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逃避行

 外はまだ真っ暗で、寒さが皮膚に突き刺さる。ところどころで光る街灯も、自動販売機も冷たい。



 濡れた頬の皮膚が突っ張る。

 裸足で冷え切ったアスファルトの上を歩き続けた足には、もう感覚がない。

 現実からの逃避行。



 俺はいつの間にか、公園まで来ていた。昼間にはジョギングをする人や、池でボートに乗る人などにぎわっていても、この時間には誰一人としていない。


 赤、黄の木々も夜の闇に飲まれている。


 「俺は、何もしてあげられなかった。ごめん」

 口をついて出たのは、麺と向かっていえなかった謝罪の言葉。懺悔の言葉。

 俺には、璃奈に文句を言う資格なんてない。


 璃奈の言うとおりだ。

 「何がファンだ。お兄ちゃんだ。」

妹の助けになることもできず、それを謝ることもできない。


 「最低だ」

 何も知らないくせに、

「クソッ!」

ベンチを殴る。


 拳に血がにじむ。


 そんな自分が大嫌いだ。

 自分が悪いと、悪の根源だと知っていながら、結局は痛みで気持ちをごまかす。

 償った気になる。


 責任からの逃避行。


 エゴイスティック。

 醜い。

 穢い。

 いくら言っても言い足りない。


 池に向かって吐き続ける俺を、畔の水仙の花が見つめ返した。



 「勇人。もう行くから、ちゃんと安静にしていてね」

母親がドアの向こうからそう言って、仕事に行った。


 もうすぐ九時。

 俺はまだベッドの上にいる。


 俺は見事に風邪を引いた。


 汗で濡れたシャツとズボンで2時間以上も外にいたのだから、当然の報いだ。

 と、普段ならそう思っていたのかもしれないが、こんなことが自分のしたことの報いになるとは、到底思えない。


 俺はまだ、璃奈に謝ることすら出来ていない。


 深夜の公園でああだこうだと情けない自分に文句を言っただけだ。

 まだ何もしてない。

 体温計をわきに挟む。

 38.5

 猛暑である。


 「とりあえず、寝よう」

俺は十数時間ぶりに、頭から布団をかぶった。

 


 俺の目を覚ましたのは、スマホだった。鶏の鳴き声を設定しているアラームではなく、ぽよよーんという着信音の方だ。


 「もしもし」

「やっと出た。北山くん大丈夫?」

志田だ。


「夜中に薄着で外居たら、風邪ひいた」

「何やってんの?」

「いや、だから」

「とにかく、放課後家行くから!安静にしてねお大事に―」

ずいぶん早口でまくりたてて、志田は電話を切った。


 「何をそんなに急いでるんだ」

志田が来るであろう五時前にアラームをセットして、俺はまた眠りに落ちた。


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