっきり見えなかったはず。


 赤くなったほっぺたも、赤くなってしまった耳も、上がってしまった心拍も。


 彼はきっと気づいていない。


 でも私は、気づいた。


 私が、熱があるかもしれないことに。



 彼の家の花壇の黄色いプリムラの花びらが、夕日を受けてオレンジ色に見えた。


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